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しおりを挟む「僕の傷を、死にそうになっていたところを助けてくれて感謝してます。僕は、もう怖い思いをするのも、痛いのも苦しいのも嫌だ! 絶対に死にたくない! だから……えっと、あの、僕は何事もなく老衰で眠るように天国にいきたい……です」
思いのままにバーッと願い事を口にしたんだけど、最後の方は少し我に返ってスローペースになる。
まだ頭の中がパニックで上手く働かない。
こんな願い事でもいいのかな? と女神様に視線を向けると、女神様は何が楽しいのかクスクスと笑う。
『私に出会って、願い事を言う前に助けてもらったことを感謝する人間には初めて会った。ふふ、よろしい人間の少年よ。そなたには特別に全ての願いを叶えてあげよう』
「え?」
『ただそうだな……気分が良いから、私と出会った――から――にしよう』
女神様は最後になにか言っていたんだけど、よく聞き取れなかった。
ただ、僕は一つの願い事しかしていない。
老衰で眠るように天国にいきたいだけだと。
なのに、『全ての願い』ってどういうことなのか?
女神様に問おうと口を開こうとした時、僕の胸に真っ白な花が触れる。
すると、花はまるで雪が溶けるかのように僕の体の中に入ってしまった。
花が消えた部分を触りながら、首を傾げる。
先輩達は花が消えたと同時に『変化』に気付いたみたいだけど……僕はなにが変わったのか一切分からない。
『久々に楽しいひと時であった。そなたらの未来に幸多からんことを』
女神様がそう言うのと同時に辺りに霧が立ち込めていき、徐々にその姿が見えなくなっていく。
自分達の姿さえ見えないくらいの霧の中で、お互い離れ離れにならないように固まる。
真っ白になった視界は長く続かず、思ったより直ぐに消えていき――徐々に周囲の状況が分かるようになっていく。
「ここは……どこだ?」
僕達が立っている場所は、今までいた空間でも魔獣に襲われていた薄暗い回廊でもない――小鳥のさえずりが聞こえてくるような森の中だった。
「はっ、もしかして!」
メルヴィン先輩が慌てたように周囲の状況を確認してから、地図とコンパスをポケットから取り出す。
そして左手の腕時計を見て時間を確認したと思ったら、溜息をつく。
どうしたんだろう?
「先輩、どうしたんですか?」
「いやね? 嬉しい情報が二つと、悲しい情報が一つあるんだけどさ、どっちから聞きたい?」
「え!?」
「メルヴィン、もったいぶってないで早く教えろよ」
「はいはい」
メルヴィン先輩は肩を竦めると、嬉しい情報の一つ目を教えてくれた。
「まず一つは、この場があの魔獣が溢れるほどいる激ヤバダンジョンじゃなくて、ちゃんとした学園の試験場だということ。たぶん、あの女神が僕達をこの場まで送ってくれたんだろうね」
そう言いながら次は悪い情報を話す。
「え~……悲しいことに、この場所とあの女神がいた空間の時空の流れが違ったのかは分からないんだけど、どうやら僕達が魔獣と戦って女神に会っていた数時間の間に、こちらでは三日も経過していたみたいなんだよね」
「ん?」
「え?」
僕とリッカルド先輩は何を言われているのか分からなかった。
ちなみになぜ時間がそんなに経過しているのが分かったのかと言うと――特殊な魔法がかけられた腕時計が全パーティに各一個支給されていて、時間を刻む普通の時計としての機能と、試験開始時からの経過時間を表示する機能が備わっているらしい。
メルヴィン先輩曰く、まだ試験を開始してから僕達の体感では数時間しか経っていないはずなのに、女神がいた場所からここへ来てから時計が急に動き出し、八十九時間経過している表示になったんだとか。
「あははっ、あと七時間で討伐対象となっている魔獣を全て倒さないと、僕達留年が決定かな」
ニコッと笑うメルヴィン先輩に、僕達は「えーっ!?」っと絶叫する。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ君達。まだ嬉しい情報が一つ残ってるよ」
「何をそんなに余裕ぶってんだよ! 俺達が留年なんて……すでに皇室騎士団に入ることが決まってるのに恥だろうがっ!」
どうやら先輩達はもう就職が決まっているみたいだ。
焦るリッカルド先輩に、まぁ落ち着けとメルヴィン先輩が肩を叩く。
「忘れたのかリッカルド。僕達は魔法の能力が格段に上がったことに」
「あ……」
「そう、この力があれば」
「魔獣討伐なんて簡単だな」
二人が顔を見合わせてニヤリと笑う。
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天使、悪魔に興味のある方、厨二全開の詠唱が好きな方は、良かったら読んでみてください!
http://com.nicovideo.jp/community/co2677397
https://twitter.com/satanrising
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