33 / 43
第33話 ルーディアスの実力
しおりを挟む
ベクトの側近だった者たちの徹底的な調査、この地域のヘビの捕獲、血清の精製。滞在中にやることは、この三つに決まった。ベクトが亡くなった事実が、ボレアリス王国に漏れれば、戦を仕掛けてくるかもしれない。いや、間者がいるとすれば、もう漏れている可能性も低くない。トルスの護衛と側近の調査はルーディアスが買って出た。フィリア、クルード、マシルの三人はヘビの捕獲のために、国境近くの森や湿地帯へと向かう。
「ルーディアス様が護衛って、大丈夫なのですか? トルス様の方がよっぽど強そうなのに」
「フフン、実はですね、フィリアさん。あの方はの強さは尋常じゃないんですよ」
「え? そうなのですか? 信じられないわ」
「全盛期の国王陛下と同じくらい強いという噂です」
若き日の国王は、冒険者として、戦士として、国中だけでなく隣国にまで『双剣のライアス』という名を馳せるほどの実力者であった。この国の国章が双剣なのは国王の戦闘スタイルから来ているらしい。そして、ルーディアスは双剣の戦闘技術を国王から直接、手ほどきを受けている。その腕前は国王も認めるところなのだそう。
「マシル様とどちらが強いですか?」
「実際、手合わせをしたことはありませんが、うーん……もしかしたら私より強いかもしれません」
「まさか! マシル様が負けるなんて……想像もできないわ」
***
第二王子派の長からの書簡を運ぶために、ボレアリス王国に向かう使者の後を追う者がいる。使者に気付かれないよう、距離を取り追跡している。使者は国境近辺で馬を止めた。誰かと待ち合わせをしているのだろうか。辺りを見回すが、誰も居ないことを確認したのか、木陰に座り携行食を食べ休憩を取る。
「ガサガサ」と音をたて、背の高い草木の間から二人の男が現れた。纏う衣を見ると、どうやらボレアリス王国の者たちらしい。使者は、書簡を渡すと、馬に跨り来た道を戻っていく。
「これが将軍宛の密書か」
「こういう書簡って、中身を見てみたくなるよな」
「馬鹿か! 封をされてるのにどうやって見るんだよ」
「まあな。中を見たなんてことがバレたら殺されちまうしな」
「貴様ら、その書簡を渡してもらおうか」
「何者だ!?」
茂みから出て来て、二人のボレアリスの使者らしき者たちに声を掛けたのはロワンであった。ただ書簡を奪うだけならば使者を殺してしまえばよかったのだが、使者を無事に帰すことで、第二王子派の思惑がうまく行っていると思わせたかったのだろう。これは第二王子派に名を連ねるロワンの派閥に対する明らかな裏切りである。
ボレアリスの使者たちは剣を抜いて身構える。呼応するようにロワンは剣を抜いた。
***
マウンライケの砦にある訓練場には、木剣で手合わせをしているルーディアスとトルスがいる。幼少期に王宮の訓練場でお遊びの剣士ごっこをして以来のことだ。
「くっ! ルーディアス様、ちょっとは手加減してくれませんか!」
「してるよ。剣一本しか使ってないだろ? 私は本来、双剣だ」
「う、うそだろ……」
何度も木剣を飛ばされるトルスは、地面から木剣を拾うことも辛そうだ。それを、無理矢理に立ち上がらせるルーディアスは息一つ切らしていない。ぶつかり合う木剣の音に合わせて、会話をする二人。
「この数日間、側近は、ほとんど調べたんだけどなぁ。これと言って怪しいやつ居なかったな」
「はぁ、はぁ、そうですね。本当に間者が潜んでいるのでしょうか?」
「うーん。おかしいなぁ。トルスさ、わざと殺されてみる?」
「は? どういうことですか?」
「十中八九、ヘビ毒だと思うんだ。それなら戦場の聖女が治してくれるはず」
「もし、フィリア医官が治せなかったら……」
ルーディアスはトルスの木剣を上へ弾き飛ばし、左手で掴む。トルスの背後に回り、片方の木剣を地面に刺し、もう片方で膝裏を打つ。体を反らし倒れるトルスの首に双剣を添えた。
「死ぬだろうね」
「……参りました」
「ははは。まぁ、大丈夫さ、きっと」
フィリアたちが砦に戻ると、闘技場にいるトルスが、ルーディアスに差し伸べられた手を握り、立ち上がる姿が見えた。
「兄上、こんなときに遊んでいらっしゃたのですか?」
「運動不足解消がてら作戦会議さ! ここなら話を盗み聞きされないからね。で、どうだったヘビの方は」
「……最悪な気分ですよ。私のヘビ嫌いは知っているでしょう」
マシルの手には捕獲したヘビが何袋も、ぶら下がっていた。早速厩舎へ行き、血清を作る準備を始めるフィリアの作業が終わったのは、日が暮れる頃であった。
「ルーディアス様が護衛って、大丈夫なのですか? トルス様の方がよっぽど強そうなのに」
「フフン、実はですね、フィリアさん。あの方はの強さは尋常じゃないんですよ」
「え? そうなのですか? 信じられないわ」
「全盛期の国王陛下と同じくらい強いという噂です」
若き日の国王は、冒険者として、戦士として、国中だけでなく隣国にまで『双剣のライアス』という名を馳せるほどの実力者であった。この国の国章が双剣なのは国王の戦闘スタイルから来ているらしい。そして、ルーディアスは双剣の戦闘技術を国王から直接、手ほどきを受けている。その腕前は国王も認めるところなのだそう。
「マシル様とどちらが強いですか?」
「実際、手合わせをしたことはありませんが、うーん……もしかしたら私より強いかもしれません」
「まさか! マシル様が負けるなんて……想像もできないわ」
***
第二王子派の長からの書簡を運ぶために、ボレアリス王国に向かう使者の後を追う者がいる。使者に気付かれないよう、距離を取り追跡している。使者は国境近辺で馬を止めた。誰かと待ち合わせをしているのだろうか。辺りを見回すが、誰も居ないことを確認したのか、木陰に座り携行食を食べ休憩を取る。
「ガサガサ」と音をたて、背の高い草木の間から二人の男が現れた。纏う衣を見ると、どうやらボレアリス王国の者たちらしい。使者は、書簡を渡すと、馬に跨り来た道を戻っていく。
「これが将軍宛の密書か」
「こういう書簡って、中身を見てみたくなるよな」
「馬鹿か! 封をされてるのにどうやって見るんだよ」
「まあな。中を見たなんてことがバレたら殺されちまうしな」
「貴様ら、その書簡を渡してもらおうか」
「何者だ!?」
茂みから出て来て、二人のボレアリスの使者らしき者たちに声を掛けたのはロワンであった。ただ書簡を奪うだけならば使者を殺してしまえばよかったのだが、使者を無事に帰すことで、第二王子派の思惑がうまく行っていると思わせたかったのだろう。これは第二王子派に名を連ねるロワンの派閥に対する明らかな裏切りである。
ボレアリスの使者たちは剣を抜いて身構える。呼応するようにロワンは剣を抜いた。
***
マウンライケの砦にある訓練場には、木剣で手合わせをしているルーディアスとトルスがいる。幼少期に王宮の訓練場でお遊びの剣士ごっこをして以来のことだ。
「くっ! ルーディアス様、ちょっとは手加減してくれませんか!」
「してるよ。剣一本しか使ってないだろ? 私は本来、双剣だ」
「う、うそだろ……」
何度も木剣を飛ばされるトルスは、地面から木剣を拾うことも辛そうだ。それを、無理矢理に立ち上がらせるルーディアスは息一つ切らしていない。ぶつかり合う木剣の音に合わせて、会話をする二人。
「この数日間、側近は、ほとんど調べたんだけどなぁ。これと言って怪しいやつ居なかったな」
「はぁ、はぁ、そうですね。本当に間者が潜んでいるのでしょうか?」
「うーん。おかしいなぁ。トルスさ、わざと殺されてみる?」
「は? どういうことですか?」
「十中八九、ヘビ毒だと思うんだ。それなら戦場の聖女が治してくれるはず」
「もし、フィリア医官が治せなかったら……」
ルーディアスはトルスの木剣を上へ弾き飛ばし、左手で掴む。トルスの背後に回り、片方の木剣を地面に刺し、もう片方で膝裏を打つ。体を反らし倒れるトルスの首に双剣を添えた。
「死ぬだろうね」
「……参りました」
「ははは。まぁ、大丈夫さ、きっと」
フィリアたちが砦に戻ると、闘技場にいるトルスが、ルーディアスに差し伸べられた手を握り、立ち上がる姿が見えた。
「兄上、こんなときに遊んでいらっしゃたのですか?」
「運動不足解消がてら作戦会議さ! ここなら話を盗み聞きされないからね。で、どうだったヘビの方は」
「……最悪な気分ですよ。私のヘビ嫌いは知っているでしょう」
マシルの手には捕獲したヘビが何袋も、ぶら下がっていた。早速厩舎へ行き、血清を作る準備を始めるフィリアの作業が終わったのは、日が暮れる頃であった。
36
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く
川原源明
ファンタジー
伊東誠明(いとうまさあき)35歳
都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。
そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。
自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。
終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。
占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。
誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。
3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。
異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?
異世界で、医師として活動しながら婚活する物語!
全90話+幕間予定 90話まで作成済み。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
生徒会に脅されて占ってみたら、ここで逆ハーレムしている私が見えましたが、ブラコンなので口が裂けても言えません。
絶対守護天使ちゃん
恋愛
代々、占い素質を持つ家系に生まれた実子環(みこまどか)は不意なことから、生徒会の運命を占うことに。
占った結果、すごいものが見えてしまい、何とか切り抜けようとするがさらに事は面倒な方向に進んでいく。
このままでは、愛しの弟との時間がそがれてしまう!
異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)
ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。
流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定!
剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。
せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!?
オマケに最後の最後にまたもや神様がミス!
世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に
なっちゃって!?
規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。
……路上生活、そろそろやめたいと思います。
異世界転生わくわくしてたけど
ちょっとだけ神様恨みそう。
脱路上生活!がしたかっただけなのに
なんで無双してるんだ私???
ご落胤じゃありませんから!
実川えむ
恋愛
レイ・マイアール、十六歳。
黒い三つ編みの髪に、長い前髪。
その下には、黒ぶちのメガネと、それに隠れるようにあるのは、金色の瞳。
母さまが亡くなってから、母さまの親友のおじさんのところに世話になっているけれど。
最近急に、周りが騒々しくなってきた。
え? 父親が国王!? ありえないからっ!
*別名義で書いてた作品を、設定を変えて校正しなおしております。
*不定期更新
*カクヨム・魔法のiらんどでも掲載中
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる