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先輩達との別れ

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 メルヴィン先輩がいる執務室へ向かいながら、ネヴィルに「僕が寝ている――ネヴィルを召喚している間に、なんで数十年も経過していたのか分かる? 僕が見た本だとそんなに時間はかからない予定だったんだよ」と言けば、ネヴィルは「ハッキリとしたことは言えませんが」と前置きをしてから話し出す。

「私のような『序列』持ちの悪魔……それも第二位といった高位の悪魔を生贄を使って召喚する場合、数万人の命が必要になるはずです。大昔には、魔法使いが多く住む都市一つ分を生贄に捧げられたこともありましたし」
「都市一つ分……」
「はい。リアム様の場合、魔力も脆弱でたいした役には立たない感じなので、『子供』でなければ更に時間がかかっていたでしょうね」
「…………」

 え、今サラッと貶されたような?

「それでも子供の――『穢れのない純粋な魂』があったため、たった一人での生贄ではありましたが、数十年で私を召喚出来たのでしょうね」
「な、なるほど……でも、僕が見た本だと『等級』の悪魔を召喚する魔法陣だったのに、なんでネヴィルが召喚されたんだろう?」

 不思議に思いながらそう呟くと、描いた魔法陣がどんなものか見せてもらえるかと聞かれたから、書き写した紙を見せてみた。
 描かれた魔法陣をジーッと見詰めながら、ふとある場所で視線を止めたネヴィルが面白そうにクスッと笑う。

「リアム様、この部分を見ていただけますか? ここにある文字ですが、リアム様は『、』と描いておりますが本来は『・』です」
「え、え? えぇっ?」
「たった一文字の違いですが……本来ですと、第三十五等級の悪魔『ネルヴィン』が召喚されるはずでした」
「……ネルヴィン」
「えぇ。ただリアム様が『、』と描いたことによって、私を召喚する魔法陣へと変わってしまいましたね」

 書き写した紙を返してもらい、指摘されたところを目を細めて確認し直すと――確かに『・』じゃなくて『、』になってる!
 なんというイージーミス!

 でも……たったこれだけの違いで序列第二位のネヴィルを召喚出来たのなら、めちゃくちゃ運がいい……のかも?

 そんなことを話している間に、僕達は執務室の前に到着していた。
 コンコンとノックをすると部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえたので、「失礼します」と言いながらドアを開ける。

「リアム……君?」
「メルヴィン先輩?」

 執務室に入り、視線を正面に向けて……部屋にいる男性がメルヴィン先輩だと気付くのに少し時間がかかった。
 僕の記憶の中のメルヴィン先輩は三十代なのに対して、僕と見詰め合っている男性は五十代くらいだから。
 ただ僕の外見と学園の制服姿は変わっていないので、直ぐに僕だと気付いたようだった。
 先輩は椅子から立ち上がって僕のところまで来ると、同じ目線になるように腰を落として肩を抱く。

「君が死ぬことはないとは分かってはいたけど……心配した」
「……ごめん、なさい」

 自分の中では昨日今日の出来事だったけど、先輩達にとっては数十年音信不通だった。
 心配しないわけがない。
 逆の立場だったのならと考えると胸が痛い。

 それから僕達はいろいろと話し合うことになった。
 このままメルヴィン先輩の家にいても、何らかの理由で死んだりしたら、いろいろと迷惑をかけることになりそうだと。
 だからウォーカー家から出て、召喚魔となったネヴィルの助けを借りながら一人で生きていきたいと伝えた。
 メルヴィン先輩は寂しそうな顔を一瞬したけど、僕の考えを尊重してくれると頷く。
 それから現役を退いたリッカルド先輩も呼んで事情を伝えると、僕が生きている間になにか困ったことがあったら、自分の家を頼るようにと言ってくれた。

 本当に優しい先輩達だ。

 リアム・ウォーカーとしての僕は死亡したことにしてもらって籍から抜けた後、メルヴィン先輩は自身の魔法で『対の指輪』というものを二組作ってくれた。
 この『対の指輪』と言うものは二つで一つの指輪になっているらしく、一つは僕が、もう一つはメルヴィン先輩とリッカルド先輩が所有し、お互い離れたところにいる時はただの指輪だけど近付いたら光って反応する仕組みになっているらしい。

 どうやら先輩達二人と親しい友人である、という証拠になる指輪を作ってくれたようだった。

 それをメルヴィン先輩達は家に置いておき、もしも先輩達が亡くなった後に僕が寂しくなって二人の家に帰って来た時に、先輩達の子供や孫達――もしかしたら、それよりも下の子孫達にも伝えていくと言ってくれた。
 僕はそんなに長生きはしたくないなと笑いながら、二人がそこまでしてくれることに感謝し、もしも僕が生きている間に二人やその子孫達が困った状況に陥った時は、絶対に助けに来ますと伝えた。
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