上 下
21 / 78

メルヴィン先輩の子供になりました

しおりを挟む
 エレナ様には、僕が古代都市の古い魔法を調査中にまだ解析されていない魔法を浴びてしまい、子供の姿に戻ってしまったのだと上手くメルヴィン先輩が説明してくれていた。

 本当のことはいつか話す必要はあるかもしれないけど、今は混乱させるから、この説明の内容にしたとメルヴィン先輩はコソッと教えてくれた。
 うん、その方がいいでしょ。

 僕はエレナ様に自分がリアム・セレグレイトであることを信じてもらう為に、お二人の結婚式にも出席したことがあると伝えると、当時の僕の姿を思い出したのか、今の僕の姿を見て口に手を当てて驚いていた。

 ただ、僕が調べていた古代魔法や子供の姿になってしまった僕のことについては秘匿事項になったから、まずはウォーカー家で『保護』をするということ。
 そしてただの平民が貴族の家にいるのは余計な噂を呼ぶので、両親を亡くした親戚の子を引き取るといった形にして、僕を養子にする事を考えているとメルヴィン先輩はエレナ様に言う。

 流石に僕を養子にするとまで言った時は驚いたんだけど、エレナ様は落ち着いた表情で分かりましたと頷くと、直ぐに養子縁組の手配をすると言って立ち上がり、部屋を出て行った。

 最初はメルヴィン先輩の不貞を疑って怒っていたのに、僕の養子縁組には何も思わないのかと疑問に思っていると、メルヴィン先輩が「彼女は実力のある魔法師を輩出する家門の出だからね。古代魔法の危険性や、それについての情報が秘匿されることには理解がある」と言いながら、それから僕を見てちょっと申し訳なさそうな顔をする。

「あの時、君が瀕死の状態になっているのを見た人間が何人もいたから、申し訳ないが……リッカルドが手を回して『リアム・セレグレイト』としての君は『死亡』という形で処理された」
「……まぁ、しょうがないですよね。僕が死なないで生きている――しかも子供の姿に戻っているというのを知られたら、大変なことになるでしょうし」
「ただ、このまま戸籍がないのは生きていくうえで大変だから、僕の養子として登録することにするよ」
「いいんですか?」
「あの時、一緒に生き抜いた仲間なんだ。これくらい当然のことだよ」

 ポンポンと頭を撫でながらそう言う先輩に、胸が熱くなる。
 こうして僕は、メルヴィン・ウォーカーとエレナ・ウォーカーの養子になり、リアム・ウォーカーとなったのだった。


 ウォーカー家の子供となって僕は新たな人生を歩むことになったんだけど、僕は主にエレナ様のお話相手兼お買い物付き添い係となっていた。
 十三歳と十二歳の二人の子供がいるみたいなんだけど、どちらも学園にいるし夫は仕事で普段あまり邸宅にいないので暇……寂しい思いをしていたらしい。
 子供とは言え中身は大人。

 大人だけど外見はまだ幼い子供(しかも養子縁組して自分の子供にもなった)なので、一緒に街に出かけてお買い物をしたり、デザートを食べに行ったり、魔法についての話合いや討論をしたりしていた。

 ウォーカー家の子供達が学園から帰って来た時には、五人家族になった記念だからと一家揃った肖像画まで描いてもらい、屋敷の中で一番目立つところに飾っていてちょっと恥ずかしい。
 お二人の子供達とも仲良くなり、学園から帰ってくる時は一緒に遊ぶことも多かった。

 ウォーカー家の子供になってしばらくしてから、メルヴィン先輩とリッカルド先輩の三人で話し合いをしたことがあった。

 その時に先輩方から聞いたのは、祝福の副作用的なもの。
 メルヴィン先輩は大魔法師だけが使える魔法を使用可能にはなったんだけど、強力な魔法を使用し続けるとしばらく意識を失ってしまうらしい。
 強力な魔法であればあるほど意識を失っている時間も長くなり、今までで最長一ヶ月眠り続けたことがあるんだって。
 元々の体に分不相応の魔力が備わり、それを行使することによって体が弱るのではないかと考えているようだ。

 リッカルド先輩の場合は、誰もが認めるほどの帝国一の魔法剣士になれたが、怪我や病気をするとなかなか治らないのだとか。
 魔法薬で傷を治そうとしても、普通の人の回復速度よりかなり遅く、病気も治りにくい。
 たぶん、本来持つ身体能力や魔法使用能力より上回る力を得て、その反動が来ているのではないかとのこと。

 僕の場合は、女神に「老衰で眠るように天国にいきたい」と願ったので、でしか死ねない体になったのではないかと言われた。
 ただ不穏なのは、あの時女神様が『全ての願いを叶える』と言ったこと。
 全てとはなんの事なのか分からないけど、あの時僕が言ったことを覚えていたメルヴィン先輩が「リアム君はあの時、怖い思いをするのも、痛いのも苦しいのも嫌だと、絶対に死にたくないと言っていたよね? だから、もしかするとだけど……あの女神はその願いも聞き入れたんじゃないかな」と顎に手を当てて呟く。

 あ、だからどんな場面であっても僕は恐怖心を抱かないのか……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

ボッチ英雄譚

3匹の子猫
ファンタジー
辺境の村で生まれ育ったロンは15才の成人の儀で「ボッチ」という聞いたこともないジョブを神様から授けられました。 ボッチのジョブはメリットも大きいですが、デメリットも大きかったのです。 彼には3人の幼馴染みと共に冒険者になるという約束がありましたが、ボッチの特性上、共にパーティーを組むことが難しそうです。彼は選択しました。 王都でソロ冒険者になることを!! この物語はトラブルに巻き込まれやすい体質の少年ロンが、それらを乗り越え、いつの日か英雄と呼ばれるようになるまでを描いた物語です。 ロンの活躍を応援していきましょう!!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

「7人目の勇者」

晴樹
ファンタジー
別の世界にある国があった。 そこにはある仕来たりが存在した。それは年に1度勇者を召喚するという仕来たり。そして今年で7人目の勇者が召喚されることになった。 7人目の勇者として召喚されたのは、日本に住んでいた。 何が何だか分からないままに勇者として勤めを全うすることになる。その最中でこの国はここ5年の勇者全員が、召喚された年に死んでしまうという出来事が起きていることを知る。 今年召喚された主人公は勇者として、生きるためにその勇者達に謎の死因を探り始める…

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

父ちゃんはツンデレでした

文月ゆうり
ファンタジー
日本の小さな村に住む中学生の沙樹は、誕生日に運命が動き出した。 自宅のリビングに現れたのは、異世界からきたという騎士。 彼は言う「迎えにきた」と。 沙樹の両親は異世界の人間!? 真実は明かされ、沙樹は叔母とともに異世界に渡る。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...