92 / 127
番外編
にゃんにゃんにゃん
しおりを挟む
ギリギリ猫の日ー!
─────
客観side
「にゃーん」
灰色の目を持つ白猫が一つ鳴く。
さて、音霧寮では何が起こったのでしょう。事の始まりは数日前に戻る。
「これ、あげるから週末使って寮の皆で行っておいで。」
そんな言葉と共に藤は学園長から紙切れを渡された。
「え、龍彦さん、これ何?」
「植物園の招待券だよ。貰い物なんだけど私は行けそうにないからね。あげる。」
「はあ……そういうことなら貰っとくよ。」
「良かった。それ、ちゃんと六人分あるから皆で行っておいで。それで感想聞かせてよ。」
「分かったー。」
そんなことで、音霧メンバー全員で植物園に行くことになったのだった。
週末になり、植物園に行く日。その道中で事件は起こった。ぞろぞろと六人で植物園に向かって歩いていると、見知らぬ女の人の声が聞こえてきた。
「あら白いあなた、一体何股しているのかしらー?」
もしかしたら声の主は一人の彼女と五人の彼氏、という風に音霧メンバーを見たのかもしれない。寮の仲間、というのが事実であるが。
藍に向かっての言葉らしいそれを聞いた音霧メンバーは表情を怒りに変える。
「おい誰だ今の言ったやつ。出て来いや。」
茜は普通の人が見たら卒倒しそうな怖い表情を浮かべてそんな風に呼び掛ける。他のメンバーも何も言わないが臨戦態勢を取る。しかし姿は見えない。
「いやん、怖い。でも怒るってことは図星なのかしらー?」
「んなわけないだろ。」
「そんな悪い子にはお仕置きよー!」
人の話を聞かない声がそう言った瞬間、藍の周りが光る。
あまりの眩しさに皆が皆目を閉じて光をやり過ごす。すると数秒でその光も止み、各々が目を開けると……
「にゃーん」
「……はぁ!?」
真っ白な猫が、藍がいた場所で座っていた。もちろん、藍は消えていたのだった。
もしかして先程まで聞こえていた声は猫に姿を変える能力を持つエートスだったのか……? 音霧メンバーはそう考えたようだった。
「へぇ、白い髪って地毛だったんだー。まあどうでもいいけどね! じゃ、ばいばーい」
「おいおいちょっと待て! どうやったら戻んだよ!」
「いい加減姿を現したらどうなんですか?」
「あちゃー、俺の能力じゃ戻らんねー。」
「あいさん可愛いー!」
「……。」
三者三様の反応をするが、しかし問題は解決しない。
「明日か明後日くらいになればきっと戻るよー。じゃ、ばいばーい!」
その声を最後に、同じ声が聞こえることはなくなった。
「明日か明後日か……」
「……取り敢えずこのままじゃ駄目じゃない?」
「まず帰るか。」
「賛成ー。」
まあ、そんなこんなで植物園には行かずに猫を竜胆が抱っこして寮に戻ってきたのだった。
「さて、どうする。」
猫をリビングに放ち自由にさせておく。その間に皆で話し合うことにしたのだが……
「その前に、この中で猫を飼ったことがある人はいますか? それと、猫アレルギー持ってる人も。」
「俺と椿はどっちもないねー。」
「僕も飼ったこともアレルギーもないよ。」
「俺達もねぇよな。」
「じゃあアレルギーの問題はないですね。しかしお世話の面では問題ありですね。」
この猫のお世話をどうしようかと皆で悩む。ああでもない、こうでもないと知恵を振り絞ってみるが、いい案は出てくることもなかった。
「……ねえ、そういえば藍ちゃんどこ行った? 物音一つしないんだけど。」
「あれ、いない?」
「どこ行った?」
物音一つしないことに心配した皆はどこ行ったどこ行ったと探してみると、部屋の隅で縮こまっているのを藤が見つけた。ぷるぷると震えてもいる。
「藍ちゃーん、怖がらなくても大丈夫だよー。」
藤が手を伸ばすと藍はシャーッと威嚇する。
「ええー? 俺威嚇されてる?」
「みたいですね。ほら、藍さん。こっちおいで。」
竜胆には威嚇しなかったが、やはりまだ縮こまったまま。
茜はそれを見て、双子の俺ももしかしたら威嚇されないんじゃないかと淡く期待する。しかし茜は元来動物に好かれないタイプだったのだ。それが今回も発揮された。
茜が抱き上げると藍は暴れ出す。
「にゃー!」
「ああもう暴れんなよ。帰りにりんが持ってた時は大人しかったのに……!」
「あかねくん、もしかして動物に嫌われるタイプ?」
「ふしゃー!」
「あかねは昔からそうですからね。」
「こいつなら大丈夫なんじゃないかって思ったのに!」
「……離してやった方がいいんじゃないか?」
椿にまでそう言われ、茜はしゅんと落ち込む。仕方ないと手を離してやると藍はトンと綺麗に着地した。
「あかねくんもこんなに落ち込むことあるんだね。」
「びっくりだね。意外な一面ってやつじゃない?」
藍はまた同じ場所で縮こまる。初めての場所に馴染めない猫のようだ。……まあ、今は本当に猫だけど。
「とりあえず腹が減っては戦ができぬと言いますし、昼ご飯にしましょうか。」
鶴の一声でご飯の準備を始めることにしたらしい。皆が台所へ向かうのだった。
その後もお世話をどうするか話し合ったり調べてみたりして一日はパッと過ぎ去った。
昼間と違うのは、ご飯をあげた竜胆が藍に懐かれたということだけ。今もソファに座る竜胆の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「戻るのは明日か明後日か……どうなるんでしょうね。」
「にゃーん」
どうだろうね、そう藍も言ったようだった。
結局、次の日には人間に戻っていた。朝いつも通り竜胆がリビングに入ると人間の姿の藍がソファで寝ていたのだ。
茜だけが戻った藍を見て少し寂しそうにしていたのはここだけの秘密。
─────
客観side
「にゃーん」
灰色の目を持つ白猫が一つ鳴く。
さて、音霧寮では何が起こったのでしょう。事の始まりは数日前に戻る。
「これ、あげるから週末使って寮の皆で行っておいで。」
そんな言葉と共に藤は学園長から紙切れを渡された。
「え、龍彦さん、これ何?」
「植物園の招待券だよ。貰い物なんだけど私は行けそうにないからね。あげる。」
「はあ……そういうことなら貰っとくよ。」
「良かった。それ、ちゃんと六人分あるから皆で行っておいで。それで感想聞かせてよ。」
「分かったー。」
そんなことで、音霧メンバー全員で植物園に行くことになったのだった。
週末になり、植物園に行く日。その道中で事件は起こった。ぞろぞろと六人で植物園に向かって歩いていると、見知らぬ女の人の声が聞こえてきた。
「あら白いあなた、一体何股しているのかしらー?」
もしかしたら声の主は一人の彼女と五人の彼氏、という風に音霧メンバーを見たのかもしれない。寮の仲間、というのが事実であるが。
藍に向かっての言葉らしいそれを聞いた音霧メンバーは表情を怒りに変える。
「おい誰だ今の言ったやつ。出て来いや。」
茜は普通の人が見たら卒倒しそうな怖い表情を浮かべてそんな風に呼び掛ける。他のメンバーも何も言わないが臨戦態勢を取る。しかし姿は見えない。
「いやん、怖い。でも怒るってことは図星なのかしらー?」
「んなわけないだろ。」
「そんな悪い子にはお仕置きよー!」
人の話を聞かない声がそう言った瞬間、藍の周りが光る。
あまりの眩しさに皆が皆目を閉じて光をやり過ごす。すると数秒でその光も止み、各々が目を開けると……
「にゃーん」
「……はぁ!?」
真っ白な猫が、藍がいた場所で座っていた。もちろん、藍は消えていたのだった。
もしかして先程まで聞こえていた声は猫に姿を変える能力を持つエートスだったのか……? 音霧メンバーはそう考えたようだった。
「へぇ、白い髪って地毛だったんだー。まあどうでもいいけどね! じゃ、ばいばーい」
「おいおいちょっと待て! どうやったら戻んだよ!」
「いい加減姿を現したらどうなんですか?」
「あちゃー、俺の能力じゃ戻らんねー。」
「あいさん可愛いー!」
「……。」
三者三様の反応をするが、しかし問題は解決しない。
「明日か明後日くらいになればきっと戻るよー。じゃ、ばいばーい!」
その声を最後に、同じ声が聞こえることはなくなった。
「明日か明後日か……」
「……取り敢えずこのままじゃ駄目じゃない?」
「まず帰るか。」
「賛成ー。」
まあ、そんなこんなで植物園には行かずに猫を竜胆が抱っこして寮に戻ってきたのだった。
「さて、どうする。」
猫をリビングに放ち自由にさせておく。その間に皆で話し合うことにしたのだが……
「その前に、この中で猫を飼ったことがある人はいますか? それと、猫アレルギー持ってる人も。」
「俺と椿はどっちもないねー。」
「僕も飼ったこともアレルギーもないよ。」
「俺達もねぇよな。」
「じゃあアレルギーの問題はないですね。しかしお世話の面では問題ありですね。」
この猫のお世話をどうしようかと皆で悩む。ああでもない、こうでもないと知恵を振り絞ってみるが、いい案は出てくることもなかった。
「……ねえ、そういえば藍ちゃんどこ行った? 物音一つしないんだけど。」
「あれ、いない?」
「どこ行った?」
物音一つしないことに心配した皆はどこ行ったどこ行ったと探してみると、部屋の隅で縮こまっているのを藤が見つけた。ぷるぷると震えてもいる。
「藍ちゃーん、怖がらなくても大丈夫だよー。」
藤が手を伸ばすと藍はシャーッと威嚇する。
「ええー? 俺威嚇されてる?」
「みたいですね。ほら、藍さん。こっちおいで。」
竜胆には威嚇しなかったが、やはりまだ縮こまったまま。
茜はそれを見て、双子の俺ももしかしたら威嚇されないんじゃないかと淡く期待する。しかし茜は元来動物に好かれないタイプだったのだ。それが今回も発揮された。
茜が抱き上げると藍は暴れ出す。
「にゃー!」
「ああもう暴れんなよ。帰りにりんが持ってた時は大人しかったのに……!」
「あかねくん、もしかして動物に嫌われるタイプ?」
「ふしゃー!」
「あかねは昔からそうですからね。」
「こいつなら大丈夫なんじゃないかって思ったのに!」
「……離してやった方がいいんじゃないか?」
椿にまでそう言われ、茜はしゅんと落ち込む。仕方ないと手を離してやると藍はトンと綺麗に着地した。
「あかねくんもこんなに落ち込むことあるんだね。」
「びっくりだね。意外な一面ってやつじゃない?」
藍はまた同じ場所で縮こまる。初めての場所に馴染めない猫のようだ。……まあ、今は本当に猫だけど。
「とりあえず腹が減っては戦ができぬと言いますし、昼ご飯にしましょうか。」
鶴の一声でご飯の準備を始めることにしたらしい。皆が台所へ向かうのだった。
その後もお世話をどうするか話し合ったり調べてみたりして一日はパッと過ぎ去った。
昼間と違うのは、ご飯をあげた竜胆が藍に懐かれたということだけ。今もソファに座る竜胆の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。
「戻るのは明日か明後日か……どうなるんでしょうね。」
「にゃーん」
どうだろうね、そう藍も言ったようだった。
結局、次の日には人間に戻っていた。朝いつも通り竜胆がリビングに入ると人間の姿の藍がソファで寝ていたのだ。
茜だけが戻った藍を見て少し寂しそうにしていたのはここだけの秘密。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
とうめいな恋
春野 あかね
青春
とうめい人間と呼ばれている瑞穂と、余命僅かと宣告された爽太は一週間だけ、友達になるという約束をする。
しかし瑞穂には、誰にも言えない秘密があった。
他人に関して無関心だった二人が惹かれあう、二人にとっての最期の一週間。
2017年 1月28日完結。
ご意見ご感想、お待ちしております。
この作品は小説家になろうというサイトにて掲載されております。
ハルカの唄
堀尾さよ
青春
ハルカは完璧な美少女だった。
ウタは彼女の存在を自分とは全く違う世界の住民だと感じながらも、一番の友人として接していた。
ウタにとって、ハルカは女神だった。かみさまだった。
しかし、その幻想も年月とともに崩されるのだった。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる