魔王様、勇者を育てる。

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第一章

28.魔王様、勇者に教える。

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「ーー行きます。」


勇者ゆうしゃことーーティアがグリーン・ボアと一対一で向き合った。


獣人じゅうじんの子供達が行なったような連携した狩りが行なえないため、大変な狩りになるだろう。


この状況を望んだのはティア自身であり、これまでの狩猟はこうして一人で行なっていたのだという。


しかし、なぜか今のティアは剣を構える姿がどこかぎこちなく見える。


「大丈夫なのか?」


その姿はキースが心配するように、魔物まものに怯えているように思えた。


ブヒィィィィィッ


心配したのも束の間、ティアの敵意を感じたグリーン・ボアが先に突進をする構えをとり、走り出した。


すると、キースの心配通り、ティアの動きがおかしくなる。


「・・・か、体が・・・」


突進が迫ってくる中で、ティアが体を硬直させたように動けなくなっている。


足が震えて身動き取れない様子だった。


「な、何で・・・」


ティア自身にもその理由がわかっていないようで、焦っている。


その瞬間もどんどんグリーン・ボアの突進が迫ってきており、危うい状況だ。


そして、ドンッという鈍い音と共にグリーン・ボアの突進が止まった。


「ーー何をしている。
怪我はないか?」


そこにはティアの前にキースが平然とした姿で立ち、片手でグリーン・ボアの突進を受け止めていた。


普通の人では不可能なことだが、あのままではティアが危なく、仕方なくこうして加勢したのだ。


「・・・ご、ごめんなさい」


キースが声をかけると、ティアはその場で力なくへたり込んでしまった。


その姿はキラー・タイガーに襲われている時の姿を連想させる。


「そうか・・・」


キースはその姿を見て、今のティアの状況を理解した。


勇者と称されていても、中身は人であり、少女であるということ。


ティアはキラー・タイガーとの戦闘で、危機は免れたが死の瀬戸際を体験した。


その恐怖は簡単に消えるものではなく、頭で整理できたつもりでも体が拒絶する。


ティアがグリーン・ボアが迫ってくる中で動けなくなったのは、それが原因だろう。


ティア自身、自覚はないかもしれないが、一人で狩猟を行なっていた人が突然、同行を志願してきている時点で予兆があったのだ。


誰かと一緒じゃないとダメだという。


人間ではないキース達にはわからない感情であり、すぐに気づくことができなかった。


(どうするべきか・・・)


しかし、今のままではまずい状況であり、魔物に怯えたままでは勇者として戦えなくなってしまう。


勇者を育てるために人間界まできているキースはこの状況では困る。


「見ていろ」


そこでキースは、魔物に怯え、地面に座り込んでしまっているティアにそう伝えた。


空いている片手に真っ黒い剣を生成。


そして、突進を抑えていた片手を離すと、そのまま回転して流れるように回避。


避けた瞬間、握っていた剣でグリーン・ボアを切り刻んでいく。


ブヒィッ・・・


それはすごい早業であり、グリーン・ボアは何もすることなく倒れるように絶命した。


「すごい!」


「勇者ならこれぐらいのことはできるようになる」


キースはティアに魔物が怖いものではないと思わせるために、人間でも真似ができる技で討伐をしたのだ。

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