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召喚魔 ネヴィル

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「それじゃあ、お互い合意も得たことだし契約をしようか」

 そう言と、空中から降りて地面に足を着けた悪魔は僕の前に立つ。
 それから「おい、お前の名前は?」と聞かれたので、最初は『ウォーカー』の姓を名乗ろうかと思ったんだけど、ここは本来の自分の姓を名乗ることにする。

「僕はリアム――リアム・セレグレイト」

 名を聞いた魔族はニッと笑うと魔法で僕の右手を持ち上げ、手の甲に人差し指を当てる。

「我は魔界序列第二位の悪魔――ネヴィル。リアム・セレグレイトの生ある限り、付き従うことを誓う」

 そう誓いの言葉を述べた後に、聞いたこともない言葉で呪文を唱え始める。
 綺麗な声に聞き入っていると、指が当てられていた手の甲に不思議な文様が浮かび上がり……それがスゥッと肌の中に沈むように消えていく。
 どうやら手の甲に浮かんだ紋様は悪魔と契約した証みたいなものらしい。
 ほぇ~と手の甲を擦りながら、ふと、あることに気付く。

「……あのぉ~、ネヴィルさん」
「リアム様は私の契約主になったのです。ネヴィル、とお呼びください」

 急に口調がガラリと変わり、少し困惑する。

「あ、はい。あの、ネヴィルは……悪魔としての『等級』は何位なんですか? 僕の聞き間違いなのか、さっき『序列』って聞こえたような」
「等級などと言ったあんな下層階級の悪魔とは一緒にしないでいただきたいですね……私は『序列第二位』の悪魔です」
「序列!? しかも、に……二位!?」

 あり得ない。
 なんでそんな大悪魔が召喚出来たんだ!?
 ポカンと口を開けながら僕の召喚魔になったネヴィルを見詰めていると、ネヴィルは僕の足元――悪魔を呼ぶために描いた召喚陣を見て片眉を上げた。

「その魔法陣はかなりの数の生贄を必要とするもので、確か人間界では禁忌になったと記憶していましたが……リアム様はどうやってそのような大規模な生贄を用意されたのですか? 虫も殺せぬような見た目に反して、意外と殺戮を好むタイプですか?」
「そんなまさか! 生贄は僕だけだよ」
「え?」
「え?」

 お互い、ん? と首を傾げて見つめ合う。
 しばし固まるも、僕が死んでも何度でも生き返る不死の人間であったことを思い出したネヴィルが、ハハハッ! と笑う。

「いいですねぇ。あなたみたいな召喚主には初めて会いました。リアム様と一緒にいれば暇で時間を持て余すこともなさそうです」

 ネヴィルはにこにこしながらそう言うと、「ではリアム様、『依代』をお渡しください」と手をこちらへ突き出す。

「よりしろ?」
「はい。我らのような巨大な力を持つ悪魔が人間界に召喚される時、力の大部分が制限――封印をされたような状態になります。下手をすればこの世界を簡単に壊してしまう力を持っていますからね。ただ、封印されている状態が長く続き過ぎるのは我らの体にも負担がかかるので、少しの間『依代』の中に入って休息を取る必要があるのです」
「……な、なるほど」

 ヤバい! と僕は心の中で焦る。

 召喚をするってことだけに意識が行ってて、をちゃんと調べてなかった。
 僕は「ちょ、ちょっと! ちょっとだけ待ってて!」とネヴィルに言うと、鞄の中から裁縫道具と布の切れ端を数枚取り出す。
 山の中に入って服が破れた時のことを考えて、布の切れ端を持ってきていたんだけど、それを使って依り代を造ろうと鋏と針を手に持つ。
 孤児院で何度もバザーに出品するために作った動物の人形――布の大きさにより手乗りサイズのものを即席で作る。

『千鳥格子』『ハーリキンチェック』『バッファローチェック』『シェパードチェック』『オーバーチェック』といった柄を継ぎ足しで使い、長い耳が片方だけ垂れている一体のウサギが完成した。

「出来ました!」
「……リアム様、まさかとは思いますがが『依代』なんてことは……」
「ん? これが依代だけど?」
「ハハッ! ……いいですかリアム様。私のような『序列』階級の悪魔を召喚する場合、人間は稀少な価値が付いた宝石や装飾品、剣や杖、時には王冠などを依代に用意したりして」
「いや、僕にそんな高価な物は用意出来ないし」

 そんな高価な物を用意するのは今の僕には無理だから、今はこれで我慢してと言えば、笑顔のままだけど口元が凄いヒクついていた。
 なにやらブツブツ文句を言ってるけど、用意できないものはしょうがないでしょ。
 普通であれば序列第二位の大悪魔を前にそんなことは口が裂けても言えないんだろうけど、僕は怖くもなんともないし、殺されても死なないからそう言えるんだよね。
 そんな僕を見て溜息をついたネヴィルは、出来立てほやほやのウサギを右手に持って呪文を唱えると、その姿が依代の中へと吸収され――直ぐにまた外に出て来た。

「はぁ……これで依代と同調は終了しました」

 そう言って手乗りサイズの小さなウサギを僕に手渡し、常に持っていてくださいと言われた。
 流石にずっと持っている訳にはいかないので、ウサギに紐を付けてキーホルダーとして腰のベルトに付けておくことにした。
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