26 / 78
先輩達との別れ
しおりを挟む
メルヴィン先輩がいる執務室へ向かいながら、ネヴィルに「僕が寝ている――ネヴィルを召喚している間に、なんで数十年も経過していたのか分かる? 僕が見た本だとそんなに時間はかからない予定だったんだよ」と言けば、ネヴィルは「ハッキリとしたことは言えませんが」と前置きをしてから話し出す。
「私のような『序列』持ちの悪魔……それも第二位といった高位の悪魔を生贄を使って召喚する場合、数万人の命が必要になるはずです。大昔には、魔法使いが多く住む都市一つ分を生贄に捧げられたこともありましたし」
「都市一つ分……」
「はい。リアム様の場合、魔力も脆弱でたいした役には立たない感じなので、『子供』でなければ更に時間がかかっていたでしょうね」
「…………」
え、今サラッと貶されたような?
「それでも子供の――『穢れのない純粋な魂』があったため、たった一人での生贄ではありましたが、数十年で私を召喚出来たのでしょうね」
「な、なるほど……でも、僕が見た本だと『等級』の悪魔を召喚する魔法陣だったのに、なんでネヴィルが召喚されたんだろう?」
不思議に思いながらそう呟くと、描いた魔法陣がどんなものか見せてもらえるかと聞かれたから、書き写した紙を見せてみた。
描かれた魔法陣をジーッと見詰めながら、ふとある場所で視線を止めたネヴィルが面白そうにクスッと笑う。
「リアム様、この部分を見ていただけますか? ここにある文字ですが、リアム様は『、』と描いておりますが本来は『・』です」
「え、え? えぇっ?」
「たった一文字の違いですが……本来ですと、第三十五等級の悪魔『ネルヴィン』が召喚されるはずでした」
「……ネルヴィン」
「えぇ。ただリアム様が『、』と描いたことによって、私を召喚する魔法陣へと変わってしまいましたね」
書き写した紙を返してもらい、指摘されたところを目を細めて確認し直すと――確かに『・』じゃなくて『、』になってる!
なんというイージーミス!
でも……たったこれだけの違いで序列第二位のネヴィルを召喚出来たのなら、めちゃくちゃ運がいい……のかも?
そんなことを話している間に、僕達は執務室の前に到着していた。
コンコンとノックをすると部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえたので、「失礼します」と言いながらドアを開ける。
「リアム……君?」
「メルヴィン先輩?」
執務室に入り、視線を正面に向けて……部屋にいる男性がメルヴィン先輩だと気付くのに少し時間がかかった。
僕の記憶の中のメルヴィン先輩は三十代なのに対して、僕と見詰め合っている男性は五十代くらいだから。
ただ僕の外見と学園の制服姿は変わっていないので、直ぐに僕だと気付いたようだった。
先輩は椅子から立ち上がって僕のところまで来ると、同じ目線になるように腰を落として肩を抱く。
「君が死ぬことはないとは分かってはいたけど……心配した」
「……ごめん、なさい」
自分の中では昨日今日の出来事だったけど、先輩達にとっては数十年音信不通だった。
心配しないわけがない。
逆の立場だったのならと考えると胸が痛い。
それから僕達はいろいろと話し合うことになった。
このままメルヴィン先輩の家にいても、何らかの理由で死んだりしたら、いろいろと迷惑をかけることになりそうだと。
だからウォーカー家から出て、召喚魔となったネヴィルの助けを借りながら一人で生きていきたいと伝えた。
メルヴィン先輩は寂しそうな顔を一瞬したけど、僕の考えを尊重してくれると頷く。
それから現役を退いたリッカルド先輩も呼んで事情を伝えると、僕が生きている間になにか困ったことがあったら、自分の家を頼るようにと言ってくれた。
本当に優しい先輩達だ。
リアム・ウォーカーとしての僕は死亡したことにしてもらって籍から抜けた後、メルヴィン先輩は自身の魔法で『対の指輪』というものを二組作ってくれた。
この『対の指輪』と言うものは二つで一つの指輪になっているらしく、一つは僕が、もう一つはメルヴィン先輩とリッカルド先輩が所有し、お互い離れたところにいる時はただの指輪だけど近付いたら光って反応する仕組みになっているらしい。
どうやら先輩達二人と親しい友人である、という証拠になる指輪を作ってくれたようだった。
それをメルヴィン先輩達は家に置いておき、もしも先輩達が亡くなった後に僕が寂しくなって二人の家に帰って来た時に、先輩達の子供や孫達――もしかしたら、それよりも下の子孫達にも伝えていくと言ってくれた。
僕はそんなに長生きはしたくないなと笑いながら、二人がそこまでしてくれることに感謝し、もしも僕が生きている間に二人やその子孫達が困った状況に陥った時は、絶対に助けに来ますと伝えた。
「私のような『序列』持ちの悪魔……それも第二位といった高位の悪魔を生贄を使って召喚する場合、数万人の命が必要になるはずです。大昔には、魔法使いが多く住む都市一つ分を生贄に捧げられたこともありましたし」
「都市一つ分……」
「はい。リアム様の場合、魔力も脆弱でたいした役には立たない感じなので、『子供』でなければ更に時間がかかっていたでしょうね」
「…………」
え、今サラッと貶されたような?
「それでも子供の――『穢れのない純粋な魂』があったため、たった一人での生贄ではありましたが、数十年で私を召喚出来たのでしょうね」
「な、なるほど……でも、僕が見た本だと『等級』の悪魔を召喚する魔法陣だったのに、なんでネヴィルが召喚されたんだろう?」
不思議に思いながらそう呟くと、描いた魔法陣がどんなものか見せてもらえるかと聞かれたから、書き写した紙を見せてみた。
描かれた魔法陣をジーッと見詰めながら、ふとある場所で視線を止めたネヴィルが面白そうにクスッと笑う。
「リアム様、この部分を見ていただけますか? ここにある文字ですが、リアム様は『、』と描いておりますが本来は『・』です」
「え、え? えぇっ?」
「たった一文字の違いですが……本来ですと、第三十五等級の悪魔『ネルヴィン』が召喚されるはずでした」
「……ネルヴィン」
「えぇ。ただリアム様が『、』と描いたことによって、私を召喚する魔法陣へと変わってしまいましたね」
書き写した紙を返してもらい、指摘されたところを目を細めて確認し直すと――確かに『・』じゃなくて『、』になってる!
なんというイージーミス!
でも……たったこれだけの違いで序列第二位のネヴィルを召喚出来たのなら、めちゃくちゃ運がいい……のかも?
そんなことを話している間に、僕達は執務室の前に到着していた。
コンコンとノックをすると部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえたので、「失礼します」と言いながらドアを開ける。
「リアム……君?」
「メルヴィン先輩?」
執務室に入り、視線を正面に向けて……部屋にいる男性がメルヴィン先輩だと気付くのに少し時間がかかった。
僕の記憶の中のメルヴィン先輩は三十代なのに対して、僕と見詰め合っている男性は五十代くらいだから。
ただ僕の外見と学園の制服姿は変わっていないので、直ぐに僕だと気付いたようだった。
先輩は椅子から立ち上がって僕のところまで来ると、同じ目線になるように腰を落として肩を抱く。
「君が死ぬことはないとは分かってはいたけど……心配した」
「……ごめん、なさい」
自分の中では昨日今日の出来事だったけど、先輩達にとっては数十年音信不通だった。
心配しないわけがない。
逆の立場だったのならと考えると胸が痛い。
それから僕達はいろいろと話し合うことになった。
このままメルヴィン先輩の家にいても、何らかの理由で死んだりしたら、いろいろと迷惑をかけることになりそうだと。
だからウォーカー家から出て、召喚魔となったネヴィルの助けを借りながら一人で生きていきたいと伝えた。
メルヴィン先輩は寂しそうな顔を一瞬したけど、僕の考えを尊重してくれると頷く。
それから現役を退いたリッカルド先輩も呼んで事情を伝えると、僕が生きている間になにか困ったことがあったら、自分の家を頼るようにと言ってくれた。
本当に優しい先輩達だ。
リアム・ウォーカーとしての僕は死亡したことにしてもらって籍から抜けた後、メルヴィン先輩は自身の魔法で『対の指輪』というものを二組作ってくれた。
この『対の指輪』と言うものは二つで一つの指輪になっているらしく、一つは僕が、もう一つはメルヴィン先輩とリッカルド先輩が所有し、お互い離れたところにいる時はただの指輪だけど近付いたら光って反応する仕組みになっているらしい。
どうやら先輩達二人と親しい友人である、という証拠になる指輪を作ってくれたようだった。
それをメルヴィン先輩達は家に置いておき、もしも先輩達が亡くなった後に僕が寂しくなって二人の家に帰って来た時に、先輩達の子供や孫達――もしかしたら、それよりも下の子孫達にも伝えていくと言ってくれた。
僕はそんなに長生きはしたくないなと笑いながら、二人がそこまでしてくれることに感謝し、もしも僕が生きている間に二人やその子孫達が困った状況に陥った時は、絶対に助けに来ますと伝えた。
136
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜
夜夢
ファンタジー
この世界はスキルが全て。
成人の儀式で神様から誰もが一つスキルを授かる事ができる。
スキルを授ける神は様々おり、争いの絶えないこの世界では戦闘系スキルこそ至上と考えられていた。
そしてそれ以外の補助系スキルや生活スキルなど、後発的に習得可能とされるスキルを得た者は世界から冷遇される。
これはそんなスキル至上世界で効果不明なスキル『箱庭』を得た主人公【レイ・イストリア】が家から追放されるもそのスキルを駆使し、世界を平和に導く英雄伝説である。
猫耳幼女の異世界騎士団暮らし
namihoshi
ファンタジー
来年から大学生など田舎高校生みこ。
そんな中電車に跳ねられ死んだみこは目が覚めると森の中。
体は幼女、魔法はよわよわ。
何故か耳も尻尾も生えている。
住むところも食料もなく、街へ行くと捕まるかもしれない。
そんな状況の中みこは騎士団に拾われ、掃除、料理、洗濯…家事をして働くことになった。
何故自分はこの世界にいるのか、何故自分はこんな姿なのか、何もかもわからないミコはどんどん事件に巻き込まれて自分のことを知っていく…。
ストックが無くなりました。(絶望)
目標は失踪しない。
がんばります。
幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
異世界ネット通販物語
Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。
最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。
そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。
※話のストックが少ないため不定期更新です。
フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
荒井竜馬
ファンタジー
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
人生ひっそり長生きが目標です 〜異世界人てバレたら処刑? バレずにスローライフする!〜
MIRICO
ファンタジー
神の使徒のミスにより、異世界に転生してしまった、玲那。
その世界は、先人の異世界人が悪行を行ってばかりで、異世界人などクソだと言われる世界だった。
家と土地を与えられ、たまに本が届くくらいで、食料もなければ、便利なものも一切ない、原始な生活。
魔物がいるという森の入り口前の家から、生きるために糧を探しに行くしかない。
そこで知り合った、魔物討伐隊の騎士フェルナンとオレード。村人たちに親切にしてもらいながら、スローライフを満喫する。
しかし、討伐隊は村人に避けられていて、なにやら不穏な雰囲気があった。それがまさか、先人の異世界人のせいだったとは。
チートなんてない。魔法を持っている人がいるのに、使えない。ツルから草履を作り、草から糸を作り、服を作る。土を耕して、なんでも植える。お金がないなら、作るしかない。材料は、森の中にある!
しかも、物作りのためのサバイバルも必要!?
原始なスローライフなんて、体力がなけりゃ、やってられない。
生きていくために、前世の知識と、使徒が持ってくる本で、なんとかする!
ただ、異世界人とバレるわけにはいかない。処刑されてしまうかもしれない。
人生ひっそり、長生きが目標。玲那の体力自慢のスローライフが始まる。
ゆっくりのんびり連載していく予定です
他社サイト様投稿中 タイトル改めました
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる