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1章 無能は期待する

8話 寂しい、だと!?

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 どうやら俺は眠っていたらしい。
 太陽がは昇っていないのもあり、周りは真っ暗で焚き火の灯りと暖かさだけが、今の寂しさを紛らわしてくれる。

 まだ姉ちゃんが帰ってきた痕跡はない。
 こんな時間になっても帰って来ないのは少し心配にもなる。

「姉ちゃんまだかな……」

 いつから俺はこんなにも一人でいることに不安を感じるようになったのだろう。
 ずっと独り、そんな生活に慣れていたはずだった。やっぱり誰かと一緒に暮らす楽しさ、明るさを知ってしまったからか?

「お待たせ! 帰ったよネオ君!」
「お、おかえり」
「どうしたの? 何で泣いてるの?」
「え? 俺が泣いてる?」

 確かに目からは涙が溢れていた。
 無意識なのか、全然自覚がなかった。

「何で涙なんか……」

 そう言って袖で強く拭う。だけど涙はどんどん溢れてきて止まらない。涙を流している理由、わからないフリをしているだけで、俺自身が一番理解していた。
 姉ちゃんが帰ってきてくれて安心した、そんな涙だということに。

「大丈夫よ、怖い夢でも見たの?」

 姉ちゃんはそっと俺を抱き寄せる。
 この温もり、匂いに安心する。
 ほんと恥ずかしい話だ。精神年齢はとっくに二十になった大人だというのに今だ親離れ、姉ちゃん離れができていないんだからな。

「姉ちゃんもう大丈夫」
「そ、そう? まだ日が昇るまで時間もあるし一緒に寝てあげようか?」

 心配して気を遣ってくれている。

 今日だけは、甘えてもいいのかな?

 学園に行ったら離ればなれになってしまう。だから今だけ、この瞬間を大切にしたい。
 俺は姉ちゃんに抱き締めてもらいながら寝ることにした。

***

「いやん! ネオ君のエッチ」

 俺は色っぽい姉ちゃんの声で目を覚ました。
 手を動かすと柔らかくてふわふわした物が手の感触から伝わってくる。これは間違いない。この柔らかさ、吸い付いてくる感じ、強く握った時の弾力、手のひらに収まりきらないほどのたわわに実った果実。

「こ、これはお、おぱい?」
「もうネオ君ったら動揺しすぎだよ。それは魔物のスライム。何を想像してたの? もしかしてお姉ちゃんのお――」
「って、なんでここに魔物が!?」
「その子、悪さしないから安心して。枕になると思ってネオ君の頭の下に置いたんだけど……」
「置いたんだけど、なに?」
「お姉ちゃんも最初は勘違いじゃないかって驚いたのよ。だって『姉ちゃん姉ちゃん』って言ってその子を抱き締めるんだもの」

 身体をモジモジさせながら言う話ですかね?
 ああ、だんだんと姉ちゃんのヤバさを自覚してきた。それに俺が寝言で「姉ちゃん」なんて言うわけないのに、そんな嘘まで言うとか。
 どれだけ大好きって認識させたいんだよ。

「絶対嘘だ! ほら話だ! 俺がそんなこと言うはず……」
「まあ、ネオ君はお姉ちゃんのこと大好きだもんね。もっと大きくなったらお姉ちゃん結婚してあげてもいいよ」
「ち、痴女だ……いや、悪魔だから普通か」
「誰が痴女って? お姉ちゃんは純潔よ、処女よ。確かめてみる?」
「はい、結構です」

 長話していた気もするが、ようやく空に日が昇り始めた。明るくなってきたところでとうとう別れの時がきた。
 この十年ちょっと色んなことがあったけど、とても楽しかった。さよなら姉ちゃん。

 よく考えれば、俺どこに向かえばいいんだ?

「姉ちゃん俺……?」

 と投げ掛けた時、姉ちゃんは真剣な眼差しで地面に何かを描いている。
 全然読めない、そもそも日本語とはまた違う。複雑な記号みたいなものだ。

「これはね魔術って言うのよ。今描いてるのは転移魔術。ネオ君がこれから通う学園――王立ブロッサム学園の学園長のお部屋に繋がるのよ」
「でも急に行ったら」
「それは心配ないから安心して。お姉ちゃん昨夜、手土産を持って挨拶を済ませて置いたから」

 どうやら術式が完成したようだ。
 辺り一帯が白い光に包まれた。その先には次元が裂けたかのような異様な隙間が現れた。

「さあネオ君。ここに入って」
「姉ちゃんは?」
「仕方ないわね。だったらお姉ちゃんと手を繋いで行きましょ」

 俺と姉ちゃんはお互いの手を強く握った。

 絶対に何があっても放さないように。

 というより、こんな狭間の中で放されたら間違いなく俺の第二の人生終了だ。気づけばふわふわよくわからない場所を漂い、結局餓死して死ぬはめになるのだ。
 て、また餓死で死にそうになんのかよ。

 一人でノリツッコミする俺である。
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