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9 分かり合えない壁

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「ええー? なんでー? あたし悪くないよ!」

 クラインさんはまだ悪いとは思っていないようです。ならば同じ状況を想像してもらいましょう。

「では逆に聞きます。例えばあなたが先に席に着いていたとします。」
「ほんほん。」

「そうしたら後から来た人に理不尽にも『そこに座りたいから退いて』と言われたらどう思いますか?」
「え、嫌だって言う。」
「それと同じです。この方も嫌だと思われたはずです。」
「ええー? でもそれとこれとは違くない?」

 ……ここまで話が通じない方は初めてです。ああ、だんだん頭痛が酷くなってきました。

 ここからどう展開して話を終着させましょうか。

「あー、もうこんな時間! ほらー、あなた達のせいでご飯食べ損ねたー! じゃ、お先ー!」

 時計を見たクラインさんはそそくさと逃げていきました。確かにお昼休憩の時間はもう終わりになってしまいました。

 ああ、私やアウルさんもお昼ご飯食べていないのに……

「……私達下々の諍いの仲裁をしてくださりありがとうございます。」
「いいんですよ。しかしすぐ終わらせられず、すみませんね。」
「いえ!」

「あなたもお昼ご飯食べていないのでしょう?」
「ええ、まあ……」
「これ、持って行って教室でお食べになって? クラスメイトの皆様もこの事情を汲んでくれるはずよ。ここまで大事になればきっと皆様知っていらっしゃるはずだもの。」

 私がずっと持っていたお弁当を差し出す。この方があまりにも可哀想で、少しでもその心が晴れればと思いまして。

 何せ教室から食堂まで随分歩きますから、授業の合間にここに来て食事をすることは難しいでしょうし。

「そんな! 恐れ多いです!」
「いいから。今回あなたは悪くなかったのでしょう? これで貸し借りなしとまでは言いませんが、少しでもあなたの気が晴れれば良いなと思います。」
「陽だまり様……!」
「また何かあれば私が仲裁しましょう。それが上に立つものの定めなのでしょうから。」

 これは私の本心です。そしてあわよくば争いが無くなればと思っています。壮大でしょうか?
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