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第2章

105.いざ食堂へ。

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暫くして、軽いパニック状態だった俺は落ち着きを取り戻していた。
ただそれは、パニック状態ではなくなっただけで、そんな状態を引き起こした原因である不安と恐れは消えていない。今も尚俺の心の中にモヤモヤとした物として残り続けている。
でももうこれは仕方がなくて、いつか過去と決別できる日が来ることを願うしか今のところ方法は思いつかない。だから、仕方、ないのだ。

そして、落ち着いた俺に何故かノアさん達は謝ってきたが、何について謝られているのかさっぱり分からず俺の頭の上には大量の疑問符が浮かんでしまった。

訳が分からずキョトン顔に図らずもなってしまい、そしてそれを見た3人は悲痛な表情をしていた。しかしそれもまた訳が分からなかった。
謝られた理由もわからなければ、3人が悲痛な表情なった理由も皆目見当がつかずモヤモヤしてしまう。

捻り出した結論は、謝った理由も理解できないようなおバカだと認識されたが故のあの表情なのでは?というものだった。しかし、俺は子供でわからなくても何らおかしくないはずだ。だから、呆れ顔はされどあんな顔はされないはず…だ。
大丈夫。呆れられた時の顔は散々前世で見てきたから分かる。大丈夫。まだ、まだ大丈夫。



そんな、モヤモヤとしたものを心の内に残し、とりあえずなんだかんだと9時前になっていたので遅めの朝食を摂ることになった。

そして朝食は昨日とは違いみんなで食堂で食べるそうだ。
部屋も充分広く驚いていたが、部屋を出て食堂へ向かう廊下も長くなかなかたどり着かないことからこの屋敷はとてつもなく大きいんだろうなと想像する。

そこで俺は少し後悔した。
だってなんだかんだともうこの屋敷に来てから3日目だ。
初日は夜に着いたそうだから仕方がないとしても、昨日寝込んでしまったのは悔やまれる。
これほど大きければきっと探検するにしても一日じゃ到底無理だと思う。
しかし過ぎてしまったことは仕方ないので、今日は頑張って色んなところを探検することにしよう。

「ユキ、ここだよ」

どうやらようやく食堂へ着いたようで、ノアさんの腕の中から俺は前を向く。
ガイさんが扉を開けてくれ、中へはいると、あのよく貴族の家やお金持ちの家に置かれているような横に長いテーブルが置かれていた。
やっぱり2人だと端と端に座ってとてもお話できないような位置で食べるのだろうか?

少しワクワクしてしまうが、良く考えれば前世の幼少期にすごした家にもここにあるものより少し小さいがあったなと思い至って後悔した。
何故、これからご飯を食べようって時に気分の悪くなるようなものを思い出すのだと、自分の思考回路を責める。


俺が自分を責めている間に3人は、誰が俺の隣の席に座るかでまた揉めていた。その変わらない光景にふっと笑ってしまった。

「「「ユキ?」」」
「んーん、にゃんれもにゃいよ!」

3人は俺の方を見て、不思議そうにするが誤魔化す。
だって別に3人の喧嘩している姿がおかしくて笑ったわけじゃないから。笑ったのはほっとしたというか、なんだろう…今までこぢんまりとした宿の一室で過ごしていたのがこんな大きなお屋敷にかわり、普通の緩い服ばかりを見ていたのに、急にしっかりとした服装に変わったりと、急な変化にやっぱりどこか落ち着いていなかったのかもしれない。

別人になったわけじゃないのは知っているけど、ここに来ればそれぞれに立場というものがあって、冒険者をしていた時とはどうしたって態度が変わってしまうのも理解している。

だからこそ、大きな声では喧嘩しないものの今までと変わらずな内容で喧嘩しているのが、どこかほっとして嬉しかったのかもしれない。
自分でもよくわかっていないが、無意識に笑みがこぼれてしまったのだ。

そして3人はついに結論が出たらしく、両サイドを男性陣2人と向かい側にライさんが座ることにじゃんけんの結果決まったようだった。

そして今度は密かに膝の上に乗せて座ろうとしていた2人が、また喧嘩をしている。

「お前も向かいに座れよ」
「はぁ?俺はジャンケンに勝って隣になったんだが?譲る訳ねぇだろうが」
「先に買ったのは俺だ!先に隣の席を選んだのは俺だ。お前は俺に負けてたんだから向かいに行け!そもそもなんで負けたくせに隣に来てんだよ。普通に考えても隣は最初にジャンケンに勝った1人だろうが!」
「はぁ?もう1席余ってんだから隣に座るのは2人だろうが!お前はバカか?」
「っ!馬鹿なのはお前だろ!4人なんだから2,2で座るのが普通だろうが!お前までこっちに来たらライが1人だろうが!」
「っ!」
「そもそもなんのためのジャンケンだよ!お前も隣取ったらじゃんけんの意味が無いだろうが!」

と、こんな風に喧嘩しているのだ。只今ガイさんが押され気味だが、簡単に言い返して止められるまでいつまでも続くだろう。ほんとにおバカだど思う。
だって言い争いなんかせず直ぐにジャンケンで決めればいいだけじゃん。それにそもそも喧嘩になるなら俺を膝の上に乗せて食べさせるのではなく、普通に椅子に座らせて食べさせればいいのだ。
仕方ない。お腹も空いたし止めるか。

「ぁいしゃん!にょあしゃん!」
「「ん?」」

あんなに喧嘩していたのに俺が呼べばピタッと止まってしまうのが少し面白い。

「あにょ、おにゃか、しゅいちゃ…はやく、たえよ?」
「「……」」
「…りゃめ、にゃにょ?たえにゃい?」
「よ、よし食べよう!ユキは俺の膝な!」
「おまっ!!」

はぁ…なぜそこにこだわる!

「んーん!おしゅわりしちぇ、ちうんれ、たえりゅ!」
「「…そうか?」」
「うん!」
「「……そうか。」」

座って食べるといえばしゅんとした2人。仕方がないんだよ。これ以上喧嘩されるとお腹なりそうだから…!

「くぅぅ~~~~~……」
「「「………」」」
「………」

なっちゃった……。恥ずかし!






𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒
遅くなっちゃって申し訳ありません。




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感想 13

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