18 / 33
3章 逃げても勝てる
18話 欲情魔がここに!?
しおりを挟む
翌朝、俺は屋敷の前で筋トレに励んでいた。
腕立て百回、腹筋百回、背筋百回。
なんて意気込んでるができるわけもなく、まずは十回ずつ挑戦していた。
その十回でもかなりキツイ。
これが今まで身体を鍛えてこなかったツケというものだろう。
残り六日だというのに何を今さら悪足掻きを、と思うかもしれないが、俺は最後まで諦めない。まあ、特訓の成果が出せないのなら、全部姉ちゃんに丸投げして試合が終わるまで逃げ続ければいいだけのこと。
こうやって筋トレを始めたのも、体力をつけるための一環だ。しかし全然実感できないのは……すぐに結果が出るもんじゃないか……。
「俺は最強。姉ちゃんを守る」
一人でぶつぶつ呟き、俺はひたすら筋トレに励む。汗を流し、俺はビッグな男になるのだ。
「ネオ君、朝ご飯よ」
屋敷から姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「はーい! 今行くから!」
腹筋に痛みを感じ、服を上げるとここで嬉しい誤算が起きた。
「いやまさか……俺にシックスパック、だと?」
驚きを隠せなかった。
なぜなら今までガリガリだった身体に初めて立派な筋肉が付いたのだ。
野盗に襲われた時も傷が一晩すれば治っていた。ということから考えるに、俺の身体は他の人と少し違うのかもしれない。
どういう体質か、まではちょっとわからないが……。
姉ちゃんに報告しようと慌てて屋敷の中に入る。
玄関には誰もいない。
さっき朝ご飯って言ってたから、食堂にでもいるのか?
そう思って食堂に顔を出すが、またしても姿はなかった。
「姉ちゃんどこ行ったんだよ」
頭をかきながら屋敷中を隈なく探す。
外に出たのかと考えたが、もしそうだとしたら俺と鉢合わせになるはず。それに姉ちゃんは俺との食事を何よりも大切にしている。
理由は新婚さんみたいで楽しいからだそうだ。
食堂はもちろん、風呂や洗面所、書斎にはいなかった。残るは二階の姉ちゃんの部屋と俺の部屋、それと物置だけだ。
玄関の中央にある階段を登ると、かすかに女性の声が聞こえてきた。
その声は叫んでいるというより喘ぎ声。
いやいやいや、朝からそんなはしたないこと姉ちゃんがするはずない。
そう思っていた、いや望んでいたのかもしれない。あられもない姿を見たくないだけに。
姉ちゃんの部屋の前まできてしまった。
しかし声の出処はここではない。
だったらこの声はどこから?
聞こえてくるかすかな声に耳を傾け、俺はそっと自室の扉を開けた。そこにはベッドに横たわり、足をモゾモゾしている姉ちゃんの姿があったのだ。
「ネオ君、お姉ちゃんもう我慢できないかも」
「な、なな何をやらしいこと俺の部屋でしてんだ!」
「きゃあああ! 見られちゃったお姉ちゃん恥ずかしい~」
俺は部屋に入ってベッドのシーツを確認する。幸いなことに汗とか諸々で濡れてはいないみたいだ。
「お姉ちゃんお風呂入ってくるね。あとでスープ作るから食堂で待ってて」
「うん……」
姉ちゃんは何事もなかったかのように部屋を出て行った。朝風呂も確かに気持ちいけど、今日の姉ちゃんは色々と様子がおかしい。
今まで朝から風呂なんて入ったことがないからだ。まあ、はしたないことしてたら汗もかくよな……いや、そうじゃないだろ、俺。
でも今日に限って……やっぱ俺の部屋でやましいことしてたんじゃ?
単に自分の部屋と勘違いして寝てただけだとしたら?
誰があんな喘ぎ声出して寝るやつがいるんだよ!
念のためシーツを変えようと手に取ると、フワッと甘い匂いが部屋中に広がった。
「姉ちゃんの匂いか……」
この甘ったるい匂いを嗅ぐと頭がおかしくなりそうだ。姉ちゃんがいつも使ってるシャンプーの匂いに香水、それに体臭が混ざって何とも言えない女性特有の匂いだ。
この匂いをずっと嗅いでいたい。
そう思うのも当然。
たとえ誰にキモがられてもいい。
それが、それこそが男としての本能なのだ。
でも姉ちゃんに欲情するのは何か負けな気がする。
「今、お姉ちゃんの匂い嗅いでたでしょ」
なぜか風呂に行ったはずの姉ちゃんが戻ってきた。
見られた、見られてしまった。
姉ちゃんの匂いで心地よくなってるところを。
「ゲッ、姉ちゃん風呂に行ったはずじゃ」
「なわけないでしょ。でもまさかネオ君が匂いフェチだったとはね。攻め方を変えないと」
「何の話をしてるんだ! さっさと風呂行け!」
「はいはい、わかりましたよ。お風呂覗きに――」
「行かねぇよ! 覗かねぇよ! 見たくもねぇよ!」
「もう知らない、欲情魔のくせに強がっちゃって」
「な!? 誰が欲情魔だ!!」
今度こそ姉ちゃんはいなくなったはず。
聞き耳を立てると何となくわかる。階段を降りる音、それに鼻歌も聞こえてくる。
偉くご機嫌のようで、俺は恥をかいたってのに。
よくよく考えたらほんと姉ちゃんって自由人だ。自分の好きなことは一生懸命やるのに、嫌いなことは怒って手をつけようともしない。
本当なら俺の部屋でこそこそとしていた姉ちゃんが責められる立場のはずなのに、なぜか俺が責められる立場に。っていうか、状況掌握能力が凄すぎだろ姉ちゃん。
さすがは悪魔だ。伊達じゃない。
結局シーツは変えず俺は食堂に向かう。
先に言って置くが、決して姉ちゃんの匂いに包まれて寝たいとか、夜のオカズにしようとかそんなんじゃない。
シーツは汚れていなかった。
ただそれだけが理由なのだ。
腕立て百回、腹筋百回、背筋百回。
なんて意気込んでるができるわけもなく、まずは十回ずつ挑戦していた。
その十回でもかなりキツイ。
これが今まで身体を鍛えてこなかったツケというものだろう。
残り六日だというのに何を今さら悪足掻きを、と思うかもしれないが、俺は最後まで諦めない。まあ、特訓の成果が出せないのなら、全部姉ちゃんに丸投げして試合が終わるまで逃げ続ければいいだけのこと。
こうやって筋トレを始めたのも、体力をつけるための一環だ。しかし全然実感できないのは……すぐに結果が出るもんじゃないか……。
「俺は最強。姉ちゃんを守る」
一人でぶつぶつ呟き、俺はひたすら筋トレに励む。汗を流し、俺はビッグな男になるのだ。
「ネオ君、朝ご飯よ」
屋敷から姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「はーい! 今行くから!」
腹筋に痛みを感じ、服を上げるとここで嬉しい誤算が起きた。
「いやまさか……俺にシックスパック、だと?」
驚きを隠せなかった。
なぜなら今までガリガリだった身体に初めて立派な筋肉が付いたのだ。
野盗に襲われた時も傷が一晩すれば治っていた。ということから考えるに、俺の身体は他の人と少し違うのかもしれない。
どういう体質か、まではちょっとわからないが……。
姉ちゃんに報告しようと慌てて屋敷の中に入る。
玄関には誰もいない。
さっき朝ご飯って言ってたから、食堂にでもいるのか?
そう思って食堂に顔を出すが、またしても姿はなかった。
「姉ちゃんどこ行ったんだよ」
頭をかきながら屋敷中を隈なく探す。
外に出たのかと考えたが、もしそうだとしたら俺と鉢合わせになるはず。それに姉ちゃんは俺との食事を何よりも大切にしている。
理由は新婚さんみたいで楽しいからだそうだ。
食堂はもちろん、風呂や洗面所、書斎にはいなかった。残るは二階の姉ちゃんの部屋と俺の部屋、それと物置だけだ。
玄関の中央にある階段を登ると、かすかに女性の声が聞こえてきた。
その声は叫んでいるというより喘ぎ声。
いやいやいや、朝からそんなはしたないこと姉ちゃんがするはずない。
そう思っていた、いや望んでいたのかもしれない。あられもない姿を見たくないだけに。
姉ちゃんの部屋の前まできてしまった。
しかし声の出処はここではない。
だったらこの声はどこから?
聞こえてくるかすかな声に耳を傾け、俺はそっと自室の扉を開けた。そこにはベッドに横たわり、足をモゾモゾしている姉ちゃんの姿があったのだ。
「ネオ君、お姉ちゃんもう我慢できないかも」
「な、なな何をやらしいこと俺の部屋でしてんだ!」
「きゃあああ! 見られちゃったお姉ちゃん恥ずかしい~」
俺は部屋に入ってベッドのシーツを確認する。幸いなことに汗とか諸々で濡れてはいないみたいだ。
「お姉ちゃんお風呂入ってくるね。あとでスープ作るから食堂で待ってて」
「うん……」
姉ちゃんは何事もなかったかのように部屋を出て行った。朝風呂も確かに気持ちいけど、今日の姉ちゃんは色々と様子がおかしい。
今まで朝から風呂なんて入ったことがないからだ。まあ、はしたないことしてたら汗もかくよな……いや、そうじゃないだろ、俺。
でも今日に限って……やっぱ俺の部屋でやましいことしてたんじゃ?
単に自分の部屋と勘違いして寝てただけだとしたら?
誰があんな喘ぎ声出して寝るやつがいるんだよ!
念のためシーツを変えようと手に取ると、フワッと甘い匂いが部屋中に広がった。
「姉ちゃんの匂いか……」
この甘ったるい匂いを嗅ぐと頭がおかしくなりそうだ。姉ちゃんがいつも使ってるシャンプーの匂いに香水、それに体臭が混ざって何とも言えない女性特有の匂いだ。
この匂いをずっと嗅いでいたい。
そう思うのも当然。
たとえ誰にキモがられてもいい。
それが、それこそが男としての本能なのだ。
でも姉ちゃんに欲情するのは何か負けな気がする。
「今、お姉ちゃんの匂い嗅いでたでしょ」
なぜか風呂に行ったはずの姉ちゃんが戻ってきた。
見られた、見られてしまった。
姉ちゃんの匂いで心地よくなってるところを。
「ゲッ、姉ちゃん風呂に行ったはずじゃ」
「なわけないでしょ。でもまさかネオ君が匂いフェチだったとはね。攻め方を変えないと」
「何の話をしてるんだ! さっさと風呂行け!」
「はいはい、わかりましたよ。お風呂覗きに――」
「行かねぇよ! 覗かねぇよ! 見たくもねぇよ!」
「もう知らない、欲情魔のくせに強がっちゃって」
「な!? 誰が欲情魔だ!!」
今度こそ姉ちゃんはいなくなったはず。
聞き耳を立てると何となくわかる。階段を降りる音、それに鼻歌も聞こえてくる。
偉くご機嫌のようで、俺は恥をかいたってのに。
よくよく考えたらほんと姉ちゃんって自由人だ。自分の好きなことは一生懸命やるのに、嫌いなことは怒って手をつけようともしない。
本当なら俺の部屋でこそこそとしていた姉ちゃんが責められる立場のはずなのに、なぜか俺が責められる立場に。っていうか、状況掌握能力が凄すぎだろ姉ちゃん。
さすがは悪魔だ。伊達じゃない。
結局シーツは変えず俺は食堂に向かう。
先に言って置くが、決して姉ちゃんの匂いに包まれて寝たいとか、夜のオカズにしようとかそんなんじゃない。
シーツは汚れていなかった。
ただそれだけが理由なのだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
転生したらついてましたァァァァァ!!!
夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」
あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。
だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉
消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。
イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。
そんな中、訪れる運命の出会い。
あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!?
予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。
「とりあえずがんばってはみます」
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる