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48.後日譚(ごじつたん)
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ポン吉を体育館裏に拉致し、八木沢由美子を殴った医者の息子の話は、瞬く間に学校中の噂になった。何しろ、事件の被害者とも言うべき八木沢由美子は自称・梅園小学校のジャーナリストであり、スポークスマンなのでね。
そして、さらに、八木沢由美子は、事件その後の話をさっそく仕入れてきた。
「それでね、5年2組の担任の話なんだけれど、かつて、生徒やPTAの話を鵜呑みにして、あの森下先生を担任から降ろしてしまったのだけれど、あのチャタロー君のいじめ事件を見るかぎりにおいて、薮井くんの親や生徒にも問題がありそうだということで、再調査したそうよ。
そうしたら、今迄、薮井さんの意見に同調していたPTAや生徒たちが証言を翻したんですって!」
「それでどうなったの? 森下先生、5年2組の担任に戻ってくるの?」
八木沢由美子を取り巻いている子たちが ワイワイ ガヤガヤ 質問や感想を噴出させるのを、八木沢由美子はまあまあと言うように両手で押さえて静かにさせ、話を続けた。
「あの先生は、もう、5年2組には戻りたくないって言ってるらしいの。ちょっとPTSDぎみなんですって。そりゃそうよね。あの薮井の息子がまだあの組にいるからね」
「じゃあ、教頭先生が相変わらず担任を続けるの?」
「いえ、臨時の先生がくるらしいよ。何でも産休をとる先生の代わりに待機していた先生が来るらしい」
どんな先生なんだろうか?
また今度来る先生も、医者の息子やその取り巻きの反抗的な態度に手を焼き、やむをえず叱ったら、モンスターペアレントがでてきて、クチャンクチャンにされるんじゃないか? いや、そうならないように、今度は岩のように動じないベテランの先生を選んだかもしれないなどと様々な憶測が飛び交った。
やってきたのは、どことなく顔も、身体も丸みを帯びた中年の女性だった。全校生徒の前で紹介された時、あまりもの平凡さに、生徒たちはがっかりしたような感じだったけれど、校長先生の次の発言で空気がかわった。
「ニコニコして、優しそうな先生でしょう。でもね、先生は空手5段だそうです」
その後の八木沢由美子のリサーチによると、5年2組で「センセイ、本当に空手できるんですか? 一度瓦割ってみてください」などの発言が多発したそうだ。先生はそのうちね、などと言っていたせいかどうか、先生を甘く見てからかうような言動も多々あったんだそうだ。
そんなある日の体育の時間、「みんなが見たがっているからね」と先生は瓦を持ってきた。そして、「瓦、割ってみたい人いる?」と聞いて、とりあえず1枚を割るというのを希望者にやらせてみた。
誰も割れなかった。
先生は「あーよかった。割れなくて。これ、高いのよね」と笑いながら言い、
最後に瓦を10枚重ねて、先生が割ってみせた。
「それからというもの、5年2組では、先生にちょっかいを出す奴がいなくなったんだそうよ。薮井の息子も大人しくなったようだしね。なにより、あそこの親が大人しくなったね」と八木沢由美子は言った。
そして、さらに、八木沢由美子は、事件その後の話をさっそく仕入れてきた。
「それでね、5年2組の担任の話なんだけれど、かつて、生徒やPTAの話を鵜呑みにして、あの森下先生を担任から降ろしてしまったのだけれど、あのチャタロー君のいじめ事件を見るかぎりにおいて、薮井くんの親や生徒にも問題がありそうだということで、再調査したそうよ。
そうしたら、今迄、薮井さんの意見に同調していたPTAや生徒たちが証言を翻したんですって!」
「それでどうなったの? 森下先生、5年2組の担任に戻ってくるの?」
八木沢由美子を取り巻いている子たちが ワイワイ ガヤガヤ 質問や感想を噴出させるのを、八木沢由美子はまあまあと言うように両手で押さえて静かにさせ、話を続けた。
「あの先生は、もう、5年2組には戻りたくないって言ってるらしいの。ちょっとPTSDぎみなんですって。そりゃそうよね。あの薮井の息子がまだあの組にいるからね」
「じゃあ、教頭先生が相変わらず担任を続けるの?」
「いえ、臨時の先生がくるらしいよ。何でも産休をとる先生の代わりに待機していた先生が来るらしい」
どんな先生なんだろうか?
また今度来る先生も、医者の息子やその取り巻きの反抗的な態度に手を焼き、やむをえず叱ったら、モンスターペアレントがでてきて、クチャンクチャンにされるんじゃないか? いや、そうならないように、今度は岩のように動じないベテランの先生を選んだかもしれないなどと様々な憶測が飛び交った。
やってきたのは、どことなく顔も、身体も丸みを帯びた中年の女性だった。全校生徒の前で紹介された時、あまりもの平凡さに、生徒たちはがっかりしたような感じだったけれど、校長先生の次の発言で空気がかわった。
「ニコニコして、優しそうな先生でしょう。でもね、先生は空手5段だそうです」
その後の八木沢由美子のリサーチによると、5年2組で「センセイ、本当に空手できるんですか? 一度瓦割ってみてください」などの発言が多発したそうだ。先生はそのうちね、などと言っていたせいかどうか、先生を甘く見てからかうような言動も多々あったんだそうだ。
そんなある日の体育の時間、「みんなが見たがっているからね」と先生は瓦を持ってきた。そして、「瓦、割ってみたい人いる?」と聞いて、とりあえず1枚を割るというのを希望者にやらせてみた。
誰も割れなかった。
先生は「あーよかった。割れなくて。これ、高いのよね」と笑いながら言い、
最後に瓦を10枚重ねて、先生が割ってみせた。
「それからというもの、5年2組では、先生にちょっかいを出す奴がいなくなったんだそうよ。薮井の息子も大人しくなったようだしね。なにより、あそこの親が大人しくなったね」と八木沢由美子は言った。
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