上 下
1 / 5

力こそ最強であり、正義だとヒーラーは世に示す。

しおりを挟む
 ――わたくし、絶対にPTパーティーの回復はしませんわよ。

 そう言ってわたくし、ミリア・エスニアは所属したてのPTの皆様に伝えると、早々にモンスター達の群れへと駆け出し、戦闘職が使う大型ハンマー片手に襲い掛かった。

 このマグリット草原では、わたくしを新しく入れた4人PTで、ゴブリンと戦闘を始めようとしていた。
理由はゴブリン掃討依頼をここのリーダーが受諾したから。最近までいた回復職ヒーラーが移籍したらしく、よって回復職ヒーラーの足りていないこのPTに、わたくしは誘われたってわけ。

「あの、ミリアさん、いくら何でも回復職ヒーラーの人が前衛は危険です。下がって下さい!」

 そうわたくしに注意をしてきたうるさい男はリーダーの剣士エミール。しかしそんな事を言われたところで、わたくしには全く意味がないわ。ちなみにこのPTには剣士、盾使い、補助魔法使いがいる。

「ううさいわね、あんた。今良いところだから黙ってなさい!」

 エミールを黙らせて、わたくしは手に持っている大型ハンマーで6体の小型ゴブリンを軽く振り回し殴り飛ばす。殴り飛ばされたゴブリンは、そのまま動かなくなり倒れた。完全に仕留めたと、わたくしは確信した。決して回復職ヒーラーがもつ力とは思えないと誰もが思うけど、このわたくしはその常識は通じないの。

「どうなってるんですか、あの人!?」

 勝手に驚いている女は補助魔法使いのシオン。基本的に補助魔法使いは前衛に能力強化バフをかけるのが役割ね。だから後衛で仲間の補助をする。だからわたくにも必要なわけね。そう一番に必要なの。

「シオン! わたくしに強化魔法を使いなさい。あの図体のでかいラストのホブゴブリンを仕留めるわ」

 わたくしの眼前には3メートルはある巨大なホブゴブリンが立ちはだかって来た。いい度胸ね。これだから図体だけがでかい馬鹿はいつまでも馬鹿なのよ。わたくしの事を舐めているのか、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 わたくしがさぞかし美味しいエサにでも見えているのかしらね。身の程知らずも良いところ。今そのデカイだけの図体に巨大な風穴を通して差し上げますわ。

「わ、分かりました。マナオフェンスライザ力強化アップ!」

 シオンがわたくしに強化魔法をかけてくれる。

 一番に必要と先程言いましたけど――、実を言います、とこれ以上わたくしの攻撃力は上昇しないのよ。既にステータス上では力999でカンストしているから。ではどうして強化魔法を頼んだのか? それはわたくしの身体に赤いオーラ―がまとわせ、いかにも強くなりましたって見た目になるからなのよね。だってこれでより強者感を出せて、わたくしが強いって分かってもらえるでしょ?

 だからと言って眼前に立つホブゴブリンは、回復職ヒーラーにそんな事をしても意味がないと思っているらしく、その憎たらしい顔を崩す事はないらしい。あくまでわたくしを簡単に捻り潰せるとおもっているようね。これだから雑魚は。失笑よ、失笑。

 ――ガアァァァァァ!

 ホブゴブリンは丸太の如き右手に持つ棍棒で、わたくしに襲い掛かって来る。右手を大きく横降りするが、わたくしのステータスは力以外はそこまで高くなく、平均以下。だからシーフや戦士のようにかろやかにかわして、背後から隙を突いて一撃を入れる事は出来ないのは自分でも分かっている。

 だから――、そのまま片手で持っている大型ハンマーで受け止める。

 カツンッ!

 棍棒と大型ハンマーがぶつかり合う。その力は拮抗していると思われた。が、これはただのパフォーマンス。

「そーーーーっれっと!」

 わたくしが気合いとともに、右手に持つ大型ハンマーに少し力を入れて振り上げると、ホブゴブリンの棍棒と右腕ごと棒の如く吹き飛ばせる。腕と棍棒はあらぬ方向へ飛んでいき、そのまま思い切り仰け反った後、ホブゴブリンは呻きながら昏倒した。さすが力999のパワーね。自分でも惚れ惚れしちゃう。

 いやーざまぁないわね。図体だけでかいくせに、全くなってないわ。そのまま吹き飛ばしたホブゴブリンの腹に大型ハンマーの持ち手部分で風穴を開ける。

「さようなら、おデブちゃん。これで少しは痩せましたでしょ? 良かったですわね。うふふ」

 そんな不敵な笑みを浮かべているわたくしの行動に対し、唖然とPTの3人は固まっていた。リーダーのエミールとシオン、そして盾役のガイストは腰を抜かすほどだ。

「ホブゴブリンを一撃で倒しちゃうなんて、どうなってるんですか、ほんと!?」

 シオンはまるで夢でも見ているのか目を何度も擦っている。しかし依頼されたコブリン達の残骸はしっかりと草原に転がっているのは事実。わたくしは自分の仕事振りに今日も満足、とは言い難いわね。なにせ雑魚ばっかりで歯応えがないモンスターばかりだったのだから。

「さぁな。しかしあの回復職ヒーラーのミリアさんは普通の回復職ヒーラーじゃないのは確かだな……」

 苦笑して盾役のガイストはわたくしをいぶかしげに見つめてくる。

 まっ、そりゃわたくしも逆の立場なら度肝を抜かすところね。ほんと、わたくしもこんな脳筋回復職ヒーラーになるとは、少し前までは露程も思わなかったんですから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界に召喚された様ですが、村人Aと間違えられて追い出されましたorz

かぜかおる
ファンタジー
題名のまんま、特に落ちもないので、暇つぶしにフワッと読んでください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...