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元宰相が仲間になった!

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「でも、どうやってこんな大勢の人がいる中で助けるっていうのさ。それにもし本当に大罪人であれば仲間にするのもよろしくないような気がするんだけど」

 僕が周りを見ながらそう言うと、ネヴィルは美しい笑顔で僕を見る。
「リアム様、なにを言っているんですか。大罪人ですら裸足で逃げ出すような大悪魔を捕まえておいて」
「……む」
「それに、私にかかればここからあの人間を助け出すなど、息を吸うくらい簡単なことです」

 ネヴィルはそう言うと、指をパチンッと鳴らす。

「えっ……皆の動きが止まった?」

 周囲を見回すと、あれだけ騒がしかった人々の動きが止まっていた。
 ネヴィルは僕を片腕に抱くと、魔法で空中に浮かび上がる。
 視線を下に向けると、腕を上げて口を大きく開き、罵声を浴びせるような状態で止まっている人や、興味深々といった顔で広場の中央を見ている人、親子でこの場から離れ去って行く途中の姿が見えた。
 ネヴィルはそんな人々の頭上をゆっくりと移動すると、処刑台の上にいる老人の元へと向かう。

「な、なんだ、おまえた、ちは」

 しばらく水も飲んでいないのか、声がガサガサになっていて、手足を拘束されている老人は喋ると噎せていた。
 ただ、周囲の動きが完全に止まっているのを見回して確認してから、鋭い眼光を僕達へと送る。
 これから処刑される人間の眼差しじゃないなと思っていると、ネヴィルが面白そうな顔で老人を見下ろす。

「これはこれは……そんな姿になってもまだそのような目が出来るとは。我が主とはまた違った面白さのある人間ですね」
「きさま、ら、ゲホゲホッ、何者だ」
「私達が何者でもいいでしょう。それより貴方、生きたくありませんか?」
「……?」

 急なネヴィルの問いに、老人は怪訝な表情をする。

「私は悪魔なので、貴方が死なずに生きたいと願うのならば、生かすことが出来ます」
「…………」
「ただ、無条件に助ける訳にはいきません。貴方をこの場から助け出す代わりに、我が主――リアム様に関する様々なお世話をして頂こうと思います」
「世話?」

 ネヴィルを見ていた視線が僕に移り、胡乱な表情になるが、突然笑い出す。

「いいだろう。そなた達の提案を聞かねばどうせ死ぬ身。助かる為ならばなんでもやってやる」
「よい心がけですね」

 ネヴィルはそう言うと腕を振り、僕と老人の前に一枚の洋紙と羽ペンを出す。

 空中に浮かぶ紙に顔を近付けて見ると、何が書いてあるのか分からない文字がビッシリと並んでいる。
 老人の方を見れば、文章を目で追っているようなので読めているようだ。

「ほぅ。古代文字を読めるとは」
「これくらい普通のことだ」
「では話は早いですね。空欄の部分に署名を」

 老人の縄を魔法で解いたネヴィルがそう催促すれば、老人は迷う素振りも見せずに署名した。

「ではリアム様も署名を」
「あ、はい」

 ペンを持ち、自分の名前を署名する――すると僕と老人の前に浮かんでいた紙が真っ黒な炎に包まれて消えてしまった。

「これで『隷属契約』は結ばれました。ここにいる必要はなくなったので、帰りましょうか」
「うん……うん? 隷属契約?」

 それはなんだ? と問う前に、老人を含めた僕達はネヴィルの魔法でその場から消えたのであった。


 瞬きした瞬時、僕達は広場から自分達の家の中に戻って来てた。
 ネヴィルは僕の体をゆっくりとソファーに降ろり、側を離れる。
 そんなネヴィルに僕は声をかけた。

「ちょっとネヴィル、隷属契約ってなに? そんな契約聞いてないんだけど!?」
「まぁ、どんな契約なのか聞かれてませんでしたし」
「じゃあ、どういう契約内容なのさ!」

 僕がそう聞けば、「リアム様の身の回りの世話など様々なことをし、リアム様が生きている間は生き、寿命で亡くなる時にだけ死にます」と言う。

「それと、リアム様とは違い痛みも苦痛も感じるので普通の人間のままです。が、リアム様に絶対服従の為、リアム様が死ねと命じれば死にます。もしも何らかの方法でリアム様を裏切ったと分かり契約を破棄した場合は、彼はその瞬間地獄の苦痛を感じながら死ぬことになるでしょう」
「そ、そんなの僕望んでない!」
「もう契約をしてしまったので私は解除出来ません。嫌であれば契約破棄になり彼は死にます。そうなるより、彼はこのままリアム様の下僕になった方がましだと思いますが?」
「下僕って……うそぉ……」

 呆然としながらも、そんな契約をしてしまった老人の反応が気になり、彼が立っている方へ顔を向け……「え、誰ですか」と首を傾げる。

 処刑台の上でボロボロになった姿をした老人は見た目七~八十代ぽかったんだけど、今僕が見ている人は二十代前半から半ば頃の外見を持つ青年だった。
 着てる服は老人と同じもので血が付いてボロボロだけど。

「あぁ、あのまま老人の姿でいても、知っている人に見られたら拙いですからね。リアム様と一緒にいても違和感のない年齢にしました」

 ネヴィルほどの悪魔にかかれば簡単に人間を若返らせることが出来るみたいで、僕が成長するスピードと共に歳を取り、十三歳の子供の姿に戻ったら、今の外見くらいの姿にこの人の姿も変化するように『呪い』をかけたらしい。
 ただ、死ぬ時はかなりの苦痛が伴うと思うから、僕のように簡単に死なないように注意しろと伝えていた。

 まるで女神様と同じような力みたいだと呟けば、流石に僕が身にまとっている女神の力――祝福は次元が違うものらしい。

 仕組みを説明されてもさっぱり理解出来なかったので、そう言うものなんだと納得していると、突然笑い声が聞こえてビクッと肩が跳ねた。

「ふ、ふふふ、あーっはっはっはっ!」

 自分の若返った手や肌を触り、額に手を当てながら狂ったように笑った元老人は、笑い止むと僕の前に跪いて頭を下げる。

「ヘイスティングス・ウェルド・エンドリクサーと申します、リアム様。これより私の持てる力でもって貴方様を全力でサポートいたします」
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