上 下
42 / 58
魔法剣士予選大会編

第三十七話 筋肉VS筋肉

しおりを挟む
 タチカワス領の魔法剣士部隊との対戦が始まる。
 初戦はトマス対フロム・テューブ。

 相手は二つ星の『火』のスキルを授かった剣士だ。
 単純に星の数であればトマスは分が悪いが、彼は剣技と魔力の濃縮に秀でている。

 相手の大きな炎を、トマスの小さな炎が貫通し、剣技でも圧倒する。
 トマスの双剣が相手の剣を破壊し、あっという間に決着が付いた。

「へっへー。どんなもんだい! 一つ星の星の実力は」

 観客席から、「一つ星コール」が沸き上がる。どうやら、中年の男たちに人気のようだ。

「ちっ、オイラのファンはおっさんばかりかよ」

 魔法剣士を夢見たが、一つ星のために諦めた者たちにとって、トマスは文字通り「星」なのだろう。
 二人目の相手はグランデユオス。大きな体躯の戦斧使いだ。

 ここで、相性の悪さが邪魔をする。重い戦斧をまるで剣のように振り回す。
 その攻撃は、防御する小柄なトマスさんの体を吹き飛ばす。

 風の属性を纏った戦斧は、トマスさんの小さな炎の矢の勢いも殺し、成すすべがなくなる。
 闘技場の端に追いやられたトマスさんは、何度も壁に叩きつけられ、ついには膝を付いてしまった。

 審判員が試合を止め、グランデュオスの勝利を宣言する。
 トマスさんは地面を叩いて悔しがっていた。

「ちっきしょう。あれじゃぁ手も足もでねぇ……ありゃぁ反則だぜ」
「ハハハ。トマス君。私が君のかたきを取ってやろう」

 トマスさんと入れ替えるように、意気揚々と闘技場の中心に向かうケカスさんは余裕の表情を見せる。

「『風』同士、正々堂々勝負と行こうじゃないか」
「チビの次はヒョロガリか。相手にならんな」
「貴様、愚弄ぐろうする気か」

 試合が始まると同時に、ケカスさんの風の居合が飛ぶ。
 相手は振り回す戦斧に纏わせ、風を竜巻を繰り出した。

 風同士がぶつかり、闘技場に台風のような強い風が吹く。
 一瞬、互角のように見えた戦いは、段々と優劣の差を見せ始める。
 
 ケカスさんに詰め寄るグランデュオスの竜巻は、次第に大きくなり、その回転速度は一層激しくなるった。

「くっ……逃げ場がない」

 竜巻に巻き込まれ、息ができないのか苦痛に顔を歪めている。
 しばらく耐えていケカスさんたが、竜巻が収まる頃には窒息し、苦悶の表情のまま、白目を剥いて膝をついていた。

「勝者! グランデュオス」

 同じ星の数、同じ『風』属性の勝負は、相手に軍配が上がった。
 担架に乗せられ運ばれるケカスさんに目をやりながら、オッツマーミさんが立ち上がる。
 
「よし、やっと俺の出番か」

 中堅のオッツマーミさんは、相手に劣らないほどの体躯をしている。

 彼は、体格に似合わず器用な人で、『土』属性を濃縮した岩の魔法剣はオーレス領の魔法剣士部隊一の威力を誇る。

 嬉しそうにニヤつくグランデュオスが戦斧の柄で肩を叩きながら言う。
 
「やっと骨の有りそうな奴が出てきたか」
「ガッハッハ。力比べと行こうか。筋肉ダルマ」
「筋肉ダルマは、おまえもだろう。ふふふ。腕が鳴るぜ」

 審判員の合図で、二人が同時にスキルを発動させる。
 
「『土』岩槌」

 オッツマーミは剣に魔力を圧縮し、岩を作り出す。
 相手も、戦斧に風の渦を纏わせ振りかぶる。

「うぉりゃぁぁ」
「おぉぉぉぉ」

 岩の槌と風の斧とがぶつかると、鈍い音が闘技場に響く。

 互角。お互いに、ニィと口角を上げると、続いて二撃目。

 互角。拮抗した二人は互いに距離を取る。次の攻撃準備に入ったのは、グランデュオスだった。

 先ほど、ケカスを倒した大きな竜巻を繰り出す。
 この技は危険だ。巻き込まれると逃げることができず、窒息させられてしまう。
 息ができなければ、魔法剣の発動も困難になり失神は必至だ。
 竜巻が、オッツマーミさんの眼前まで迫りくると、竜巻をよけようとせずに剣を地面にさせてスキルを発動させる。
 
「『土』岩の壁」

 刺した剣先の地面が盛り上がり、大きな壁となる。

「ガッハッハ。そよ風そよ風」
「くっ、面倒くさいスキルだな」
 
 だが、それだけでは終わらなかった。
 オッツマーミが作り出した壁は次第に大きくなり、竜巻ごとグランデュオスを覆う。

 岩の壁に完全に閉じ込められた相手は真っ暗なその中で何を思うのだろうか。
 
「よし! 仕上げと行こうか!」

 彼の体格からはは信じられないくらい高く跳躍し、巨大な岩の槌を剣に纏わせ、窯状の岩ごと叩き割る。

「『土』崩落ぅぅぅ!」

 まるで洞窟の崩落が起きたような轟音が鳴り響く。
 辺りは土煙が上がり、崩れた岩の下にグランデュオスが倒れていた。

「勝者! オッツマーミ」

 剣を高々に掲げ雄叫びを上げる。

「うぉぉぉぉ! 魔法剣は筋肉だぁぁぁ」
「オッツマーミさん。やっぱり僕の魔法剣の座学を理解していなかったんだな……」

 長い外套に身を包むキツネ目の長身の剣士。
 相手側の中堅、オーガ・コーエンが闘技場の中央に向かって歩いてくる。

「脳筋同士の戦い、面白かったぞ」
「あん? おまえが次の相手か?」

 ――さっきのタチカワス領とミタカーシ領の戦いには居なかった人だ……。

 僕は、このオーガ・コーエンの醸し出す不気味な雰囲気にがとても気になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・

マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...