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29.猫がおばさんになった
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「お邪魔しまーす」
と、おばさんが言うと、丸もじゃ眼鏡はぼくを指さして言った。
「あ~、この前来た子な、タイコが掃除に行っていたうちのぼうやだって? それで、その隣の大人の人はママか?」
おばさんが答えた。
「ママじゃなくて、おばです。神無月ひかる と申します」
おばさんは名刺を取り出して丸もじゃ眼鏡に渡した。おばさんはここでもペンネームで通すみたいだ。
「あ、こりゃすまん。わしも名刺を……あ~っと、名刺どこいったかな」
そう言いながら丸もじゃ眼鏡はあちこちの引き出しを開け閉めして名刺探しを始めた。足元のダンボールをも探し始めた。
「あああ、いいです、いいです。なくてもいいです」
おばさんがたまりかねて言ったが、
「よくない。そういうわけにはいかない」
といって、丸もじゃ眼鏡は、あちこち探すのをやめなかった。この人、こだわるタイプなんだなと、ぼくは思った。そして執念の甲斐があったか、やっと一枚の紙片を取り出した。
「あった! あったぞ! あった、あった、はははは、これこれ、これ、わたしの名刺! ちょっと撚れてるが、はい、わたしの名刺」
なんか子供のように大喜びしておばさんに名刺を手渡した。見るとちょっとどころではなく、紙がだいぶ撚れている。それでもおばさんは名刺を両手で押し頂いて、名前を読んだ。
「まつかぜ はかせ……さん」
「まつかぜ ひろし じゃ。みんなは ハカセ とよんでいるがね」
名刺の文字は《松風 博士》とある。
「すると、あの松風荘はあなたの持ち物?」
「そういうことになるかな。ところで、きみ、えーと、ひかるちゃん、きみの立体コピーとらしてくれんかね」
ひかるちゃんだって。なれなれしいな。このおじさんが言うと、なんか違和感を感じる。
「え? 立体コピー? 撮ってモルモットに転写するのかな?」と、おばさん。
「今日はモルモットじゃなく、そこの窓際にいる猫にしようと思うんだ」
窓辺を見ると、この前もいた毛もじゃの猫が、アクリルボックスのようなものに入って寝ていた。いくら転写するのがモルモットではなく、猫でも、実験材料になることに変わりはない。ぼくはおばさんが断ると思っていたら、
「いいですよ」と承諾してしまったではないか!
え? やるの? いいの? あとで後悔するかも! と、ぼくは気がもめたが、ハカセのほうは大喜びで
「え! やってくれるの! ありがとう! ありがとう! 大人のダミーは手に入りにくいんだよね。じゃ、ひかるちゃん、そこの台に立ってね。息を大きく吸って、止めなくてもいいからね」
おばさんが台に立つと、機械が作動し始めた。
ウィーン
この前のように円筒形の光がおばさんを覆う。5分ほどして、
「いいよ。終わったよ。見るかい?」
丸もじゃ眼鏡は、この前とはまた違ったハイテンションでおばさんをディスプレイの方に招き
「ね、これが今とったひかるちゃんの三次元コピーだよ」と画像をまわして見せ、
「これからだよ。細工は隆々、仕上げを御覧じろ」と、またあの呪文を唱えた。そして、窓辺から猫の入ったケースをその台の上に運び込むと、
再び、ウィーン……
猫は猫サイズのおばさんに変身した。
「ほう! 見事なもんだね!」おばさんは感心している。
すると丸もじゃ眼鏡も得意そうに
「だろう? わしゃ、天才じゃろう?」
「ほんと! 大天才!」
なんか、変人同士で、気が合ってるじゃないか!
丸もじゃ眼鏡は、アクリルケースをテーブルの上に運ぶと、おばさんになった猫をケースから取り出そうとした。すると、そいつはケースから出たくなかったのか虫の居所が悪かったのか、”ギャンゴロギャンギャーッ” と叫び、丸もじゃ眼鏡をひっかいた。丸もじゃ眼鏡は「いてーっ!」と叫び、あわてて手を引いたものだからクリアケースはひっくり返り、おばさんになった猫は飛び出して窓辺に走っていった。
「こらーっ! 待てーっ! バカ猫!」
丸もじゃ眼鏡は追いかけていって、つかまえようとすると、おばさんになった猫は窓枠に飛び乗って、両手でぶつような仕草をしながら ”シャーッ” といった。
おばさんが仲裁に入った。
「ハカセ、ハカセ、あんまり私をいじめないで!」
するとハカセは振り返ってきまり悪そうな顔をした。
「そうじゃったな。今は、お前さんの分身だな」
「分身といわれても・・・」とおばさんも照れ笑いのような複雑な表情になって言った。
「人工的に変化(へんげ)させてるからですかね~、中身はあいかわらず猫なんですね~」
すると丸もじゃ眼鏡は一瞬、息をのんだ。
「今、なんて言った? へんげ って言ったか?」
「はい、へんげ って言いましたけど・・・・・・」
「なんで、へんげ をやろうとしたことがわかったんだ!?」
これにはぼくもおばさんも驚いた。
”へんげ”という言葉に引っかかったんだ。 それに引っかかったということは、丸もじゃ眼鏡も変化の存在を知っているってこと? 知ってるだけじゃないよね。何らかの理由で変化を人工的に行おうと研究してるんだ!
丸もじゃ眼鏡のほうも、ぼくたちが変化の存在を知っていると知って、驚いているみたいだ。互いにどこまで知っているのか、探ろうとしてコトバを探している間、窓辺では、おばさんになった猫が毛づくろいを始めた。
おばさんが手を舐めて顔を拭いている。
おばさんが首を捻じ曲げて背中を舐めている。
「うわっ! からだ、柔らかい!」
おばさんがそんな感想を漏らしている間に、猫のおばさんはお腹を舐めだした。
そこらへんでおばさんはある事に気づき、叫んだ。
「うわー、それ以上はやめて!」
おばさんの心配していることが、ぼくにもわかった。猫って、足を上げてお尻をなめるじゃないですか。そうなるとこれ、R指定になっちゃって、ヤバいですよね。
でも心配ご無用。猫を覆っていたおばさんの姿が崩れてきた。ところどころ、おばさん、ところどころ猫、を経過した後、やがて猫はすっかり猫に戻って、毛づくろいも終わり、窓辺でまどろみ始めた。
「ふー、よかった!」と安堵の息をもらしたおばさんとは正反対に、こんどは丸もじゃ眼鏡の嘆く声が聞こえてきた。
「今度もだめか! どうしてだめなんだ! どこがいけないんだ。どうしてすぐ消えてしまうんだ。どうしてなんだ! 神の領域に踏み込んではいけないということなのか? やはり神に人知は及ばないということなのか? いや、わしが馬鹿で、脳無しというだけなのか?」
やれやれ、この前と同じだ。ハカセは有頂天とどん底の落差が激しすぎる。慰めようもない、と思っていたら、なんと、おばさんが慰めだしたではないか!
「ここまでできただけでも、ハカセは充分天才ですよ。わたし思うんですが、サンプルに転写するじゃないですか。ダミーが静止画なのに、サンプルが動いてしまうのが原因じゃないですか?」
「あっ!」ハカセは泣き止んだ。
「おまけに、猫が舐めとっちゃったし」
「ひかるちゃん! きみはなんて頭がいいんだ! そうか、撮った三次元画像は静止画なのに、転写対象は動いている! かたじけない!」
そう言ったかと思うと、丸もじゃ眼鏡はディスプレイ画面にとりついて、モーレツに作業を始め、もはや、ぼくたちのことは眼中に無さそうだった。
ぼくとおばさんは「じゃあ、失礼します」と小さく言って、そっとその場をはなれ、さっき来た道を逆にたどってアパートまで戻った。アパートの廊下では、お手伝いさんとこの子と、明日香ちゃんに似た子が遊んでいた。
おばさんが声をかけた。
「じゃ、えーと、マミアナさんとこのぼうや」
「ぼく、チャタローっていうんだよ」
「ああ、チャタロー君ていうんだね。」
女の子も言った
「あたし、アカネ」
「アカネちゃんっていうんだね。」
おばさんがそういうと、女の子はうれしそうに微笑んだ。微笑むとかわいい。
「ふたりはきょうだい?」
「ちがうよ」
二人は同時に答えた。
「あたしんち、コヅカっていうの」と「こいつんち、コヅカっていうの」がまた同時だった。
「じゃ、帰るね。チャタロー君、お母さんによろしくね」
玄関を出て戸が閉まると、セキュリティーマンションで鍵がかかる時に出るような音がした。思わず振り返る。
「きいた? あの音」
「鍵がかかったみたいだね」
「ためしに戸をあけようとしてみ」
試しに戸を開けようとしたが、もう鍵がかかって開かなかった。
おばさんがあたりを見回し、カメラをみつけた。
「ここ、廃墟のように見えるけど、意外とハイテクだよ。ドアは自動ロックだし、あそこに監視カメラがある」
「アパートの経営者がハカセだからね」
「うちよりすごいね。ひょっとするとお部屋は物凄く近代的かもしれないね」
「さ、帰ろう」とおばさんが言った。
「あれ? 会社をさがさなくていいの?」
「それ、又の機会にするわ。用事は一応足りたから」
そうか、おばさんは、お手伝いさんにお詫びのしるしをわたしたかったんだな。
ぼくたちは家に向かって歩き出した。
「チャタローくんも変化だよね」と僕が呟く。
「だろうね」とおばさんも呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
余談
マミアナ チャタロー を片仮名で書きましたが。漢字で書くと、狸穴 茶太郎 となります。お手伝いさんがいくらタヌキに似ているからって狸の穴だなんて、こじつけのような名前だと思います? でもちゃんとそういう名前あるんですよね。例えば麻布のロシア大使館があるところ、狸穴(マミアナ)っていいます。
それからアカネちゃんのコヅカ。これは狐塚と書きます。狐塚(きつねづか)とよばれる場所は全国各地にあります。東京では世田谷区と調布市にキツネヅカ古墳というのがあります。この狐塚、人名になると コヅカ となります。
と、おばさんが言うと、丸もじゃ眼鏡はぼくを指さして言った。
「あ~、この前来た子な、タイコが掃除に行っていたうちのぼうやだって? それで、その隣の大人の人はママか?」
おばさんが答えた。
「ママじゃなくて、おばです。神無月ひかる と申します」
おばさんは名刺を取り出して丸もじゃ眼鏡に渡した。おばさんはここでもペンネームで通すみたいだ。
「あ、こりゃすまん。わしも名刺を……あ~っと、名刺どこいったかな」
そう言いながら丸もじゃ眼鏡はあちこちの引き出しを開け閉めして名刺探しを始めた。足元のダンボールをも探し始めた。
「あああ、いいです、いいです。なくてもいいです」
おばさんがたまりかねて言ったが、
「よくない。そういうわけにはいかない」
といって、丸もじゃ眼鏡は、あちこち探すのをやめなかった。この人、こだわるタイプなんだなと、ぼくは思った。そして執念の甲斐があったか、やっと一枚の紙片を取り出した。
「あった! あったぞ! あった、あった、はははは、これこれ、これ、わたしの名刺! ちょっと撚れてるが、はい、わたしの名刺」
なんか子供のように大喜びしておばさんに名刺を手渡した。見るとちょっとどころではなく、紙がだいぶ撚れている。それでもおばさんは名刺を両手で押し頂いて、名前を読んだ。
「まつかぜ はかせ……さん」
「まつかぜ ひろし じゃ。みんなは ハカセ とよんでいるがね」
名刺の文字は《松風 博士》とある。
「すると、あの松風荘はあなたの持ち物?」
「そういうことになるかな。ところで、きみ、えーと、ひかるちゃん、きみの立体コピーとらしてくれんかね」
ひかるちゃんだって。なれなれしいな。このおじさんが言うと、なんか違和感を感じる。
「え? 立体コピー? 撮ってモルモットに転写するのかな?」と、おばさん。
「今日はモルモットじゃなく、そこの窓際にいる猫にしようと思うんだ」
窓辺を見ると、この前もいた毛もじゃの猫が、アクリルボックスのようなものに入って寝ていた。いくら転写するのがモルモットではなく、猫でも、実験材料になることに変わりはない。ぼくはおばさんが断ると思っていたら、
「いいですよ」と承諾してしまったではないか!
え? やるの? いいの? あとで後悔するかも! と、ぼくは気がもめたが、ハカセのほうは大喜びで
「え! やってくれるの! ありがとう! ありがとう! 大人のダミーは手に入りにくいんだよね。じゃ、ひかるちゃん、そこの台に立ってね。息を大きく吸って、止めなくてもいいからね」
おばさんが台に立つと、機械が作動し始めた。
ウィーン
この前のように円筒形の光がおばさんを覆う。5分ほどして、
「いいよ。終わったよ。見るかい?」
丸もじゃ眼鏡は、この前とはまた違ったハイテンションでおばさんをディスプレイの方に招き
「ね、これが今とったひかるちゃんの三次元コピーだよ」と画像をまわして見せ、
「これからだよ。細工は隆々、仕上げを御覧じろ」と、またあの呪文を唱えた。そして、窓辺から猫の入ったケースをその台の上に運び込むと、
再び、ウィーン……
猫は猫サイズのおばさんに変身した。
「ほう! 見事なもんだね!」おばさんは感心している。
すると丸もじゃ眼鏡も得意そうに
「だろう? わしゃ、天才じゃろう?」
「ほんと! 大天才!」
なんか、変人同士で、気が合ってるじゃないか!
丸もじゃ眼鏡は、アクリルケースをテーブルの上に運ぶと、おばさんになった猫をケースから取り出そうとした。すると、そいつはケースから出たくなかったのか虫の居所が悪かったのか、”ギャンゴロギャンギャーッ” と叫び、丸もじゃ眼鏡をひっかいた。丸もじゃ眼鏡は「いてーっ!」と叫び、あわてて手を引いたものだからクリアケースはひっくり返り、おばさんになった猫は飛び出して窓辺に走っていった。
「こらーっ! 待てーっ! バカ猫!」
丸もじゃ眼鏡は追いかけていって、つかまえようとすると、おばさんになった猫は窓枠に飛び乗って、両手でぶつような仕草をしながら ”シャーッ” といった。
おばさんが仲裁に入った。
「ハカセ、ハカセ、あんまり私をいじめないで!」
するとハカセは振り返ってきまり悪そうな顔をした。
「そうじゃったな。今は、お前さんの分身だな」
「分身といわれても・・・」とおばさんも照れ笑いのような複雑な表情になって言った。
「人工的に変化(へんげ)させてるからですかね~、中身はあいかわらず猫なんですね~」
すると丸もじゃ眼鏡は一瞬、息をのんだ。
「今、なんて言った? へんげ って言ったか?」
「はい、へんげ って言いましたけど・・・・・・」
「なんで、へんげ をやろうとしたことがわかったんだ!?」
これにはぼくもおばさんも驚いた。
”へんげ”という言葉に引っかかったんだ。 それに引っかかったということは、丸もじゃ眼鏡も変化の存在を知っているってこと? 知ってるだけじゃないよね。何らかの理由で変化を人工的に行おうと研究してるんだ!
丸もじゃ眼鏡のほうも、ぼくたちが変化の存在を知っていると知って、驚いているみたいだ。互いにどこまで知っているのか、探ろうとしてコトバを探している間、窓辺では、おばさんになった猫が毛づくろいを始めた。
おばさんが手を舐めて顔を拭いている。
おばさんが首を捻じ曲げて背中を舐めている。
「うわっ! からだ、柔らかい!」
おばさんがそんな感想を漏らしている間に、猫のおばさんはお腹を舐めだした。
そこらへんでおばさんはある事に気づき、叫んだ。
「うわー、それ以上はやめて!」
おばさんの心配していることが、ぼくにもわかった。猫って、足を上げてお尻をなめるじゃないですか。そうなるとこれ、R指定になっちゃって、ヤバいですよね。
でも心配ご無用。猫を覆っていたおばさんの姿が崩れてきた。ところどころ、おばさん、ところどころ猫、を経過した後、やがて猫はすっかり猫に戻って、毛づくろいも終わり、窓辺でまどろみ始めた。
「ふー、よかった!」と安堵の息をもらしたおばさんとは正反対に、こんどは丸もじゃ眼鏡の嘆く声が聞こえてきた。
「今度もだめか! どうしてだめなんだ! どこがいけないんだ。どうしてすぐ消えてしまうんだ。どうしてなんだ! 神の領域に踏み込んではいけないということなのか? やはり神に人知は及ばないということなのか? いや、わしが馬鹿で、脳無しというだけなのか?」
やれやれ、この前と同じだ。ハカセは有頂天とどん底の落差が激しすぎる。慰めようもない、と思っていたら、なんと、おばさんが慰めだしたではないか!
「ここまでできただけでも、ハカセは充分天才ですよ。わたし思うんですが、サンプルに転写するじゃないですか。ダミーが静止画なのに、サンプルが動いてしまうのが原因じゃないですか?」
「あっ!」ハカセは泣き止んだ。
「おまけに、猫が舐めとっちゃったし」
「ひかるちゃん! きみはなんて頭がいいんだ! そうか、撮った三次元画像は静止画なのに、転写対象は動いている! かたじけない!」
そう言ったかと思うと、丸もじゃ眼鏡はディスプレイ画面にとりついて、モーレツに作業を始め、もはや、ぼくたちのことは眼中に無さそうだった。
ぼくとおばさんは「じゃあ、失礼します」と小さく言って、そっとその場をはなれ、さっき来た道を逆にたどってアパートまで戻った。アパートの廊下では、お手伝いさんとこの子と、明日香ちゃんに似た子が遊んでいた。
おばさんが声をかけた。
「じゃ、えーと、マミアナさんとこのぼうや」
「ぼく、チャタローっていうんだよ」
「ああ、チャタロー君ていうんだね。」
女の子も言った
「あたし、アカネ」
「アカネちゃんっていうんだね。」
おばさんがそういうと、女の子はうれしそうに微笑んだ。微笑むとかわいい。
「ふたりはきょうだい?」
「ちがうよ」
二人は同時に答えた。
「あたしんち、コヅカっていうの」と「こいつんち、コヅカっていうの」がまた同時だった。
「じゃ、帰るね。チャタロー君、お母さんによろしくね」
玄関を出て戸が閉まると、セキュリティーマンションで鍵がかかる時に出るような音がした。思わず振り返る。
「きいた? あの音」
「鍵がかかったみたいだね」
「ためしに戸をあけようとしてみ」
試しに戸を開けようとしたが、もう鍵がかかって開かなかった。
おばさんがあたりを見回し、カメラをみつけた。
「ここ、廃墟のように見えるけど、意外とハイテクだよ。ドアは自動ロックだし、あそこに監視カメラがある」
「アパートの経営者がハカセだからね」
「うちよりすごいね。ひょっとするとお部屋は物凄く近代的かもしれないね」
「さ、帰ろう」とおばさんが言った。
「あれ? 会社をさがさなくていいの?」
「それ、又の機会にするわ。用事は一応足りたから」
そうか、おばさんは、お手伝いさんにお詫びのしるしをわたしたかったんだな。
ぼくたちは家に向かって歩き出した。
「チャタローくんも変化だよね」と僕が呟く。
「だろうね」とおばさんも呟いた。
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余談
マミアナ チャタロー を片仮名で書きましたが。漢字で書くと、狸穴 茶太郎 となります。お手伝いさんがいくらタヌキに似ているからって狸の穴だなんて、こじつけのような名前だと思います? でもちゃんとそういう名前あるんですよね。例えば麻布のロシア大使館があるところ、狸穴(マミアナ)っていいます。
それからアカネちゃんのコヅカ。これは狐塚と書きます。狐塚(きつねづか)とよばれる場所は全国各地にあります。東京では世田谷区と調布市にキツネヅカ古墳というのがあります。この狐塚、人名になると コヅカ となります。
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