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23.あなたは何者?
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「で?」
おばさんは詰問するようにお手伝いさんの答えを促しているところだった。お手伝いさんはひどく動揺した様子できょときょとしている。
ぼくが覗き込むと、おばさんは例によって手招きをしてぼくを呼んだ。お手伝いさんはぼくを見ると首をすくめるようにして挨拶をした。
「あなたも私たちと同じように普通の人が見えないものが見える、ということはわかったわよ。で、ショウちゃんとはどんな関係なのよ」
「いえ、関係だなんて・・・ショウイチ様とは昨日こちらで初めてお目にかかったんでございますです。」
「それで、ショウちゃんはあなたにはなんて言ったの?」
「石を捨てるな、と」
「それだけ?」
「はい」
「あなたはそれだけで捨ててはいけないと思ったわけ?」
「はい」
「ふつう、こんな何の変哲もない石を見たら、何でかなと思うわよね。あなたは思わなかったわけ?」
「はぁ・・・・・・」
「埃を払うだけでなく、品物のリストを作れと言われたそうだけど、リストを見ると、リストに石のこと、書いてないじゃない。 他のものは品物ひとつひとつに番号をふって、リストアップしてるのに。ところがこの石はリストアップせずにしまっただけ、ということは、この石の存在をママには知らせたくなかったんじゃない?なぜなら、捨てられてしまうから」
「ええ、まあ・・・」
「イシ、ステルナだけでそこまでするというのは、何かあなた知ってるでしょう?」
「いええ、知りませんですよぉ。ただ、あの方はショウイチ様ですから、あの方のおっしゃることなら従っていた方がいいと思いましたんですぅ」
「あ、ほら、やっぱりあなた、ショウちゃんとは知り合いなんじゃない」
「いえ、初対面ですよ」
「えー? だって今あなた言ったでしょう? あの方はショウイチ様ですからって」
「はあぃ。ショウイチ様だってことは一目でわかりますよ。お名前まではわかりませんけど」
「え? え? え? ショウイチって名前じゃないの?」
「いええ。位でございますです。正一位様です」
「その、正一位だってことが一目でわかるって、名札かなんかついているの?」
「名札はついていませんですよ」
「どこを見りゃわかるの?」
「はい。オーラですね」
「オーラ?」
「はい、御神体を包み込むような光ですね。」
「ご身体を包み込むような光?」
ぼくとおばさんは顔を見合わせた。
確かに暗闇の中でその者は光っていたので、部屋が明るくなっていたことはなっていた。
おばさんはおずおずと聞いた。
「その位って、正一位って、偉いの?」
「すごく偉いですよ」
(※注:正一位は宮中が人臣に与える官位の中での最高位。神様にも与えられ、その場合は神階といわれる。お稲荷さんの正一位がポピュラー)
「このお宅もすごいですね。あんな偉い方に守っていただいてるなんて、はい」
おばさんとぼくは再び顔を見合わせた。すごいといわれたって、「イシ、ステルナ」みたいなことしか言わないし、「ショウちゃん」とか呼ばれてタイやヒラメの舞い踊りをしていた幽霊がそんなに偉い幽霊だとはにわかに信じられなかった。
おばさんも半信半疑のようだったが、子供の時の思い出の品でもあるからなのだろう、押し頂いて言った。
「わかったわ。これ、捨てられないようにあたしが管理するわ。ヨシヒコもこの石のことは憶えておいてね。それからあたしやヨシヒコが死んでも子孫がちゃんとこの石を大切にするよう、説明書作ってこの中に入れておくわ・・・しかし・・・」
しんみりと言った後でおばさんの目が一転してキラリと光った。
「やっぱりあなた!」
再びお手伝いさんに矛先をむけた。
「あなたは何者? なんでそんないろんなこと知ってるの? それに守ってもらってるって? ショウちゃんが? うちを? どうしてイシ、ステルナだけでそんなことがわかるの? やっぱりあなたはだだものじゃない。いったいあなたは誰?」
お手伝いさんのキョトキョト度は激しくなった。脂汗までにじませている。
「・・・わたし・・・ただのお手伝いさん・・・」
「じゃあ、質問を変えよう。座敷オヤジは知ってるね?」
「・・・はあ・・・」
「やっぱり。じゃ、座敷オヤジとはどんな関係?」
お手伝いさんの動揺は頂点に達したようだった。姿かたちがゆらゆらとゆらいで、写りの悪いテレビの画面みたいになってきた。
が、そこでお手伝いさんは「ご、ごめんなさい!ちょっとトイレ!」と叫んで席をたち、階段をどたばたと駆け下りた。その後、ドタドタドタンとものすごい音がしたから、どうやら階段を2~3段は踏み外したようだ。そして、バタンバタンとドアを開け閉めする音がひびき、お手伝いさんはトイレに駆け込んだようだった。そしてその後、いくら待ってもお手伝いさんは戻ってこなかった。
おばさんは詰問するようにお手伝いさんの答えを促しているところだった。お手伝いさんはひどく動揺した様子できょときょとしている。
ぼくが覗き込むと、おばさんは例によって手招きをしてぼくを呼んだ。お手伝いさんはぼくを見ると首をすくめるようにして挨拶をした。
「あなたも私たちと同じように普通の人が見えないものが見える、ということはわかったわよ。で、ショウちゃんとはどんな関係なのよ」
「いえ、関係だなんて・・・ショウイチ様とは昨日こちらで初めてお目にかかったんでございますです。」
「それで、ショウちゃんはあなたにはなんて言ったの?」
「石を捨てるな、と」
「それだけ?」
「はい」
「あなたはそれだけで捨ててはいけないと思ったわけ?」
「はい」
「ふつう、こんな何の変哲もない石を見たら、何でかなと思うわよね。あなたは思わなかったわけ?」
「はぁ・・・・・・」
「埃を払うだけでなく、品物のリストを作れと言われたそうだけど、リストを見ると、リストに石のこと、書いてないじゃない。 他のものは品物ひとつひとつに番号をふって、リストアップしてるのに。ところがこの石はリストアップせずにしまっただけ、ということは、この石の存在をママには知らせたくなかったんじゃない?なぜなら、捨てられてしまうから」
「ええ、まあ・・・」
「イシ、ステルナだけでそこまでするというのは、何かあなた知ってるでしょう?」
「いええ、知りませんですよぉ。ただ、あの方はショウイチ様ですから、あの方のおっしゃることなら従っていた方がいいと思いましたんですぅ」
「あ、ほら、やっぱりあなた、ショウちゃんとは知り合いなんじゃない」
「いえ、初対面ですよ」
「えー? だって今あなた言ったでしょう? あの方はショウイチ様ですからって」
「はあぃ。ショウイチ様だってことは一目でわかりますよ。お名前まではわかりませんけど」
「え? え? え? ショウイチって名前じゃないの?」
「いええ。位でございますです。正一位様です」
「その、正一位だってことが一目でわかるって、名札かなんかついているの?」
「名札はついていませんですよ」
「どこを見りゃわかるの?」
「はい。オーラですね」
「オーラ?」
「はい、御神体を包み込むような光ですね。」
「ご身体を包み込むような光?」
ぼくとおばさんは顔を見合わせた。
確かに暗闇の中でその者は光っていたので、部屋が明るくなっていたことはなっていた。
おばさんはおずおずと聞いた。
「その位って、正一位って、偉いの?」
「すごく偉いですよ」
(※注:正一位は宮中が人臣に与える官位の中での最高位。神様にも与えられ、その場合は神階といわれる。お稲荷さんの正一位がポピュラー)
「このお宅もすごいですね。あんな偉い方に守っていただいてるなんて、はい」
おばさんとぼくは再び顔を見合わせた。すごいといわれたって、「イシ、ステルナ」みたいなことしか言わないし、「ショウちゃん」とか呼ばれてタイやヒラメの舞い踊りをしていた幽霊がそんなに偉い幽霊だとはにわかに信じられなかった。
おばさんも半信半疑のようだったが、子供の時の思い出の品でもあるからなのだろう、押し頂いて言った。
「わかったわ。これ、捨てられないようにあたしが管理するわ。ヨシヒコもこの石のことは憶えておいてね。それからあたしやヨシヒコが死んでも子孫がちゃんとこの石を大切にするよう、説明書作ってこの中に入れておくわ・・・しかし・・・」
しんみりと言った後でおばさんの目が一転してキラリと光った。
「やっぱりあなた!」
再びお手伝いさんに矛先をむけた。
「あなたは何者? なんでそんないろんなこと知ってるの? それに守ってもらってるって? ショウちゃんが? うちを? どうしてイシ、ステルナだけでそんなことがわかるの? やっぱりあなたはだだものじゃない。いったいあなたは誰?」
お手伝いさんのキョトキョト度は激しくなった。脂汗までにじませている。
「・・・わたし・・・ただのお手伝いさん・・・」
「じゃあ、質問を変えよう。座敷オヤジは知ってるね?」
「・・・はあ・・・」
「やっぱり。じゃ、座敷オヤジとはどんな関係?」
お手伝いさんの動揺は頂点に達したようだった。姿かたちがゆらゆらとゆらいで、写りの悪いテレビの画面みたいになってきた。
が、そこでお手伝いさんは「ご、ごめんなさい!ちょっとトイレ!」と叫んで席をたち、階段をどたばたと駆け下りた。その後、ドタドタドタンとものすごい音がしたから、どうやら階段を2~3段は踏み外したようだ。そして、バタンバタンとドアを開け閉めする音がひびき、お手伝いさんはトイレに駆け込んだようだった。そしてその後、いくら待ってもお手伝いさんは戻ってこなかった。
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