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第三章 王都ギルド

045 王都ギルド加盟

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 繁華街の高級レストラン「ミアサドーラ」でのアイリとレティとの会食も、食後のティータイムに入っていた。今日はアイリのワイン禁止令で紅茶になっているからだ。俺は以前から話が出ていた、週末に予定されている「生徒会内情説明会」の話を始める。なぜか途端に目を輝かせる二人。

「グリーンウォルドが生徒会終了後に説明してくれる予定になっている」

「楽しみですね♪」
「いよいよ秘密が暴かれるのよね!」

 何を期待しておるのだ君たちは。

「で、その席に参加したいと申し出ている人物がいる」

「誰なの?」

「ノルト=クラウディス公爵令嬢だ」

「えっ!」

 聞いてきたレティが動きを止めた。ちょっと大物だったか。

「どうして公爵令嬢が聞きたいと言われているのですか?」

「最初に『緊急支援貸付』の話を生徒会と話していたとき、言うことを聞かない生徒会長にガツンと言って認めさせたのが公爵令嬢なんだよ」

「へぇ、公爵令嬢がねぇ」
「そうだったんだのですね」

 二人は驚いた顔を見せた。

「ロタスティの個室の確保も令嬢サイドがやってくれる事になった。二人の従者も参加する。だからクルトを含めて、全員で八人だ」

「分かったわ」

 少し複雑そうな顔のレティ。相手は公爵令嬢、いくら貴族のレティでも高位貴族相手ならば身構えるのは当然か。俺はアイリに言った。

「暫く図書館には行けそうもない。来週に行われる『実技対抗戦』のトレーニングをしなきゃならないから」

「大変ねぇ」

 話題を変えた俺の話に対し、他人事のように言うレティ。君も俺と同じく参加者だろうと言うと、違うと首を横に振った。

「私達ヒーラーは治療部門に志願すると参加が免除されるの」

「はぁ? 私達って・・・・・」

「私も不参加なんです」

 にこやかに微笑んで答えるアイリ。いやいやいや、ゲームにそんな描写なかったぞ、おい。君等さんざん戦ってただろ。好感度はどうなるんだ。ていうか、君等いつになったら攻略対象者と絡むんだよ。このまま好感度を上げずに終わらせるつもりなのか。

「ま、グレン頑張ってね。怪我したら治療してあげるから」

 そう言いながらレティが微笑んだ。それはまさに小悪魔の微笑みだった。

 ――アルフォード商会の王都ギルド加盟式に参加するため、本拠地モンセルから王都トラニアスに向かっていたザルツとロバートが学園にやってきたのは昼休みの事である。二限目が終わった後、学園の馬車溜まりに駆けつけると、既に二人の姿があった。

「おおグレン! また背が伸びたな」
「久しぶりだな。元気にしてたか」

 俺を見つけて駆け寄ってくるザルツとロバート。考えてもみれば手紙こそやり取りはしていたが、学園入学以来、一度もモンセルに戻っていない訳で、そりゃ久々になるよな、と思った。

「よく来てくれた。こんな大事な話を勝手に進めてすまない」

「何を言っている。すごいことだぞ。よくやった」

「そうだぜ。父さんの言う通りだ」

 こちらの都合で交渉を進めた事を詫びると、逆に褒められてしまった。少し気恥ずかしかったがそれは出さず、二人を学食「ロタスティ」に案内した。

「うまいな、これ」

 何を注文すると聞いて、厚切りステーキを頼んだロバートは、一口食べてそう言った。お前毎日食べているのか、と無邪気に聞いてくるロバート。俺から見ればまだまだ子供だ。

「もはや学食ではないな」

 ロースステーキを食べていたザルツは感想を述べた。まったくその通りだよ。学園に来て数少ないヒットだよな、ここは。

 食事を終え、紅茶を飲んでいるとザルツが俺に言ってきた。

「一五〇億をウチが出す」

「いや、俺が言い出した事だから俺が出すよ」

 発足予定の『金融ギルド』の出資の件だ。俺はジェドラ親子と若旦那ファーナスにアルフォード商会一五〇億ラント、俺個人で一五〇ラント出資すると表明した。これは俺が勝手に決めた額なので、全額俺が出すつもりでいたし、既に手紙にもそう書いた。その一五〇億をザルツはアルフォード商会で出すと言っている訳だ。

「いや、お前も一五〇億出せ」

 ん? どういうことだ。俺は三〇〇億のカネを出すつもりだぞ。

「いや出すよ、俺が」

「違う。お前も一五〇億出せと言っているのだ」

 ザルツの言葉を聞いた俺は思わず立ち上がった。

「ええええええええええええ!」

 俺が発した驚愕の叫びはロタスティ全体に響き渡った。一斉に視線が集中しているのに気付いた俺は大人しく椅子に座る。

「つまりは増資ということか」

「そうだ」

 小声で聞いた俺にザルツは頷いだ。これには一本取られた。

「出せるか」

「もちろん」

 改めて問われて俺は快諾した。いやぁ、ザルツは俺の上を行く。一五〇億に一五〇億。それが二口。合わせ六〇〇億ラント。ジェドラ、ファーナスも同じく増資すれば、合計一二〇〇億ラント。日本円で三兆六〇〇〇億円。その上に多方面から出資が来る。これは間違いなくノルデン最大の金融組織、金融集団となる。

「同じやるのであれば大きくやったほうがいい、そうは思わんか?」

「確かに」

「だからジェドラ商会にも、ファーナス商会にも言ってみようと思う。いずれ出さなきゃいけないのであれば、初動で勝負したほうがいい」

 ここらのセンスはザルツの方が何段も上。俺なんか足元にも及ばない。経営というか営業戦略というか、そういうものが秀でているのだ。こういうとき、俺は「ああ、社畜サラリーマンなんだな」と痛感する。受け身であるか、攻め時を心得ているかで、ここまで変わってくるのだ。

「こんにちは」

 俺とザルツが話していると、脇から二人の女子生徒が近づいてきた。レティとアイリだ。俺が立ち上がるとザルツとロバートも一緒に立ち上がった。

「こちらがリッツェル子爵家息女レティシア嬢とローランさん。同級生だ」
「父のザルツと、兄のロバートだ」

 俺が紹介するとそれぞれが挨拶を交わした。特にレティに関しては継承者であるロバートとの間に誼を結ぶ必要があったので、ロバートをすぐ脇まで呼んで、改めて挨拶させた。挨拶を終え二人が立ち去った後、ロバートが俺に囁く。

「すごい美人じゃないか」

 当たり前だ。この世界のヒロインだぞ。美人じゃないわけないだろうが。

「お前、よろしくやってんだな。リサが言ってた通りだ」

「何を言っていた」

 気になる。リサは俺の何をもって上手くやると思ったのか?

「まぁ、それはリサに聞いてくれ」

 そう言って俺の肩を叩くと、ロバートが席に戻った。気になる。気になるが、それは今後の宿題だな。そんなことを思っていると今度はアーサーとスクロードがやってきた。丁度いい、両方とも嫡嗣だ。

「伯爵家嫡嗣ボルトン卿と、スクロード男爵家嫡嗣マーロン殿だ」

 伯爵家と男爵家では嫡嗣に対する呼称も異なる。アーサーはボルトン卿で、スクロードはマーロン殿なのだ。伯爵家以上と、子爵男爵では扱いが違うのである。これが娘であれば、伯爵以上が令嬢、子爵男爵が息女。クリスならばノルト=クラウディス公爵令嬢、レティならばリッチェル子爵息女レティシア嬢となる。貴族社会は非常に面倒だ。

「アルフォード商会当主のザルツです。愚息グレンがお世話になっております」

 立ち上がったザルツは恭しく頭を下げた。それに合わせてアーサーとスクロードは頭を下げ、名乗りを上げる。二人共堂々と名乗る辺りはやはり貴族。そんな二人に俺はロバートを引き合わせた。貴族との間の窓口はロバートとするためには、レティの時と同様の処置を行う必要がある。今後、アルフォード商会の貴族担当を担うのはロバートだ。

 王都ギルド加盟式の時間も迫ってきたので、ザルツとロバートは席を立ち、馬車溜まりに向かった。俺も見送りのために同行する。

「じゃ、俺は授業が終わったら『グラバーラス・ノルデン』に向かう」

「ああ、夕方会おう」

 二人を乗せた馬車は王都ギルドに向かっていった。
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