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第26話 妹が登録者千人記念としてプレゼントを渡して来るとか珍しい!

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 竹中とファミレスから出てそのまま別れて家に帰り、自室へと戻ると既にエンコード処理が終わっていた。さすがにこれだけ時間が経てば終わって当然だな。

「じゃあサクッと動画を上げておくか」

 切り抜きチャンネルに動画をアップロードさせる。

 さっきすみれの部屋を通った時、放送をしてなかったので、もう終わったのだろう。

 回線に影響を与えない今なら上げるのに丁度いい頃合いだ。最近では俺が調べて切り抜くシーンを上げる時もあれば、今日のように向こうから大まかな指定をしてくれる時もある。自分でどこが面白いか把握しているようだ。

 おかげでこっちも調べなくても良いから、だいぶ助かるけどな。動画はすぐにアップロードされ、また数日後に作れば大丈夫だろう。

 しかし今日は疲れたな。昼間から4人で集まり打ち合わせをして、ゲーセンのお化け屋敷に行き、夜には竹中ともまた色々話して。そんなふうに考えていると、段々と眠気が襲ってきた。ついつい椅子に座って眠りそうになっていたところで、

 ――コンコンッ。

 部屋のドアがノックされる音がした。その音に眠りそうになった意識が戻る。こんな時間に誰だろうか。親が早く風呂に入れって催促でもしに来たのかも知れないな。しかしどうやらそれは違ったらしい。

「兄貴帰って来たんでしょ。ちょっと良いかな?」
「ああ、いいよ」

 俺の返事を聞いてすみれが部屋へと入って来た。既に風呂を済ましたのか、パジャマ姿でほのかなシャンプーの香りが髪から漂ってきている。

「遅かったのね、帰るの」
「ああ、コンビニに寄ったら竹中と偶然会ってさ。そのままファミレス行ってたからな」

 すみれは俺のベッドに腰を下ろすと、こっちをまじまじ見上げてきた。

「朱里と? そっか。たまに私もあそこのコンビニで会う事もあるし、だから遅かったのね」

 俺はふと、さっき竹中と話した事を思い出した。コンテンツとしての需要、VTuber活動としての人気。社会人になった時の事など、色々な不安をあいつは考えていた。馬鹿な俺には思いつかない事を既に竹中は考えていたのだ。

 そうなれば、この賢い妹が同じ事を考えない訳がないはずだ。すみれはどう思っているのだろうか?

 少しだけ聞くのに対して迷ったが、兄妹でいちいち気にしても仕方ないよな。それに俺は双子とは言え、兄なわけだし。

「なぁ、さっき竹中から言われたんだけどさ。すみれはVTuber活動をやっていく中で不安ってあるのか。その需要とか、人気とか、就職したらとかさ」

 そんな俺の言葉にこの賢い妹はすぐに意図を理解したようで、不意に立ち上がって窓のカーテンを開けて、外の様子を見ながら話す。

「朱里、兄貴にそんな話もしているんだ。ちゃんと話聞いて、答えてあげた?」
「難しい話の答えなんか分からないけどさ、竹中も頭良いし、またその時になれば新しいコンテンツでも立ち上げれば良いんじゃないかって、答えたけどな。とにかくポテンシャル高いからなあいつ」

 俺の答えにどうやら合格点くらいは出たのか、すみれはこっちを見て少し微笑んできた。

「まっ、兄貴にしては上出来じゃないの。朱里も不安が完全には消えないのよ……」
「朱里もって事はやっぱりすみれもか?」

 気になって聞くと、少しだけ難しい顔をしている。やっぱり色々考えているんだろう。

「それはVTuberを始めた時点で考えていたわ。でもさ、まずは人気になって登録者数を増やして、それで成功して稼ぐことが出来たら、お金貯めて新しい事出来るでしょ。だから今はもっと人気を上げる事に私は集中しているの」

 きっぱりと言い切るすみれは全く気にしてない様子に思えた。

「それに朱里だって私と同じこと思ってるわよ。前に話したことあるし、そんな心配しなくて大丈夫だよ」
「なんだ、そうだったのかよ」

 さすがVTuber活動を個人でやってるだけあるんだろうな。2人ともしっかりと考えているって事なのか。

 では何故竹中は俺にそんな事を聞いてきたのだろうか。先の事は分からない事は承知しているみたいだし、目標がはっきりしている様子。なおさら俺に相談するより、すみれが一番の仲間で理解者だろうに。

「なぁ、じゃあ何で竹中は俺にそんな相談したんだろうな」
「鈍感なんだから、兄貴はさ。朱里とだけそんな相談して。もうっ」

 すみれはいきなり俺のベッドに倒れ込んだ。今日は放送もして疲れたのだろう。全く動かなくなり、今にも寝そうな勢いだ。放っておけば寝息でもまた立てて寝るんじゃないかと思うくらいに。

 以前勝手に寝て、起きて早々殴られた事もあるしな。あの時はすげー痛かったのを思い出すと、頬が痛くなった気がする。

 下手に寝られるのは困るので、仕方ないから起こしてやるか。しかしそうする前にすみれが飛び起きた。

「あ、そうだ。忘れてた……。兄貴に渡す物があったんだ」

 一度俺の部屋を出て、ばたばた移動して自室に戻り、すみれがまた戻って来た。その手には何やら小さな箱を持っていた。

「急にどうしたんだ」
「その……、兄貴のチャンネル登録者数が千人超えたし、その記念にこれ。後、この前恥ずかしかったけど、背負ってくれた礼と兼ねて。この前はありがと」

 持っている箱を俺に手渡してきた。さすがに綺麗な包装まではされてないが、まさかたった千人くらいの登録者記念にこんなプレゼントをしてくるとは思っておらず、意表を突かれた。こんなに我が妹は気が利く女性だったとは。いや、それは間違いだ。

 そもそも頭の回転も速いし、気が利くし優しい。俺にだけ冷たかっただけだ。そんな妹がプレゼントを寄越よこすとは、一体どんな風の吹き回しやら。だがこれは素直に受け取って置こう。普通に嬉しいからな。

「そんな気を遣わなくても良いのに、ありがとな。早速開けさせてもらうぞ」

 すみれが腕を組み別の方向を見ながら黙って頷く。

 箱を開けてみると、新しい高音質イヤホンが入っていた。これは俺がよく使っているシリーズの最新物だ。今の使っているイヤホンはだいぶ使い込んで、少し音質が悪くなっていて、とても嬉しい品物だ。

「その、いつも使ってるやつ、もうボロボロでしょ。みっともないし新しいの使った方が良いと思うの」
「これ最新のシリーズのだろ。ちょうど買い換えようと思っていたんだよ。さすが我が妹だな」
「喜んでくれたなら、良かった。これからそれを大切に使ってね。じゃおやすみ」

 すみれはそれだけ言って自室に戻って行く。もう眠くて限界だったのだろう。さっきから欠伸を我慢してるみたいだったし。

 しばらくして、隣の部屋からは物音すらしなくなった。もう寝たようだな。とは言え俺ももう眠気が限界だ。さっさと風呂に入って今日は寝るとしよう。

 それに今週の週末には4人でコラボ配信もやるんだったな。体調を崩して迷惑をかけるのよくないしな。
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