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39.走る練習を始めた
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ところで、もし、ゲンガクの助けを借りなかったら、ぼくはどのくらい速く走れるのだろう?
ぼくはそれが知りたくてたまらなくなった。
けれど、ゲンガクがいつも張り付いていて
「おれにまかせろ、おれが勝たせてやる。1番とらせてやる」って手を出すから、試すチャンスがなかなかなかった。
しかしそのうち、ゲンガクにつきまとわれない時間があることに気付いた。それは、学校から家に帰ってくるとゲンガクは家に入れないからそこで離れる。その後、用事で外に出ると、もうゲンガクはどこかに行っているらしくてついてこない事がわかった。
それに気付いてある日ぼくは電話でヤッチを呼び出した。ヤッチはぼくと同じで中学受験をしない。そのため最近、二人だけで掃除当番をすることが多く、仲良くなっていた。
ヤッチはぼくと違って体が大きいから、100メートル走の時は同じ組ではない。ヤッチは大きな組のなかでは足が遅く、練習の時はほとんどビリになっていた。ぼくはそのヤッチにこう持ちかけた。
「100メートル走の練習がしたいんだ。つきあってくれる?」
ヤッチは「いいよ、ぼくも丁度やりたいと思っていたんだ」といって一緒にやることになった。
二人で河川敷に向かった。
「ヨッチ、この前の練習の時、3着とってたでしょう?」とヤッチは言った。
ちなみにヨッチとはぼくのことね。
ヤッチはぼくのことを見ていたんだ。
「うん。3着とったのはじめてなんだ。もっとも練習だから、他の子は手を抜いていたと思うけど」
「ぼくはけっこうマジで走った。でもビリだった」
「3着をとったとき、2組の先生が、ぼくは早生まれだから今まで体力にハンディがあったんだ。やっとみんなに成長が追いついてきたね。と言ってくれた。それでぼく練習してみようと思ったんだ」
「へー、いいなあ。ぼくは4月生まれだから、追いつかれるほうだ。ぼくはこの先もみんなから離される一方なのかなあ・・・」
ぼくはヤッチがそんなふうに思うなんて思いもしなかったから少しあわてた。
「あ、ごめん、そういうつもりで言ったんじゃなくて、つまり、要するに、どうやら走り方にコツがあるらしいんだよ。なんでも自分は速いとまず思うんだそうだ。それなのに速く走ろうとは思うなって」
「誰かが教えてくれたの?」
「う? うん・・・テレビで見たんだ、なんの番組だったか・・・」ぼくは適当にごまかしながら続けた。
「それでね、速く走ろうとするとどうしても小またになるんだって。小またになると速くなくなるんだって。それよりも大またで、ぴょーん、ぴょーん、と飛ぶように足を出して、その足で地面に立てた空き缶を後ろに蹴り飛ばすように地面を蹴って走るんだそうだ」
「よし、やってみよう」
ぼくはヤッチンと何度も何度も河川敷を走った。タイムを計って、ちょっと速くなったり、ちょっと遅くなったりするのが面白くて、くたくたになるまで走った。ものすごく楽しかった。
「また明日も、学校から帰ったらやろうね」そう約束して、それから毎日のようにヤッチと練習を重ねた。
ぼくはこのことをゲンガクには秘密にしておきたかった。不思議なことにゲンガクとは思っただけでも会話ができるのに、こちらが秘密にしたいと思えば秘密にもできるらしかった。
「なんか隠してることないか?」
ゲンガクは何かを感づいて怪しんだ。
「実はある」
ぼくは臆せず言った。
「運動会の時は絶対、手を出さないで。いいね、なんにもしないで」
ゲンガクはそんなぼくの発言にとまどって言った。
「ビリをとってもいいのか?」
「いいよ。もともとビリだもん」
「あいつ歩いているみたいだって、笑われるぜ」
「いいよ。もともと言われていたもん」
ゲンガクはかなり焦った。
「あの2組の先生のせいだな。よけいなことを言ってくれて・・・そんなら早生まれは全員この時期足が速くなるというのか? そんなことあり得ない。常識で考えたってあり得ない。統計上でもありえない。非科学的だ!でたらめだ!」
ゲンガクはいろいろとわめいたがぼくの心は決まっていた。
ぼくはそれが知りたくてたまらなくなった。
けれど、ゲンガクがいつも張り付いていて
「おれにまかせろ、おれが勝たせてやる。1番とらせてやる」って手を出すから、試すチャンスがなかなかなかった。
しかしそのうち、ゲンガクにつきまとわれない時間があることに気付いた。それは、学校から家に帰ってくるとゲンガクは家に入れないからそこで離れる。その後、用事で外に出ると、もうゲンガクはどこかに行っているらしくてついてこない事がわかった。
それに気付いてある日ぼくは電話でヤッチを呼び出した。ヤッチはぼくと同じで中学受験をしない。そのため最近、二人だけで掃除当番をすることが多く、仲良くなっていた。
ヤッチはぼくと違って体が大きいから、100メートル走の時は同じ組ではない。ヤッチは大きな組のなかでは足が遅く、練習の時はほとんどビリになっていた。ぼくはそのヤッチにこう持ちかけた。
「100メートル走の練習がしたいんだ。つきあってくれる?」
ヤッチは「いいよ、ぼくも丁度やりたいと思っていたんだ」といって一緒にやることになった。
二人で河川敷に向かった。
「ヨッチ、この前の練習の時、3着とってたでしょう?」とヤッチは言った。
ちなみにヨッチとはぼくのことね。
ヤッチはぼくのことを見ていたんだ。
「うん。3着とったのはじめてなんだ。もっとも練習だから、他の子は手を抜いていたと思うけど」
「ぼくはけっこうマジで走った。でもビリだった」
「3着をとったとき、2組の先生が、ぼくは早生まれだから今まで体力にハンディがあったんだ。やっとみんなに成長が追いついてきたね。と言ってくれた。それでぼく練習してみようと思ったんだ」
「へー、いいなあ。ぼくは4月生まれだから、追いつかれるほうだ。ぼくはこの先もみんなから離される一方なのかなあ・・・」
ぼくはヤッチがそんなふうに思うなんて思いもしなかったから少しあわてた。
「あ、ごめん、そういうつもりで言ったんじゃなくて、つまり、要するに、どうやら走り方にコツがあるらしいんだよ。なんでも自分は速いとまず思うんだそうだ。それなのに速く走ろうとは思うなって」
「誰かが教えてくれたの?」
「う? うん・・・テレビで見たんだ、なんの番組だったか・・・」ぼくは適当にごまかしながら続けた。
「それでね、速く走ろうとするとどうしても小またになるんだって。小またになると速くなくなるんだって。それよりも大またで、ぴょーん、ぴょーん、と飛ぶように足を出して、その足で地面に立てた空き缶を後ろに蹴り飛ばすように地面を蹴って走るんだそうだ」
「よし、やってみよう」
ぼくはヤッチンと何度も何度も河川敷を走った。タイムを計って、ちょっと速くなったり、ちょっと遅くなったりするのが面白くて、くたくたになるまで走った。ものすごく楽しかった。
「また明日も、学校から帰ったらやろうね」そう約束して、それから毎日のようにヤッチと練習を重ねた。
ぼくはこのことをゲンガクには秘密にしておきたかった。不思議なことにゲンガクとは思っただけでも会話ができるのに、こちらが秘密にしたいと思えば秘密にもできるらしかった。
「なんか隠してることないか?」
ゲンガクは何かを感づいて怪しんだ。
「実はある」
ぼくは臆せず言った。
「運動会の時は絶対、手を出さないで。いいね、なんにもしないで」
ゲンガクはそんなぼくの発言にとまどって言った。
「ビリをとってもいいのか?」
「いいよ。もともとビリだもん」
「あいつ歩いているみたいだって、笑われるぜ」
「いいよ。もともと言われていたもん」
ゲンガクはかなり焦った。
「あの2組の先生のせいだな。よけいなことを言ってくれて・・・そんなら早生まれは全員この時期足が速くなるというのか? そんなことあり得ない。常識で考えたってあり得ない。統計上でもありえない。非科学的だ!でたらめだ!」
ゲンガクはいろいろとわめいたがぼくの心は決まっていた。
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