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第三十一話 ルシアと訓練場

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 僕らの馬車がオーレスの街に着く。
 馬を操り方をマウラさんに教わって、僕も白馬ロバートを乗りこなす事ができるようになっていたのだ。

 「おお。ライカ様がいらしたぞ」

 また、こんなに歓迎してくれて……。
 嬉しいことは嬉しいけど。大げさなんだよな。

「あれ? なんだ? あのご令嬢は」
「ライカ様の許婚じゃないのか?」
「おおお! それはめでたい」

 突拍子もない憶測を人々が口にしている。
 そして、瞬く間に、ルシアは街の人に囲まれてしまった。

「ライカ様の婚約者ですね! なんと美しい」
「まぁ、なんてお似合いな」

 皆、好き放題言っているが、その波はうねり、大歓声へと変わっていく

「え、え、私は……」

 戸惑い困っているルシアは、顔を真赤にしている。

「ニャハハ。まんざらでも無さそうニャ」

 僕は、ルシアの手を引き、走って逃げ出す。
 やっとのことで、押し寄せる街の人を撒いた僕らは、オーレス子爵の屋敷へと逃げ込む。

「子爵! 助けてくださいぃ」
「おお、ライカ殿。どうなされた」
「野次馬たちのスタンピードです……」

「ははは。ライカ殿は、相変わらず、上手いことを言う」

 一息つくと、オーレス子爵にルシアを紹介する。
 貴族同士の、堅苦しいアレだ。
 
「はじめまして、タートリア公爵家のルシア・タートリアと申します」
「な! なんと! 北の地の大貴族、タートリア公爵令嬢か」

 オーレス子爵は最上級のお辞儀をした。
 僕は、オーレス子爵に事の経緯を丁寧に説明すると、思慮深いオーレス子爵は全てを理解してくれたようだ。

「ルシア嬢、お察しいたします。大変でしたね。痛み入ります」
「オーレス子爵様、ありがとうございます」
「ルシア嬢の授かったスキルは、我が領地にも伝わっております。まさか、それが原因で、そんなことに」

 それでも、ルシアは明るく、気丈に振る舞う。
 本当に強い子だと感心してしまう。
 
「ライカのお陰で、1年ぶりの外の世界を満喫できて、私は幸せです」
「おや、お二人は名前で呼び合うほどの仲なのですね! 是非! 私が仲人をしましょうぞ」
「わわわ! オーレス子爵! 違いますって」

 この街で、僕とルシアが許婚だという噂は、瞬く間に広がってしまった。

 ◇◇◇

 訓練所にはいつものように皆が切磋琢磨している。
 こう見ると、前に比べて随分と様になっているのを嬉しく思う。
 
「みんな、久しぶり」
「おお! ライカ教官! ご無沙汰しております」
「あれ? 教官、許婚を連れてきているという噂は本当だったのですね」
「ああ、こんなところにまで連れてくるなんて、噂は本当だったんだな」

 ここにまで、広まっていたか……。
 
「違うって! 皆のために連れてきたんだ」
「またまた、そんな苦しい言い訳を」
「違うってばぁぁぁ」
 

「あらためて紹介するね。ルシアだ。五つ星ののレアスキル『癒やし』を授かった人なんだ」
「五つ星! まさかタートリア公爵の……」
「うん。わけあって今は、タートリア領から亡命中なんだ」

 僕を茶化していた皆は、真面目な顔に戻る。

 「もうすぐ、魔法剣士大会の予選だから、厳しい訓練になるとおもう」
「「はい! 覚悟しております」」
「僕も本気で皆と訓練をする。大怪我をすることもあるだろうが、安心して! このルシアが治してくれるから」

 僕が、ルシアを連れてきたのは、これが目的だ。
 予選大会まで、あまり時間がないし、ここで一気に皆のレベルアップを図りたかった。
 
「ひどい! 大怪我前提ですか! 教官」
「ふふふ。手加減しないからね」

 ルシアは苦笑いをしている。

「皆さん、ご安心してください。腕が千切れてもピタッとくっつけてあげますから」
「ち、千切れて……も……地獄だ……」
「さあ、対人戦の訓練開始!」

 どうやら、皆、剣に魔法を維持できるようになっているようだ。
 きっと、僕がいない間も、しっかりと修練していたんだな。

 嬉しさが溢れ出す。その気持に比例して、訓練の厳しさは激化していく。
 勿論、多くの怪我人が出たが、瞬時に治癒していくルシアは、さすが五つ星の『癒やし』スキルだ。

 おかげで、僕は、皆に怪我をさせることに躊躇がなくなる。
 
 ◇◇◇
 
 ルシアがいることで、訓練は思った以上の成果を上げた。
 皆が、全力で戦えるというのは、模擬戦の何倍効率が良かったのだ。

「タートリアの魔法剣士たちの訓練にも参加したことある?」

 もし、タートリアが同じ訓練方法をしていたとしたら、脅威だ。

「いいえ、私は幽閉されてひたすら、奇跡の秘薬を作らされてただけだから」
「そっか、そうだよね。嫌なこと思い出させてごめん」

 そうだった。ルシアは一年以上、奴隷のように秘薬の精製を……。
 そうか。秘薬……奇跡の秘薬があれば、僕たちと同じ訓練が可能じゃないか。
 
「今日で、僕たちは屋敷に戻る。ルシア、訓練に付き合ってくれてありがとう」
「ううん。私、力に慣れて嬉しかったよ」
「僕らがいない間も、同じように訓練をするために、ちょっとルシアに嫌なお願いをしたくて……」

 秘薬の精製……嫌だろうな。

「あ、奇跡の秘薬? それなら、たくさん作っておいたよ。ほら」

 軌跡の秘薬が木箱の中に、ぎっしりと詰められている。

「ルシアってメンタル強いんだね……」

 これで、準備は万端だ。
 次に、このまちに来る時は、魔法剣士大会予選へ出発するときだ。

 みんな、それまでに頑張って強くなっていてね。
 その想いと、奇跡の秘薬を残し、僕たちは屋敷へと帰った。


☆★☆★☆★☆★☆★

次の更新は17:10頃ですニャ(ΦωΦ)
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