魔王様、勇者を育てる。

第一章

30.魔王様、勇者を知る。

「ーーあの、できればもう少し狩りをご一緒することはできないでしょうか？」


グリーン・ボアの狩猟を終えたすぐ後に、勇者ゆうしゃであるティアがキース達に頭を下げて、お願いしていた。


今回ティアがキース達の狩猟に参加したのは依頼の手伝いであり、今日限りの筈だった。


しかし、キース達の狩猟に参加して獣人じゅうじんの子供達と一緒に訓練を受けたのが、これまでになかったほどの大きな刺激であり、こうしてお願いしている。


頭を下げてまでお願いするのには理由があった。


実はこれまでティアが旅をしていたのは、勇者として戦い方を学ぶためだ。


強い冒険者がいる場所へ出向き、教えを乞うのが目的。


だが、これまで強い冒険者に会うことができても戦い方を学ぶことができなかった。


その要因は、ティアが初めての女勇者であることが影響している。


冒険者達は、男の仕事だと思っている傾向が大きく、女の冒険者はあまり好かれていないのだ。


命がけの戦場に女を連れていくのに抵抗があるのだろう。


それは、勇者という立場でも同じで、これまでの勇者は男しかいなかったこともあり、女が勇者になったことに冒険者達は戸惑っている。


そのため、ティアがお願いしても教える側の冒険者が遠慮して、まともに戦い方を学ぶことができなかった。


今回時期外れに、故郷である王都に戻ってくることになったのも成果がほとんど得られなかったからだ。


王都はティアが生まれ育った街ということもあり、顔見知りが多く、この街の冒険者はティアをちゃんと勇者と認めてくれている。


他の場所よりもこの街の方が学べることが多いという判断だった。


難点は、時期が悪く、今はこの街に強い冒険者がいないということ。


しかし、今回はその結論を覆すように、キース達と出会った。


旅人ということで、この街の人ではないが強い冒険者だ。


そして、この街の人同様に、女だからと特別扱い。


キースが行なった訓練がティアにとって初めてまともに習った戦い方になる。


そのため、この機会を逃せば次はないという思いから頭を下げていたのだ。


ーーキースは勇者であるティアがこれまで苦労していたことを知った。


能力が高い割に動きが未熟なのは戦い方を学べなかったからという理由だったのだ。


キースの目的は勇者を育てることであり、男も女も関係なく育てる。


ティアに戦い方を教えるのは大いに賛成だ。


「・・・俺達がこの街にいる間だけなら構わない」


ただ、ずっと一緒にいることができないために、そう言う条件を付けた。


戦い方を教えることができても、一緒に戦うことができないからだ。


キース達とティアは敵同士であるということが理由の一つだが、もう一つ理由がある。


勇者の仲間になることで受けられる恩恵を受けられないこと。


それは人間にしか受けられないため、それが知られれば正体がバレてしまうのだ。