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高学年の先輩達にだけ試験開始日の数日前に支給された、ダンジョン内の地図がある。
それを持っているメルヴィン先輩が地図を見ながら、リッカルド先輩に指示を出している。
「リアム君、ダンジョン内は瘴気があるから定期的に『浄化薬』を摂取するのを忘れないで」
「分かりました」
頷いた僕は札の裏に刻印された魔法陣に触れて「浄化薬」と唱える。
すると札の表面に小さな魔法陣が浮き上がり、小さな小瓶が出てきた。
この瓶の中には瘴気を解毒してくれる中和剤が入っていて、浄化師が調合した魔法薬の一つなんだって。
僕の能力でも作れないことはないけど、ダンジョンの中に長時間入っていれるほどの持続時間が長い浄化薬は作れなさそうだなと思いつつ、薬を飲む。
少し息苦しく感じていたものが、スーッとスッキリして視界がクリアになる。
僕が浄化薬を飲むのをしっかり見てから、メルヴィン先輩がリッカルド先輩へ声をかけた。
「リッカルド、そろそろ目的地に着くから周囲の確認は怠らないようにしてくれ」
「了解」
それからまたしばらくダンジョン内を歩いていたんだけど、コンパスのような魔道具を手に持つメルヴィン先輩が、見ていた地図から顔を上げながら「……おかしい」と呟く。
「どうしたんですか?」
「いや……学園から支給された地図だと、そろそろ討伐対象の魔獣がいる生息地だから出会ってもいい頃合いなのに、全く魔獣がいる気配がしないんだ。リッカルド、君はなにか感じないか?」
「そうだな、なんか……ダンジョンの中にいるのに静か過ぎる気がする」
今まで余裕そうだった二人の表情が硬くなっていくのを見て、また不安が押し寄せてくる。
いったいダンジョン内でなにが起きているだろう?
「なんか嫌な予感がする。一度ここから離れ――」
メルヴィン先輩がそう言って方向転換をしようとした瞬間、急に突風が吹き荒れる。
「うわっ!」
「くっ!」
「なんだこの風はっ!」
片手で顔を防ぎながら風が通り過ぎるのを待つ。
突然嵐に巻き込まれたかのような暴風が僕達を襲ったが、その風が音もなく突然止む。
なにが起きたのかと目元を覆っていた腕をそっと下ろして目を開けると――
僕達三人は、今までいたところとは全く異なる場所に立っていた。
辺りを見わしてみても森の中とは全く違い……まるで、本で見たことがあるような古代遺跡の中にいる雰囲気だった。
「……ここは?」
自分の声が周囲に反響する。
それだけ中が広いのだと分かるんだけど、突然の出来事に瞬きしながら先輩達を見たら、リッカルド先輩とメルヴィン先輩の顔が蒼白になっていた。
「せ、先輩、どうしたんですか? なにかあったんですか?」
「リアム君……ちょ~っとヤバい状況になったかも」
「え?」
顔を引き攣らせたリッカルド先輩が「俺達、ダンジョンに『喰われた』みたいだ」と教えてくれたんだけど、その意味が分からない。
「どうやら僕達は、学園が所有するダンジョンとは全然違うダンジョンに飛ばされたたみたいなんだ」
「……それってヤバくないですか?」
「うん、かなりヤバい」
メルヴィン先輩はそう言うと、緊急避難の魔法を発動させようと札に刻印されている魔法陣に手をかざす。
だけど、なんの反応もしない。
「くそっ、なんで反応しないんだよ!」
「……おいメルヴィン」
「煩いな。今忙しんだけど」
「いや、それよりももっと切迫した状況になってるんだが」
「あぁ?」
ガラが悪い感じに返事をしたメルヴィン先輩が、リッカルド先輩の視線の先を見るように顔を上げて、ピタッと体の動きを止めた。
どうしたんだろうと、僕も二人が見ている方向へ視線を向け――ヒュッと息を飲む。
数えることも出来ないくらいの巨大な蜘蛛が、天井や壁、地面の上をガサガサと音を立てながら動き、こちらに向かってくるのが見えたからだ。
それを持っているメルヴィン先輩が地図を見ながら、リッカルド先輩に指示を出している。
「リアム君、ダンジョン内は瘴気があるから定期的に『浄化薬』を摂取するのを忘れないで」
「分かりました」
頷いた僕は札の裏に刻印された魔法陣に触れて「浄化薬」と唱える。
すると札の表面に小さな魔法陣が浮き上がり、小さな小瓶が出てきた。
この瓶の中には瘴気を解毒してくれる中和剤が入っていて、浄化師が調合した魔法薬の一つなんだって。
僕の能力でも作れないことはないけど、ダンジョンの中に長時間入っていれるほどの持続時間が長い浄化薬は作れなさそうだなと思いつつ、薬を飲む。
少し息苦しく感じていたものが、スーッとスッキリして視界がクリアになる。
僕が浄化薬を飲むのをしっかり見てから、メルヴィン先輩がリッカルド先輩へ声をかけた。
「リッカルド、そろそろ目的地に着くから周囲の確認は怠らないようにしてくれ」
「了解」
それからまたしばらくダンジョン内を歩いていたんだけど、コンパスのような魔道具を手に持つメルヴィン先輩が、見ていた地図から顔を上げながら「……おかしい」と呟く。
「どうしたんですか?」
「いや……学園から支給された地図だと、そろそろ討伐対象の魔獣がいる生息地だから出会ってもいい頃合いなのに、全く魔獣がいる気配がしないんだ。リッカルド、君はなにか感じないか?」
「そうだな、なんか……ダンジョンの中にいるのに静か過ぎる気がする」
今まで余裕そうだった二人の表情が硬くなっていくのを見て、また不安が押し寄せてくる。
いったいダンジョン内でなにが起きているだろう?
「なんか嫌な予感がする。一度ここから離れ――」
メルヴィン先輩がそう言って方向転換をしようとした瞬間、急に突風が吹き荒れる。
「うわっ!」
「くっ!」
「なんだこの風はっ!」
片手で顔を防ぎながら風が通り過ぎるのを待つ。
突然嵐に巻き込まれたかのような暴風が僕達を襲ったが、その風が音もなく突然止む。
なにが起きたのかと目元を覆っていた腕をそっと下ろして目を開けると――
僕達三人は、今までいたところとは全く異なる場所に立っていた。
辺りを見わしてみても森の中とは全く違い……まるで、本で見たことがあるような古代遺跡の中にいる雰囲気だった。
「……ここは?」
自分の声が周囲に反響する。
それだけ中が広いのだと分かるんだけど、突然の出来事に瞬きしながら先輩達を見たら、リッカルド先輩とメルヴィン先輩の顔が蒼白になっていた。
「せ、先輩、どうしたんですか? なにかあったんですか?」
「リアム君……ちょ~っとヤバい状況になったかも」
「え?」
顔を引き攣らせたリッカルド先輩が「俺達、ダンジョンに『喰われた』みたいだ」と教えてくれたんだけど、その意味が分からない。
「どうやら僕達は、学園が所有するダンジョンとは全然違うダンジョンに飛ばされたたみたいなんだ」
「……それってヤバくないですか?」
「うん、かなりヤバい」
メルヴィン先輩はそう言うと、緊急避難の魔法を発動させようと札に刻印されている魔法陣に手をかざす。
だけど、なんの反応もしない。
「くそっ、なんで反応しないんだよ!」
「……おいメルヴィン」
「煩いな。今忙しんだけど」
「いや、それよりももっと切迫した状況になってるんだが」
「あぁ?」
ガラが悪い感じに返事をしたメルヴィン先輩が、リッカルド先輩の視線の先を見るように顔を上げて、ピタッと体の動きを止めた。
どうしたんだろうと、僕も二人が見ている方向へ視線を向け――ヒュッと息を飲む。
数えることも出来ないくらいの巨大な蜘蛛が、天井や壁、地面の上をガサガサと音を立てながら動き、こちらに向かってくるのが見えたからだ。
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