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それから十五年後――

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 試験が終わってからも、僕は先輩達二人と一緒にいることが多かった。

 一緒にご飯を食べたり、二人の時間が空いている時は勉強を教えてもらったり、年齢や身分の差を超えて『友人』となることが出来たんじゃないかな。
 それから半年後には先輩達が学園卒業をし、二人は皇室騎士団に入って僕は一学年上に上がった。
 そうそう、リッカルド先輩は卒業と同時に大好きな婚約者さんと結婚式を挙げたんだけど、そこにも僕を呼んでくれたんだよね。

 式場や披露宴では常にメルヴィン先輩が隣にいたので、緊張せずに二人の幸せそうな姿を見れて本当に良かった。

 在学中、僕はあの試験での体験を元に体術の授業を真剣に受けるようにしたので、剣の扱いはサッパリだったけど、体力を付けて逃げ足だけは早くなった。
 ただ不思議だったのは、魔獣に追いかけられ、恐怖と死にそうになったことを思い出してもフラッシュバックしないことだ。

 トラウマものの出来事だったはずなんだけど……思い出しても心は常に凪いでいる。

 先輩達と同学年の皇族の方が卒業し、それから僕が学園にいる間に他の皇族が入学してくることもなく、全学年混合実技試験はあれ以来開催されることはなかった。
 そうして数年ほど学園でいろんなことを学びながら過ごしているうちに……あっという間に卒業の時期が来た。

 学園を卒業する学生は帝都で仕事を探すのがほとんどだったんだけど、僕は自分が生まれ育った町に戻ることにした。

 第一に他の浄化師となった子達ほどの浄化力がないという事と、社会に出たら学園とは違って貴族と平民の身分差が明確に出てくる。
 それに、生まれ育った町が恋しくなってきたって言うのもある。
 流石に卒業する歳にもなれば孤児院には入れないので、独身寮がある小さな町役場に就職することにした。
 町に魔獣が出ることはほぼ無かったので、浄化師としての仕事はほぼなく、書類仕事だけをしていた。
 右も左も分からない仕事をするのはかなり大変だったけど、慣れたらやりがいのある仕事だと思うようにもなった。

 目が回るんじゃないかってくらい仕事に忙殺されていたら、気付いたら更に数年が経ち……リッカルド先輩やメルヴィン先輩と頻繁にやり取りしていた手紙の回数も、かなり少なくなっていた。

 メルヴィン先輩もリッカルド先輩の直ぐ後に結婚し、今ではどちらも二児の父親となっている。
 そして皇室騎士団に所属してから抑えていた能力を解放して、若くして騎士団の副団長と魔塔の次席に着いているみたいだ。
 先輩達が能力を解放したことで、女神様と出会ったことがようやく思い出せるくらいの月日が経ったんだなと感慨深くなる。


 そんな日々を過ごし学園を卒業してから十五年が経過した頃――

「リアム君、ここ最近山に入った人達で負傷者が続出してるらしいんだけど、何か聞いてた?」

 役場の一室で机に座りながら書類を捌いていると、隣の席にいる先輩にそう聞かれて顔を上げた。

「いや、何も聞いてないですね。熊か猪にやられたんですかね? もしそうなら、そろそろ僕達のところに情報が入ってくる頃だと思うんですが……」
「そうだよな。あ、そう言えば今日は帝都から凄い人達が来るって、朝に上司が言ってたな」
「凄い人達?」
「詳しくはまだ聞いてないけど」
「あぁ、だから上の立場の人達が朝からバタバタしているのか」

 今朝職場に到着すると、いつもは仕事の開始時間まではお茶を飲みながらまったりしている人達が、慌てたように動き回っていた理由がようやく分かった。
 そんなことを話し合っていると、「リアム君、ちょっといいかね」と上司に名前を呼ばれて立ち上がる。

「はい」
「すまんが、この書類を隣町の役場まで届けてくれんか? それと、手が足りないみたいだから、あちらに行ったらそのまま現場に入って指示に従ってくれるかい?」
「はい、分かりました」

 嫌とは言えないでしょ。
 厩舎にいる一番脚が早い駿馬を使ってもいいとまで言われたので、たぶん重要な書類で早く届けて欲しいんだろうな。
 僕は分かりましたと頷いて書類を受け取ると鞄に入れ、手を付けていた仕事を先輩に引き継いでもらってから外へ向かう。
 厩舎に向かうと、厩番の人が手綱や鞍などを漆黒の馬に取り付けて待っているのが見えた。
 何度か乗ったことがあるけど本当に足の速い馬で、この子なら隣町の役場まで行くのに一時間はかからない。

 馬――メルティーシュシュちゃん(町長命名)の首をよろしくねとポンポンと叩いてから乗り上げ、目的地へと向かった。
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