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わん(1章)

しっくす・わん

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 僕が書いた小説を朗読し始めた時はどうなることかと思ったが、取り敢えずしばらくの間、あの小説は封印しておこうと思う。また朗読されたらたまったもんじゃないからね。

 と、まあ、ベッドの下に僕の著書を封印したところで粗方溜飲も下がったことだし、もう撫でても良いよと佐藤さんの近くに座る。すると即頭を撫でられた。

 鳩尾に突進してごめんなさいの意味も込めて、その手をペロッと舐めたりもして。

 ああ、そうだ。どうやら佐藤さんにとっての『癒し』とは、僕を撫でくりまわすことを意味するらしい。それはこの一日でよくよく理解したこと。

 僕自身も佐藤さんに撫でられるのは嫌ではないらしいことが今日分かったから、結果的にうぃんうぃん、ってやつなんだと思う。

 佐藤さんに撫でられると、なんかこう……胸がホワホワあったかいんだ。涙も出そうになる。

 このあたたかさ、僕は知らない。三度目(仮)の生で初めて体感した。これは一体何なんだろうな。




──楓真side

 あれからお昼ご飯を経て、今度はサキちゃんにブラッシングをしてあげようと買い物袋を漁る。ああ、他のものも全て取り出しておこうか、と買ったものをどんどんパッケージから取り出していく。

 サキちゃんはといえば、俺のそのサマをジッと見つめている。もしかしたら何を買ったのか気になっているのかもしれない。

 そう思い当たり、パッケージから取り出したものたちをサキちゃんの目の前に並べていく。

 サキちゃんはやはり買ったものに興味を示しており、出したものを順番にクンクンと嗅いでいく。

「サキちゃん、これからブラッシングしても良い?」

「わふ?」

 ブラッシングの意味が分かっていないのか、『それは何?』とでも言いそうに首を傾げた。

「このブラシでサキちゃんの毛を綺麗にしてあげたいなって思って。」

 まずブラシをサキちゃんの目の前に置き、怖いものではないことを示す。サキちゃんもそれの匂いを嗅ぎ、大丈夫と言わんばかりに『キャン!』と鳴いた。

「じゃあ失礼しま~す」

 力加減が分からず、恐る恐るブラシを毛に沿わせていく。二度三度と毛を整えていくと、サキちゃんはフニャリと全身を蕩けさせた。何それ見たことないくらいゆるゆるな顔じゃん可愛い!

 どうやらブラッシングはお気に召していただけたようだ。

…………

 今日の分のブラッシングを終えてブラシを引き出しに仕舞うと、サキちゃんはその引き出しを物欲しそうな目で見つめていた。そんなに気に入ったのか。

 ふむ、サキちゃんはブラッシングが好き、と。一つサキちゃんについて詳しくなれた、と俺は内心ウッキウキだ。いや、ウッハウハかもしれない。

 もし飼い主レベルなんてものが存在したとするなら、きっと今レベルが一つ上がったんだろうな。だなんてことを考えるくらいには浮かれている。

 サキちゃんは未だに引き出しを眺めているので、さすがにこれ以上は嫉妬してしまうぞ、だなんて自分勝手なことを思わず口にしそうになった。

 既のところで物理的に自分の口を手で塞いだから良いものの、これ以上サキちゃんにみっともないところを見せたくはないから、ある意味鋼の理性が欲しいかもしれない。

 ……ゴホン、閑話休題。

 さて、今度はどうやってサキちゃんに構おうか。買ってきたものを眺めながら、それを考えるだけでも楽しいだなんてさすがサキちゃんだ、だなんて脳内ではいつもの親バカを発揮する。

 当のサキちゃんはといえばブラッシングが終わったことに納得したらしく、引き出しを眺めるのをやめていた。

 そして今日買ってきたものの物色を始めたようだった。どうやらどれもこれも目新しいものらしく、匂いをまた嗅いでみたり、前足でチョンチョンと突いてみたりしている。

 そうだ、買ってきたものの中にはボールもある。これで遊んでみたらどうだろうか、と俺はそれを手に取りポーンと軽く放ってみた。

 すると今まで見せていたポテポテゆっくり歩くサマが嘘のように、サキちゃんは俺が目で追えない程俊敏にそれを追いかけた。

 狩猟本能を刺激でもされたのか? と疑問に思ったが、ああ、いや、違う、サキちゃんは元は人間なんだった。忘れてはいけない。そう思いとどまる。

 そう思い耽っている間にサキちゃんはボールを咥え、俺の目の前にポトリと落とす。そしてその後の『持ってこい出来たぞドヤァ』顔は勿論写真に収めた。俺はここまで俊敏に動けただろうかと自分で自分を疑わしく思うほどの速さで。

 脳内のメモリだけに保存すると写真として現物化できないことに気が付いた俺は、なるべくいつでも写真を撮れるようにスマホを持ち歩くようにしたのだ。

 タプタプタプ……

 よし、スマホの壁紙を今の写真に変えて……っと。これだけでも写真を撮った意味があるというもの。

 スマホを開ければサキちゃんのドヤ顔がいつでも見えると考えると、いやはやスマホを眺める時間が長くなりそうだ。
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