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 しばらく二人で歩いていると、僕の方を見たミリアちゃんが口を開く。

「学園に入ってそろそろ一ヶ月になる頃でしょ? どう? 慣れた?」
「ん~、まだ慣れてはいないかな。でも、皆が……先生やクラスの人達が分からないところを教えてくれるから、なんとか頑張れてる……かな」

 周りは貴族の人達が多くて、孤児で途中から入って来た自分はいじめられるんじゃないかと思っていたと呟いたら、ミリアちゃんはそれは無いわと笑う。

「リアム君はこの学園の創設者を知ってる?」
「創設者? えっと……分かんない」
「あのね、この学園の創設者もリアム君と同じ孤児だったの」
「そうなの?」
「えぇそうよ。小さい頃は孤児だからって周りに馬鹿にされたりしたけど、歯を食いしばって耐えて、馬鹿にした奴等を見返すために魔法の練度を上げ続けて……大人になった頃には『大魔法師』の称号を得たの。そんな人が創った学園だから、ちゃんと認められて入学した学生が孤児だからと馬鹿にされたり見下すような者がいたら、皇族だろうが貴族だろうがどんなに将来有望だと言われる生徒だろうが、即刻退学処分になるのよ」
「そうなの!?」

 孤児だからと僕を見下したり馬鹿にした瞬間、問答無用で退学になるのであれば……恐ろしくてそんなことはしないはず。
 ミリアちゃんの話によれば、何十年も前までは皇族貴族の退学者が続出し続けるというかなり混沌とした時代があったらしい。

「一流の授業を学べる学園には入りたい。だけど、平民の――しかも孤児がいる空間で一緒にいたくないと皇族貴族達が言うものだから、皇室からの圧力もかなり酷かったんだけど、それを跳ね除けられるほどの力を大魔法師は持っていたのよね。だからそれ以降もバンバン退学者が続出したのよ」
「ほぇ~」
「それで、貴族達もようやく折れて『退学したくなければ、いじめるな、馬鹿にするな、見下すな』が浸透したのよね。だから、リアム君はある意味では快適な学園生活を送れると思うわ」
「なるほど」
「それに、この学園に入って来た孤児の子達って、創設者から始まっていい意味でも悪い意味でもことが多いのよね~」

 ミリアちゃんはそう言うと僕を見て、「リアム君のこれからが楽しみだわ」と微笑む。
 いや、僕は浄化師としての能力があまりないから、ご期待には添えないと思う。
 ハハハと乾いた笑いをしていると、寮の門まで来ているのに気付く。

「それじゃあ私は学園の方に用事があるから、ここでさよならね」
「うん、じゃあね。話せてよかったよ」
「私も」

 お互い歩き出して、僕は寮の中に入り部屋へと戻る。
 部屋に戻って椅子に座ってから、そう言えばミリアちゃんは僕のことを知ってたみたいだけど、ミリアちゃんがどこのクラスに属しているのか聞いてなかった。

「……まぁ、いつか学園内で出会えるでしょ」

 その時の僕はそう思っていたんだけど……学園を卒業するその時まで、ミリアちゃんと再会することはなかった。


 二日後――

 ついに全学年混合実技試験の日がやって来た。
 浄化科クラスに入って生徒全員が椅子に座って待機をしていると、ちょっと疲れた表情の担当教員が教室に入って来て、混合実技試験のパーティ表を個々に渡していく。

「いいか君達、先日渡したプリントにパーティの番号とメンバーの名前が書かれていると思うが、今渡したプリントと同じかどうか確認しなさい」

 皆が「はぁ~い」と返事をして各々のプリントを確認していると、パーティ番号が『1番』の順から順番に呼ばれて教壇にいる先生の方へ行き、札のようなものを受け取って廊下へと出て行く。
 ドキドキしながら呼ばれるのを待っていると、ようやく自分の番号が呼ばれて立ち上がる。
 先生の前に立つと、「リアム君、気を付けて行っておいで。頑張るんだよ」と励まされながら手のひらサイズの札を受け取る。

 木製の薄型の札にはパーティ番号の数字が刻印されてて、生徒の命の危機にはこの札が割れて魔法が発動し、安全な場所まで僕達生徒を運んでくれるものらしい。

 廊下に出ると、僕の前に光に透けた鳥――魔法で作られた伝書鳩みたいなものが飛んでいて、『君はリアム・セレグレイトで間違いありませんね?」と突然声を掛けられた。
 喋る鳥にめちゃくちゃ驚きながらコクコクと頭を振れば、『それでは、試験場へお連れ致します』と言って、突然鳥の体が光り始める。

「うわっ!?」

 眩しくて腕で目を覆っていたんだけど、光が落ち着いて腕を下げると――見たこともない場所に僕は立っていた。
 突然目の前に広がる森を見て固まっていると、後ろの方から「リアム・セレグレイト」と、先ほどの鳥から発せられた声が聞こえてきた。

 返事をしながら後ろを向けば、そこには三人の人物が立っていた。
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