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9章 文化祭二日目

52 藤side

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 一方こちらはと言うと……

「おとうさん、おかあさん、どこー?」

 えぐえぐと泣きながら親を探すチビ藍ちゃん……らしき人物。

 らしき、というのも、藍ちゃんは黒髪灰色目のはずなのに、このチビちゃんは白髪灰色目なのだ。黒髪もそこに落ちている。……ウィッグかな?

 しかし面影はしっかり藍ちゃんなので、多分藍ちゃんなのだろう。

 ああ、あと頭に包帯が巻かれている。怪我でもしたのかな?

 でもそんな考察よりも今はまずチビ藍ちゃんをあやす方が先……なんだけど、

「ねえ、俺子供のあやし方知らないよ? どうする?」

 俺一人っ子だったし。

「奇遇だな。俺も知らねえ。なんたって俺は弟だからな!」

 何故かドヤ顔で言い放つ茜。そういえば確かに君は弟だったね。

「音霧の中で兄なのは……竜胆と桃だったよね。」

 で、ここにいる兄は竜胆だけ。よし、任せた。頑張れ。

 その念は伝わったようだ。

「お名前を聞いてもいいですか?」

 いつもの笑みを浮かべて怖がらせないようにしているようだ。その笑顔を見た藍ちゃんは、

「……はなずお、あい。」

 泣きながらも名前を教えてくれた。

「藍さんですね。私は山吹 竜胆です。よろしくお願いしますね。」
「りんどうおにいちゃん?」
「んんっ!」

 胸を抑えて悶える竜胆。ロリコン爆誕! みたいな感じかな。やばいね。

「なあ、袴どうすんだ?」

 茜の言う通り先程までピッタリだった袴は、藍ちゃんが小さくなったことでダボダボに。着替えた方がいいだろう。

「俺達じゃ無理だからね……あ、空木ちゃんに頼もうよ。」
「藤、ナイスアイデア。じゃあ二年F組まで行くか。」
「そうですね。では藍さん、行きましょうか。」
「どこに? おとうさんは? おかあさんは?」
「今藍さんのお父さんお母さんは遠くにいまして、その代わりに私達が藍さんと一緒にいてね、と言われました。」
「そうなの?」
「はい。では失礼しますね。」

 ダボダボの袴のままでは歩けないだろうと竜胆が袴ごと藍ちゃんを抱き上げる。

「っ……!」

 その瞬間に竜胆は瞠目する。どうしたんだろう?

「……行きましょうか。」
「はいよ。」
「後で聞くからな。」

 茜のその発言を無視して竜胆は歩き出す。俺達も一緒にF組に向かった。













竜胆side

「失礼しますね。」

 藍さんを抱き上げたその瞬間、

「っ……!」

 勝手に過去が見えた。『小さい藍さん』の昨日の出来事が頭の中に入ってきた。

 まるで見て欲しかったとでも言うようだった。しかし頭の中に入ってきた藍さんの過去は……。

 何故頭に包帯を巻いているのかも分かってしまった。

「……行きましょうか。」
「はいよ。」
「後で聞くからな。」

 あらら、普通に振る舞えていなかったか。あまり話したくないような内容だったが、あかねは強引に聞いてくるだろう。言いたくはないけどな……。

 だって藍さんは、母親らしき人に引き摺られて……













茜side

「空木ちゃんいるー?」
「はーい? どうしました?」

 藤が先頭を切ってF組に入る。それに続いて俺達も入る。空木はちょうど良く出入口の近くにいた。

 チビ藍を見た空木は瞠目し、その後目を輝かせた。

「何この子可愛い!!」
「ひぃっ!?」

 空木の気迫に押されたチビ藍はりんにしがみつく。りんは満更でもなさそうだ。……ロリコンか? 兄貴がロリコンとか嫌だぞ。

 空木は鼻息荒くしながらチビ藍を凝視する。……こっちもなのか?

「ちょっと落ち着きなって。チビ藍ちゃんが怖がってるよ?」
「……へ? 藍ちゃん?」

 藤とチビ藍を交互に見て、首を傾げる。まあ、この髪色を見て俺達も最初は首を傾げたからな。気持ちは分かる。

「ほら、この子が着てる袴、藍ちゃんのでしょ?」
「確かにそうですね。じゃあこの子は藍ちゃんなのか……はっ! もしかして占いに出てた『幼子に注意』ってこのことかも!」
「そんな結果が出てたの?」
「はい! で、ラッキーアイテムはTシャツ!」

 そのアイテムにひくっと顔を引き攣らせる。まさか……

「もしかしてこのTシャツって……ラッキーアイテムだったのか?」

 SASIMIと書かれたTシャツを取り出す。よくこのダサい感じのTシャツを買おうと思ったもんだ。

「はい! Tシャ……なんですか、そのTシャツ。」
「……藍が買ったTシャツ。」
「……ノーコメントでいいですか。」

 目を逸らしたな。まあ、そうなる気持ちは分からんでもない。

「いいぞ。」
「……どうも。で、袴から動きやすい服に着替えさせた方がいい、ということですよね?」
「そうそう。お願い出来る?」
「もちろん大丈夫ですよ! さ、藍ちゃん、こっちおいで?」
「……、」

 手を広げた空木を見て首を傾げるチビ藍。その表情は少し不安そうだ。

「空木さんは怖くないですよ。」
「……ん。」

 りんのその一言で空木に大人しく抱き上げられる。チビ藍のりんに対する信頼は何ぞ。

「お着替えしましょー!」

 チビ藍を連れて隣の空き教室へ行ったのだった。













「うごきやすいね!」

 ダサいTシャツをワンピースのように着たチビ藍。もう泣いてはいない。そこは良かったのだが……

 動きやすいと本人は絶賛しているが、如何せん柄がなあ……

「何故藍ちゃんはこのTシャツをチョイスしたんだ……! これじゃあ小さい藍ちゃんの可愛さが半減しちゃう!」

 空木も同意見だそうだ。

 それにしても空木は白髪灰色目を見てそこまで驚かないのな。俺達でも驚いたのに。

 ピンポンパンポン

『あー、あー、聞こえてるのかな? ええと、さっき? 放送があったエートスは学園長室でお話を聞いてる最中です! どうやら触れた人を幼子に戻す能力を持っているようなのですが、半日くらいすれば勝手に元に戻るらしいので、周りの皆さん! 幼子に戻ってしまった方の面倒を見てあげてください! 以上!』

 桃が上機嫌で放送を流す。前々から校内放送とか楽しそー、とか言ってたもんな。念願が叶って良かったな。

「じゃあ心配することはないんだ! 良かったねー!」

 空木は優しくチビ藍の頭を撫でる。チビ藍は嬉しそうだ。こう見ると普通の子供だな。

「さて、着るものの心配は無くなりましたが……学級の仕事はどうしますか?」
「あー……」

 午後にA組三人は給仕の仕事が入っているのを思い出したらしい。

「どうしようね。」
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