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第35話 ロワンとクルード
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貴族学院時代、ずっと首席であったロワンの前へ現れたクルードに、いとも簡単に全ての学科で首席の座を奪われた。突如現れたこの男の素性を調べると、いつも奴隷を従えていて『奴隷貴族』なんて言われている。試験の順位発表がされ、初めて二位に落ち、クルードを睨みつけたロワンと一瞬、目があったが、まるで道に転がる小石を見るような目つきに怒りを覚えた。
剣術においてもそうだ。並みの大人ですらロワンには敵わないほどの実力を持っていたにも関わらず、見たこともない流派の剣術を操るクルードに、全く歯が立たない。息を切らし、地面に膝を付くロワンを、道で潰れた蟻を見るような目で見る。
クルードの、あの目が嫌だった。
ロワンは必死に勉学に励んだ。クルードの剣の師が、クルードの連れている奴隷だという事を突き止め、その奴隷、マシルに頭を下げ剣術の指南も受けた。マシルの指導は厳しかった。半年経ったある日、マシルと剣の修練をしているところにクルードが来る。
「マシル。今日の晩飯だけど……ん? 何だ? こいつは」
――な! もう一年間も同じ学院にいるんだぞ! 私のこと覚えてすらいないのか。
「ふざけんな! クルード!」
「俺のこと知っているのか?」
「私と剣で勝負しろ」
「断る、面倒くさい」
ロワンはクルードに相手にすら、されていなかったのだ。
「クルード様、ちょっと、このロワン様とお手合わせをお願いします」
「ふん、マシルが言うなら、仕方ないな。ほら、来い」
結果、半年ほど剣の修練に明け暮れたが、全く剣はクルードに届かなかった。
――ああ、またあの目だ……くそ。
学院を卒業後、兵士院に配属されたロワンのもとに、内部の不正調査のために監察官としてクルードが来た。クルードの待つ取調室に入り、正面に座る。
「ここの副官の不正調査をしている。まず、名前は?」
――名前は? だと!
――クルード……許さぬ。いつか、いつかお前を越えてやる……
***
ロワンの目は虚ろに開き、天井を見つめる。
「私は……生きているのか」
「ロワン! 目が覚めたか」
「な、クルード……殿下」
「待ってろ、すぐに医官を連れてくる」
「待ってくれ、いや、待ってください、殿下。お話があります」
「ああ、そのままの態勢でいい。聞かせてくれ」
「私が、持ってきた密書、あれに、第二王子派の謀反の証拠があります」
「ああ。確認させてもらった。しかし、なぜ同じ派閥のお前が……」
「私が、あの派閥に入ったのは、上級貴族になるためだったのです」
「学院卒業後、お前が配属されたところの長は第二王子派ばかりだったからな」
――な……私の配属されたとろこを把握してたのか?
「しかし、国を傾けるような、邪道には落ちたくなかったんです」
「ああ、お前は学院にいる頃から正義感が強かったもんな」
――なんで学院時代の私のことを知っている。相手にすらしてなかったじゃないか。
「密書は派閥の使者からボレアリスの使者の手に渡ってから、奪ったので、派閥の連中は作戦がうまく行っていると思い込んでるはずです」
「そうか。そのために……相手は一人ではなかっただろう。よく戦った。お前の剣の腕は確かだからな。よく、あれほどマシルの剣術を習得したと感心していた」
――手合わせをしたのはあの時が最後だぞ。おぼえて……いるのか。
「私は、あなたを越えたかった……学問も武術も……地位も」
「地位は、越えたじゃないか。結局、第三王子になってしまって……すまなかった。でもな、俺は昔からお前を認めていたんだ。ライバルとして」
――ライバルだと?
「ライバルだと? あれだけ……俺を無視してたじゃないか」
「私は、幼少期に人と接してこなかったから、うまくないんだ、そういうの。すまない。だが、学院時代から私とお前についてこれる者などいなかっただろ? ずっとライバルだと思っていたし、勿論、友だと思っていた」
――何を言っている! では私は一体何のために、お前に認められるために、お前の……お前の……。
ロワンの目に涙が溢れる。
「俺はなクルード! お前の友になりたかったんだよ!」
「勿論だロワン。お前は私の友だ!」
「しかし、私は謀反に加担したと同じだ。もう終わりだよ」
「お前のお陰で、謀反を阻止できたんだ。それに、友を見捨てるはずないだろ」
「殿下……ありがとうございます」
「やめろって、公の場以外は今まで通りの話し方にしてくれ」
「クルード……お前……いい奴だったんだな」
「ふん、今頃気付いたのかよ」
剣術においてもそうだ。並みの大人ですらロワンには敵わないほどの実力を持っていたにも関わらず、見たこともない流派の剣術を操るクルードに、全く歯が立たない。息を切らし、地面に膝を付くロワンを、道で潰れた蟻を見るような目で見る。
クルードの、あの目が嫌だった。
ロワンは必死に勉学に励んだ。クルードの剣の師が、クルードの連れている奴隷だという事を突き止め、その奴隷、マシルに頭を下げ剣術の指南も受けた。マシルの指導は厳しかった。半年経ったある日、マシルと剣の修練をしているところにクルードが来る。
「マシル。今日の晩飯だけど……ん? 何だ? こいつは」
――な! もう一年間も同じ学院にいるんだぞ! 私のこと覚えてすらいないのか。
「ふざけんな! クルード!」
「俺のこと知っているのか?」
「私と剣で勝負しろ」
「断る、面倒くさい」
ロワンはクルードに相手にすら、されていなかったのだ。
「クルード様、ちょっと、このロワン様とお手合わせをお願いします」
「ふん、マシルが言うなら、仕方ないな。ほら、来い」
結果、半年ほど剣の修練に明け暮れたが、全く剣はクルードに届かなかった。
――ああ、またあの目だ……くそ。
学院を卒業後、兵士院に配属されたロワンのもとに、内部の不正調査のために監察官としてクルードが来た。クルードの待つ取調室に入り、正面に座る。
「ここの副官の不正調査をしている。まず、名前は?」
――名前は? だと!
――クルード……許さぬ。いつか、いつかお前を越えてやる……
***
ロワンの目は虚ろに開き、天井を見つめる。
「私は……生きているのか」
「ロワン! 目が覚めたか」
「な、クルード……殿下」
「待ってろ、すぐに医官を連れてくる」
「待ってくれ、いや、待ってください、殿下。お話があります」
「ああ、そのままの態勢でいい。聞かせてくれ」
「私が、持ってきた密書、あれに、第二王子派の謀反の証拠があります」
「ああ。確認させてもらった。しかし、なぜ同じ派閥のお前が……」
「私が、あの派閥に入ったのは、上級貴族になるためだったのです」
「学院卒業後、お前が配属されたところの長は第二王子派ばかりだったからな」
――な……私の配属されたとろこを把握してたのか?
「しかし、国を傾けるような、邪道には落ちたくなかったんです」
「ああ、お前は学院にいる頃から正義感が強かったもんな」
――なんで学院時代の私のことを知っている。相手にすらしてなかったじゃないか。
「密書は派閥の使者からボレアリスの使者の手に渡ってから、奪ったので、派閥の連中は作戦がうまく行っていると思い込んでるはずです」
「そうか。そのために……相手は一人ではなかっただろう。よく戦った。お前の剣の腕は確かだからな。よく、あれほどマシルの剣術を習得したと感心していた」
――手合わせをしたのはあの時が最後だぞ。おぼえて……いるのか。
「私は、あなたを越えたかった……学問も武術も……地位も」
「地位は、越えたじゃないか。結局、第三王子になってしまって……すまなかった。でもな、俺は昔からお前を認めていたんだ。ライバルとして」
――ライバルだと?
「ライバルだと? あれだけ……俺を無視してたじゃないか」
「私は、幼少期に人と接してこなかったから、うまくないんだ、そういうの。すまない。だが、学院時代から私とお前についてこれる者などいなかっただろ? ずっとライバルだと思っていたし、勿論、友だと思っていた」
――何を言っている! では私は一体何のために、お前に認められるために、お前の……お前の……。
ロワンの目に涙が溢れる。
「俺はなクルード! お前の友になりたかったんだよ!」
「勿論だロワン。お前は私の友だ!」
「しかし、私は謀反に加担したと同じだ。もう終わりだよ」
「お前のお陰で、謀反を阻止できたんだ。それに、友を見捨てるはずないだろ」
「殿下……ありがとうございます」
「やめろって、公の場以外は今まで通りの話し方にしてくれ」
「クルード……お前……いい奴だったんだな」
「ふん、今頃気付いたのかよ」
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