転職!悪女→

さかな〜。

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互換したのでしょうか

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 この国では祈りは日常にある。神託がある事でも分かるように、世界に影響を与える程の力のあるものは存在するし、祈りの効能も知られている。

 毎食前と起床転職就寝時。一日五回は祈る。

 見習い修道女も、当然毎日祈る。食後も祈るし、さらに正堂で一日二回、主を讃えて感謝しまくる。
 この修道院では『ベッドの脚に小指をぶつけて、咄嗟に「主に感謝します」と言えて一人前』とされている。

 先日リサも一人前になった。今までかかったのは、単に小指をぶつけた事がなかったからだ。
 実際口にしてしまい、とても微妙な気持ちになったが、同室のシスターは喜んでいた。

 今日も夕べの祈りを皆と一緒に捧げている。

(一日無事に過ごす事が出来ました。神様ありがとうございます。どうかこれからも毎日平穏に過ごせますように。平穏無事が最高です。美味しいものは正義です。可愛いは作れますが、先立つモノが必要です。喜捨が増えますように……。『悪女』でお給料がもらえると良いかもしれません)

 院長の唱える聖句を聞き流しながら好き勝手祈りを捧げていると、突然脳裏に刺すような光が降ってきた。神託だ。

 驚きはあったが、近頃の予感はこれだったかと腑に落ちた。
 そのまま何事もなかったかの様にいつも通りの勤めをこなし、就寝の時間となった。

 二人部屋の簡素なベッドでこれからの事を考える。

(まさか転職が可能だとは思わなかったわ)

 彼女の適性は『悪女』では無くなっていた。

 恐らく環境の変化と、神のお膝元である事やタイミング。色々な条件が重なったものと思われる。

(これはお金の匂いかするわ。意図的に出来るなら……でも検証する方法が分からない。誰か協力者を探すにも、余程信用出来るものでないと……)

 色々と考えを巡らせていたが、興奮が落ち着いてくると、結局は自分の行動により、新たな適性が見出されたに過ぎないと思うようになった。恐らく他にも該当する人はいるのだ。ただ吹聴するような人物は、はなから自分の適性に不満を持っておらず、不満があるような人は他言しない。

 そして祈りは日常的に行われているが、礼拝堂で本気で祈る者は、病気や人間関係、はたまた金銭の事が多いのではないか。
 その為転職という事例をきかないのだろう。

 何だか転職に浮かれた自分が馬鹿らしくなって、その日は寝た。
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