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新たな仲間は有能です
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「へ、ヘイス、ティン……?」
「ヘイスティングスです。言い難ければウェルド、とお呼びください」
顔を上げてにっこりと笑う姿は、ネヴィルとは違って本当に優しそうな青年って感じだ。
だけど忘れてはならない。
この人はいろんな犯罪に手を染めていて、それであの立場にまで上り詰めたということを。
でも、僕には絶対服従みたいな感じらしいから……大丈夫なのか、な?
そんなことを思いながら、僕はちょっと顔を引き攣らせながら「これからよろしくお願いします」と言ったのだった。
ウェルド(ネヴィルのことを呼び捨てなのでウェルドさんも呼び捨てになった)が仲間になってから一週間が経ち――僕の生活はそれなりに快適になっている。
まずウェルドには僕やネヴィル、使い魔達について全て話した。
ウェルドに知っててもらっていた方が、今後の行動など様々な助言がもらえると思ったからね。
最初は全く信じてもらえなかったから、一滴でも口に含めば昇天してしまうような猛毒を購入してきて、それをウェルドの目の前で一気に飲み干し――吐血して死んで生き返る、というのを目の前で見せたら信じてもらえた。
ドン引きしてたけど。
そんなウェルドには、手始めに僕の全財産を管理してもらうことにした。
横領などしていた人間にそんな大事なことを任せて大丈夫なのか? と心配になるかもしれないけど、僕に絶対服従のため「お金の管理はちゃんとしてください。横領無駄遣い禁止!」と伝えたら、その通りにちゃんとしてくれるので大丈夫。
あと、さすが一国の宰相を務めていただけあって、自国の他に他国のことについても博識で、僕の空白の期間に何があったのか分かりやすく説明してくれる。
買い物へ一緒に行き、今の時代の通貨の価値や、商品の適正価格などいろいろなことも教えてくれる。
ネヴィルはウェルドのことを下僕というけど、僕にとっては教育係みたいな存在だ。
一緒に町中を歩きながら横目でウェルドを見る。
老人から若返ったウェルドは、男性らしいと言うより中世的な外見をしている。
少し細身な体付きだけど、女性らしいと言うわけではなく筋肉はちゃんと付いているようだった。
ただ圧倒的美貌を誇るネヴィルの外見とは違い、ウェルドは花で例えると……白百合のような楚楚とした姿をしている。
肩まである髪を片耳にかけると、僕の視線に気付いたのか「どうしました?」と首を傾げる。
なんでもないと首を振りつつ、前を見て歩きながらウェルドが家に来てから今までのことを思い出す。
ウェルドが処刑を逃れたあの日、ネヴィルは魔法を使ってあの広場にいた人達全員に『宰相が処刑された』といった記憶を植え付けたらしい。
いつの間にそんなことをしたのか全く分からなかった……
そしてネヴィルが土で作った『人形』の首が首都にある城壁に晒され――この世から『ヘイスティングス・ウェルド・エンドリクサー』は完全に消え去ったのである。
聞いた話、ウェルドは既婚者ではあったけど十年前に奥様は亡くなっており、子供は二人の間にいなかったので親戚筋から後継者を探すことになってはいたみたいだけど、謀反の罪で家自体が取り潰しになった時に皆他国に逃げているんだって。
自分の存在や生きた証が完全に無くなってしまったことに寂しくは思わないのかと気になったんだけど、ウェルドは意外と清々しい表情をして「新たに生まれ変わった今、そんなことは些細なことです」と言っていた。
どうやら彼にとっては些細なことらしい。
それから家に帰り、僕達は今後どうしていくのかという話し合いをすることになった。
先輩方から貰った金貨は使えば消費され、湧き出て来る訳ではない。
ネヴィルに頼ろうにも直ぐに人の記憶を操作しようとするから、それ以外の方法があるのならそっちを試したい。
なので、まずばこの国の元宰相であられるウェルドに相談することにした。
「そうですね……私はこの国を出た方がいいと思いますね」
「そうなの?」
「私が言うのもなんですが、国の中枢が腐りきっていますからね。王は金を湯水のように使う散財好きな若い王妃の言いなりで、ここ数年で王室の権威は失墜したと言ってもいいでしょう。まぁ、お蔭で私が自由に国を動かすことが出来ましたが。ですので、この国にいても未来はありません」
「じゃあどこがいいの?」
僕がそう問えば、ウェルドは少し考えてから口を開く。
「ここから南に国二つほど離れたところに『コクターバ』という小国があります。そこはお勧めですね」
「コクターバ……名前だけは知ってるかな」
「魔法師が多く住んでいるのと、魔獣から出る『コア』の取引がかなり盛んだといわれています。そこで国が公認しているギルドに登録して、純度の高いコアをひと月五百個ほど国に納めれば、税金が半額になるらしいんですよ」
「半額!」
それは凄い。
「なので、私的にはコクターバ国をお勧めします。住んでて合わないと思いましたら、その時にまた移動すればよろしいかと」
「その国にはいつ頃行こうか?」
「そうですね……なるべく早くこの国から離れた方がいいと思います」
ウェルドの勧めで、僕達は数日中にお引越しをすることが決まったのだった。
「ヘイスティングスです。言い難ければウェルド、とお呼びください」
顔を上げてにっこりと笑う姿は、ネヴィルとは違って本当に優しそうな青年って感じだ。
だけど忘れてはならない。
この人はいろんな犯罪に手を染めていて、それであの立場にまで上り詰めたということを。
でも、僕には絶対服従みたいな感じらしいから……大丈夫なのか、な?
そんなことを思いながら、僕はちょっと顔を引き攣らせながら「これからよろしくお願いします」と言ったのだった。
ウェルド(ネヴィルのことを呼び捨てなのでウェルドさんも呼び捨てになった)が仲間になってから一週間が経ち――僕の生活はそれなりに快適になっている。
まずウェルドには僕やネヴィル、使い魔達について全て話した。
ウェルドに知っててもらっていた方が、今後の行動など様々な助言がもらえると思ったからね。
最初は全く信じてもらえなかったから、一滴でも口に含めば昇天してしまうような猛毒を購入してきて、それをウェルドの目の前で一気に飲み干し――吐血して死んで生き返る、というのを目の前で見せたら信じてもらえた。
ドン引きしてたけど。
そんなウェルドには、手始めに僕の全財産を管理してもらうことにした。
横領などしていた人間にそんな大事なことを任せて大丈夫なのか? と心配になるかもしれないけど、僕に絶対服従のため「お金の管理はちゃんとしてください。横領無駄遣い禁止!」と伝えたら、その通りにちゃんとしてくれるので大丈夫。
あと、さすが一国の宰相を務めていただけあって、自国の他に他国のことについても博識で、僕の空白の期間に何があったのか分かりやすく説明してくれる。
買い物へ一緒に行き、今の時代の通貨の価値や、商品の適正価格などいろいろなことも教えてくれる。
ネヴィルはウェルドのことを下僕というけど、僕にとっては教育係みたいな存在だ。
一緒に町中を歩きながら横目でウェルドを見る。
老人から若返ったウェルドは、男性らしいと言うより中世的な外見をしている。
少し細身な体付きだけど、女性らしいと言うわけではなく筋肉はちゃんと付いているようだった。
ただ圧倒的美貌を誇るネヴィルの外見とは違い、ウェルドは花で例えると……白百合のような楚楚とした姿をしている。
肩まである髪を片耳にかけると、僕の視線に気付いたのか「どうしました?」と首を傾げる。
なんでもないと首を振りつつ、前を見て歩きながらウェルドが家に来てから今までのことを思い出す。
ウェルドが処刑を逃れたあの日、ネヴィルは魔法を使ってあの広場にいた人達全員に『宰相が処刑された』といった記憶を植え付けたらしい。
いつの間にそんなことをしたのか全く分からなかった……
そしてネヴィルが土で作った『人形』の首が首都にある城壁に晒され――この世から『ヘイスティングス・ウェルド・エンドリクサー』は完全に消え去ったのである。
聞いた話、ウェルドは既婚者ではあったけど十年前に奥様は亡くなっており、子供は二人の間にいなかったので親戚筋から後継者を探すことになってはいたみたいだけど、謀反の罪で家自体が取り潰しになった時に皆他国に逃げているんだって。
自分の存在や生きた証が完全に無くなってしまったことに寂しくは思わないのかと気になったんだけど、ウェルドは意外と清々しい表情をして「新たに生まれ変わった今、そんなことは些細なことです」と言っていた。
どうやら彼にとっては些細なことらしい。
それから家に帰り、僕達は今後どうしていくのかという話し合いをすることになった。
先輩方から貰った金貨は使えば消費され、湧き出て来る訳ではない。
ネヴィルに頼ろうにも直ぐに人の記憶を操作しようとするから、それ以外の方法があるのならそっちを試したい。
なので、まずばこの国の元宰相であられるウェルドに相談することにした。
「そうですね……私はこの国を出た方がいいと思いますね」
「そうなの?」
「私が言うのもなんですが、国の中枢が腐りきっていますからね。王は金を湯水のように使う散財好きな若い王妃の言いなりで、ここ数年で王室の権威は失墜したと言ってもいいでしょう。まぁ、お蔭で私が自由に国を動かすことが出来ましたが。ですので、この国にいても未来はありません」
「じゃあどこがいいの?」
僕がそう問えば、ウェルドは少し考えてから口を開く。
「ここから南に国二つほど離れたところに『コクターバ』という小国があります。そこはお勧めですね」
「コクターバ……名前だけは知ってるかな」
「魔法師が多く住んでいるのと、魔獣から出る『コア』の取引がかなり盛んだといわれています。そこで国が公認しているギルドに登録して、純度の高いコアをひと月五百個ほど国に納めれば、税金が半額になるらしいんですよ」
「半額!」
それは凄い。
「なので、私的にはコクターバ国をお勧めします。住んでて合わないと思いましたら、その時にまた移動すればよろしいかと」
「その国にはいつ頃行こうか?」
「そうですね……なるべく早くこの国から離れた方がいいと思います」
ウェルドの勧めで、僕達は数日中にお引越しをすることが決まったのだった。
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