107 / 122
二章
四・二
しおりを挟む
「あー、ええとー、島国の……下町デスカネー……」
ハハハ、と苦笑いしながらそう真実を伝えると──嘘言ってもいつかはバレるし、バレた時のリスクを考えたら本当のことを言った方がマシだ──、その見知らぬ人は嘲笑した。
「あ~、そっかそっか~。平民だったかぁ~!」
そして周りにも聞こえるように無駄に大きな声を上げ、それを聞いた周りも同様にクスクスと嘲笑した。
確かアリーズ曰く、十二星座のすぐ下の地位にいる貴族達は、トップのすぐ下ということに対して並々ならぬプライドを持っていて、それより下の一般人……目の前の生徒の言葉を借りるならば平民という立場の人間を見下しがちだ、と。
この人もそんな貴族らしい貴族のようだ。威張り散らし、平民と呼ぶ人達を嬲るような。そんな人達とは関わらないに限るな、と私は鞄を持って立ち上がることにした。
「ちょっと、この僕が話している途中だっていうのに、何処に行く気だね?」
「いや、時間の無駄になりそうだから帰ろうかと。」
「……はぁ!? この僕を蔑ろにするつもりかい? この由緒正しきナガミーレ家の僕を!?」
信じられない、と言いたげな見知らぬ人。いや、そっちの事情なんて知らんがな。さすがにそれを声に出すと現状が悪化の一途を辿ることは明白。ということで口を噤んだ私、エライ!
内心でそう自画自賛しながら、この人のお喋りを聞き流すことにした。
あれから数十分経ち、あの人はずっと喋り続けて満足したらしく私を解放してくれた。ハッキリ言ってあんな身のない話に数十分も使えるなんて一種の才能だよな、だなんて考えながら一人城へと帰る。
「おかえり、マロン。」
「ただいまー。」
ちょうど玄関近くにいたのはアリーズだった。こんな所で何をしていたんだろうか。もしかして暇してたとか? そんな疑問を持ちながらアリーズと相対する。
「初登校、どうだった?」
「いや、特に何も。アリーズこそ暇していたんじゃない? 今だってここで私の帰りを寂しく待っていたんでしょ?」
「いやいや、それこそ無いね。充分有意義な時間を過ごしたよ。ここは書庫からの帰り道に必ず通るだろう? 偶々だよ。」
「へぇー」
やっぱりアリーズは読めない。煙に巻くようなやり取りに残り少ない体力を持っていかれるような気分になり、話を切り上げることにした。
「さ、さて、私は部屋に戻るカナー」
「……フッ、話の変え方ヘッタクソ。」
「う、五月蝿いなぁ。いいでしょう? 別に。」
「フフン……ああそうだ、マロン。一つ、いいかい?」
「何さ、改まって。」
鼻で笑ったりなど先程までのおちゃらけた雰囲気から一転、アリーズは真剣な表情を浮かべ始める。何だ何だと頭に疑問符を浮かべながら(一応真剣な表情で)彼の言葉を待つことにした。
「……これから、マロンは大変な思いをするかもしれない。そしてそれを乗り越えてほしいと我輩は思う。だが、もし……もし耐えられなくなったら、我輩でも良い、他の十二星座でも良いから、頼りなさい。」
「……? 分かった。」
アリーズの言葉の真意は分からなかったが、彼がそう言うということは何か考えがあってのことだろう、と自分を納得させて頷いておいた。
その時見せたアリーズの顔はとても神妙で、奇妙で、正直言うと面白かった。
ハハハ、と苦笑いしながらそう真実を伝えると──嘘言ってもいつかはバレるし、バレた時のリスクを考えたら本当のことを言った方がマシだ──、その見知らぬ人は嘲笑した。
「あ~、そっかそっか~。平民だったかぁ~!」
そして周りにも聞こえるように無駄に大きな声を上げ、それを聞いた周りも同様にクスクスと嘲笑した。
確かアリーズ曰く、十二星座のすぐ下の地位にいる貴族達は、トップのすぐ下ということに対して並々ならぬプライドを持っていて、それより下の一般人……目の前の生徒の言葉を借りるならば平民という立場の人間を見下しがちだ、と。
この人もそんな貴族らしい貴族のようだ。威張り散らし、平民と呼ぶ人達を嬲るような。そんな人達とは関わらないに限るな、と私は鞄を持って立ち上がることにした。
「ちょっと、この僕が話している途中だっていうのに、何処に行く気だね?」
「いや、時間の無駄になりそうだから帰ろうかと。」
「……はぁ!? この僕を蔑ろにするつもりかい? この由緒正しきナガミーレ家の僕を!?」
信じられない、と言いたげな見知らぬ人。いや、そっちの事情なんて知らんがな。さすがにそれを声に出すと現状が悪化の一途を辿ることは明白。ということで口を噤んだ私、エライ!
内心でそう自画自賛しながら、この人のお喋りを聞き流すことにした。
あれから数十分経ち、あの人はずっと喋り続けて満足したらしく私を解放してくれた。ハッキリ言ってあんな身のない話に数十分も使えるなんて一種の才能だよな、だなんて考えながら一人城へと帰る。
「おかえり、マロン。」
「ただいまー。」
ちょうど玄関近くにいたのはアリーズだった。こんな所で何をしていたんだろうか。もしかして暇してたとか? そんな疑問を持ちながらアリーズと相対する。
「初登校、どうだった?」
「いや、特に何も。アリーズこそ暇していたんじゃない? 今だってここで私の帰りを寂しく待っていたんでしょ?」
「いやいや、それこそ無いね。充分有意義な時間を過ごしたよ。ここは書庫からの帰り道に必ず通るだろう? 偶々だよ。」
「へぇー」
やっぱりアリーズは読めない。煙に巻くようなやり取りに残り少ない体力を持っていかれるような気分になり、話を切り上げることにした。
「さ、さて、私は部屋に戻るカナー」
「……フッ、話の変え方ヘッタクソ。」
「う、五月蝿いなぁ。いいでしょう? 別に。」
「フフン……ああそうだ、マロン。一つ、いいかい?」
「何さ、改まって。」
鼻で笑ったりなど先程までのおちゃらけた雰囲気から一転、アリーズは真剣な表情を浮かべ始める。何だ何だと頭に疑問符を浮かべながら(一応真剣な表情で)彼の言葉を待つことにした。
「……これから、マロンは大変な思いをするかもしれない。そしてそれを乗り越えてほしいと我輩は思う。だが、もし……もし耐えられなくなったら、我輩でも良い、他の十二星座でも良いから、頼りなさい。」
「……? 分かった。」
アリーズの言葉の真意は分からなかったが、彼がそう言うということは何か考えがあってのことだろう、と自分を納得させて頷いておいた。
その時見せたアリーズの顔はとても神妙で、奇妙で、正直言うと面白かった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる