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アルテミリアス魔法学園 1

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 モートンさんと院長先生の三人で話し合いをしてから数日後、孤児院の前に学園の紋章が描かれた馬車が止まっていた。

 周囲の人々も凄い馬車が孤児院の前に止まっていると、物珍しいものを一目見ようと集まっている。
 学園の制服を着て専用の学生鞄を手に持って孤児院から出た僕は、緊張と照れで若干顔が赤くなっていた。

「それじゃあリアム君。体調には気を付けて過ごしなさい。なにかあったら戻って来てもいいんだからね」
「はい、院長先生。ありがとうございます……それじゃ皆、行ってくるね!」

 僕は馬車に乗ると、見送りに来てくれた先生と孤児院の皆に馬車の中から姿が見えなくなるまで手を振っていた。
 手を振る皆の姿が見えなくなると姿勢を戻し、正面に座るモートンさんを見る。
 モートンさんは僕が学園に入る為に推薦してくれた魔法師なので、学園に行くまでの道のりを保護者として同席してくれることになっている。

「……寂しいかい?」
「寂しくない……と言えば嘘になるけど、これからいろんなことを学べるっていうのは、楽しみの一つかな」
「そうだね。学園に行けば学ぶことは多岐に渡ると思うし、途中入学になるから友好な人間関係を築くのに少し大変だとは思うけど、何かあれば『魔塔』にいるから手紙を出してくれ」
「はい、ありがとうございます」

 封筒を出せば直接モートンさんの元へ手紙が届く、魔法の便せんと封筒を数枚もらったので大切に鞄の中に仕舞っておく。
 僕は鞄を両手で抱きしめながら、学園ではどんな人との出会いがあるんだろうと胸を躍らせていたのだった。


 モートンさんの話では、僕がいた町から学園がある場所まで馬車で移動しても通常一ヶ月以上かかるらしいんだけど、都市と都市を繋ぐ『魔通路』を通れば一瞬で行き来することが出来るんだって。
 ただ、一般の人が使う魔通路と貴族が使う魔通路は別々に別れているのと、商業用と軍事用などと使う種類が分かれているんだとか。
 まぁ、いろんな魔通路があるんだということは分かったかな。
 途中お昼休憩を取りながらも馬車に揺られながら外の景色を眺めていたら、元いた町から二つ分ほど離れた商業が栄える街へとやって来た。
 そこは僕がいた町よりも都会化が進んでいて、立ち並ぶ家々を見ながら口をぽかんと開けているとモートンさんに笑われてしまった。

「ふふふ、そろそろ魔通路の門に入るよリアム君……ほら、前を見てみれば見えるよ」

 馬車の窓に顔をくっ付けるようにして前方を見れば、見上げるくら巨大な門があるのが見えた。
 門の扉は開いていて、馬車が通る場所……というか門の中がまるで水が波打っているようだ。

「も、モートンさん、魔通路の中って水に覆われているんですか?」
「あれは水のように見えるけど、強力な『魔力』があの場で漂っているんだよ」
「魔力?」
「そう。学園に行って『魔法科』の中でも『魔法特進科』に進むことがあれば学ぶと思うけど――」

 モートンさんは魔通路の仕組みについていろいろと教えてはくれたんだけど、僕にはサッパリ分からなかったのでウンウンと頷いておいた。
 それから門の側まで馬車が進むと、御者台に座っている人が門番みたいな人に通行証みたいなものを見せている。
 そしていざ魔通路の中へ!
 ワクワクしながら魔通路の中に入れば、ほんの一瞬だけ眩い光に包まれて目を閉じる。
 少ししてから目を開けると――学園近くの魔通路に着いていたようだった。
 魔通路から出て馬車を十分ほど走らせれば、学園の門前にまで来ていた。

「はい、到着したよ」
「え、もう……?」
「魔通路を使えば本当に一瞬だからね」

 なんと言うか、孤児院を出発してからここに着くまで二時間もかかっていないからか、学園に着いたという実感がない。
 馬車から降りて、モートンさんに連れられて学園の中に足を踏み入れる。
 授業中なのか他の学生の姿は見当たらない。
 これから編入の手続きをするために学園長に会いに行くと言われ、二人で静かな廊下を歩き続ける。
 学園の敷地に入ってから歩き続けてからニ十分ほど経って、ようやくモートンさんが立ち止まった。

「ここが学園長室だ。ふふ、怖い人じゃないからそんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「は、はい」

 緊張しなくてもいいとは言っても、絶対緊張するに決まってる。
 ガチガチになった手足を動かしながらモートンさんに続いて部屋に入ると、机を挟んで両向かいに並べられているソファーの一つに、長い髭が特徴的なご老人が座っているのに気付く。

「おぉ、モートン君よく来たのぅ」
「学園長お久しぶりです」
「うむうむ……ところで、君の後ろにいるのが例の子かのぅ?」
「はい。……リアム君」
「あ、はい。あの、リアム・セレグレイトです。十三歳です。よろしくお願いします!」
「元気があってよろしぃ」

 長い髭の学園長は僕とモートンさんに向かい側のソファーに座るように勧めてから、モートンさんに顔を向ける。

「モートン君が言うから間違いはないとは思うが……一応確認の為に、ワシの方でもリアム君が浄化師の卵かどうか確認をしようと思うが、いいかのぅ?」 

 学園長にそう聞かれたモートンさんは「はい、大丈夫です」と頷く。

「では早速始めるとしようかのぅ」

 なにをするのかと見ていると――学園長が空中で指をクルリと振るうと、机の上に光と共に黒紫色に染まった水晶が出現した。

「リアム君、すまんがこれに片手でもいいんで触れてみてくれんかね?」
「は、はい」

 なにが起きるのだろうと緊張しながら腕を伸ばして水晶に触れると、僕が触れた部分から黒紫色の水晶のごく一部が透明になった。

「ふむ……確かに浄化する能力は有しておるな」

 学園長は長い髭を片手で撫でつけながら水晶から視線を離し、僕に目を向けニッコリと笑う。

「リアム君、『アルテミリアス魔法学園』へようこそ。君の入学を許可しよう」
「あ、ありがとうございます! 僕、頑張ります!」

 立ち上がってそう叫ぶと、「ホッホッホッ。元気がいいのぅ」と笑われてしまった。
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