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第七十九話 義父の独り言、義母の独り言

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◇◆

 突然、娘が帰ってきた。パンが食べれる生活に憧れて家を出た娘が約一年ぶりに帰ってきたのだ。しかも男を連れて……
 ん? お前は誰だって?
 あぁ、すまない。俺の名はヤンガル。この開拓村一の美人を嫁に貰った男さ!
 おかげで五人も子供が出来ちまったよ。貧乏村なのによ……
 話が逸れたな。
 家を出た娘が男を連れて里帰りとなりゃぁ、話の筋は凡そ読めるってもんで、俺はわざとムス、としてたんだ。
 何だかんだと言ったって家出娘でも可愛い娘だし、いきなり知らない男を連れてこられりゃぁ、こっちも面白くねぇ。
 だがよぉ、娘はそんな俺を無視して男を家に連れ込みやがる。あの時は流石に演技ではなく本当にムカムカしてきたよ。アイーダの奴がニコニコしながら迎えるから尚更だ。
 ん? アイーダが誰だって? さっき話した美人の嫁だよ。見た目こそ若々しいが、あいつも良い年なんだぜ?
 ま、年のこと言うと怒るけどよ……
 だからよ、俺はドカ、と座ってやったんだ。明らかに不機嫌です! って感じでな。
 ところが、ところがだよ、その連れてきた男は何処からも無く大量の箱を出すじゃねぇか。しかも綺麗な包みまでしている箱をよ……
 あんぐりとしちまったことはしょうがねぇ。あんな場面に遭遇すりゃぁ、誰だってああなるだろ。

「初めまして雨宮晴成です。此度ルナと結婚することになりました。ご挨拶が遅れたこと申し訳ありません。こちらは遅ればせながら、結納の品になります。どうぞお納めください」

 俺が呆けていると、連れの男はそんな言葉を吐きやがる。“結婚させてください”ではなく、“結婚しました”だとよ。ヒョロっちいガキのくせによ。
 そんなナヨナヨしてたのかって?
 違ぇよ、見た目が十歳くらいのガキなんだよ!
 お前の話はところどころ要点が抜けてるから分かり辛いだと? 話すのが下手で悪かったな! それでよ、まだ続きが有るんだ、聞けよ。
 でな、娘が連れてきたもう一人が女のガキなんだが、連れの男の正妻だと言いやがるし、娘は娘で男の四番目の妻だと言いやがる。正直、訳が分かんねぇ。それでもまぁ、俺も大人だからな一応は返事を返したんだ。が、何が気に入らなかったのか、アイーダの奴、いきなり俺の足を踏みやがったんだ。それも思いっきり……
 分かったことと言えば、娘がどえらい玉の輿に乗ったというのだけ。
 正直、でかした! と思ったよ。これで貧乏とはお去らばだとな。
 しかも、娘は領都に構える商会でダンジョンから出てくる食材を使った料理を出しているって言うじゃねぇか。こりゃ、幸運が舞い降りったってレベルじゃねぇだろ! これは正に女神さまの祝福ってやつだ!
 おまけに、男は気前よく領都までの旅費とそこでの料理を振舞ってくれるという。中々の男前だなこいつ、と思ったわけだ。まぁ、料理の方は一足早く娘が出してくれたけどよ、それはそれだ。
 まぁ、ってなわけだからよ、俺は相手の与太話も気前よく聞いてやったわけよ。だってよ? ワイルドビックボアが楽勝です、って言うんだぜ? グレートビックボアならいざ知らずよ。ワイルドビックボアなんて騎士団が隊列を組んで対処するもんだぜ? それをガキが倒せるわけねぇ、って思う訳よ。だけど、俺も大人だ。ガキの絵空事に付き合って、将来はSランクですね、って返しておいたさ。それ位の度量は俺にだって有らぁよ。
 でも、その男の話は本当かもしれない。だってよ、寝る所が無いからって、俺の家の傍に一瞬で家を建てちまったんだからよ。
 だから俺は思ったね。
 こんなヤベェ奴に俺はなんて態度をとってたんだと、今の俺は過去を消し去りたい気持ちでいっぱいなんだよ、酒でも飲んでなきゃやってられねぇと……

◆◇

◇◆

 うふふ、そこの人、聞いてくれる? 末っ子の娘がね、一年ぶりに帰ってきたと思ったら、男を連れてきたのよ。
 え? あ、私? 私はアイーダよ。
 とても子持ちには見えない? ウフフ、ありがと。これでも五人の成人した子供が居るのよ。それに、孫もいるわ。
 でね、領都に行った娘が連れてきた男というのが利発そうな男の子でね、最初はお飯事かなぁ、なんて思ったわけ。
 だってぇ、見た目は十歳くらいの子供だったし、同じくらいの女の子も連れてきてたし……
 酔っているのかって? いいじゃない、多少のお酒が入ってたって。女の話は聞くものよ? 美人の話なら尚役得でしょ?
 でも、ヤンガルときたら不機嫌な顔をするわ、態度は荒々しいわ、挙句、結納品に目が行って真面な態度はとれてないわで、恥ずかしいやら、情けないやら……
 ヤンガル? あぁ、夫よ、夫。まぁ、あれでも良い所あるし、ハッスルし過ぎて五人も子供産ませるくらいには私にメロメロなのよ。最近はとんとご無沙汰だけど……
 でね、義理の息子への態度があまりにも情けないから、足を思いっきり踏んでやったのよ。何しやがる、なんて顔してたけど、知ったことではないわ。あんな態度をとるあなたが悪いのよ!
 でも、実を言うと私もちょっと現実が受け入れがたかったわ。山のような結納品に、娘が四番目の妻で、大人になれる義息子むすこ……
 化かされてる? と思ったわ。
 それから娘とダンジョンで採れた“調味料”と食材を使ってお昼を用意したの。娘に料理を教わる日が来るとは思わなかったわ。それにあんなに美味しい料理も初めてね。
 こんな料理を毎日お腹いっぱい食べてる娘はズルい、と思ったのは内緒よ、ナ・イ・ショ!
 今度、こんな美味しいものが食べれるのは領都に行ったときかしらね。
 ん? そうそう。娘が働く商会を見に行くのよ。大商会らしいの。おまけに旅費は義息子持ち。なんて親孝行な義息子なのかしら。
 あと五年もしたら、もっといい男になってるわ。きっと……いえ、絶対に!
 いえ、ね。ヤンガルも悪くはないんだけど……
 そうね。彼と比べるのは可哀想よね……はぁ、娘が羨ましい!
 だって、寝る場所がないって言うだけで、家の傍に大きな家を建てちゃうんだもの……
 信じれる? 嘘だと思うならウチに来てみなさいよ。キレイで大きい家が有るんだから!
 しかも、ふかふかのベッドにキレイなトイレ。おまけに、お風呂付よ?
 はぁ、私もこっちに住みたいわ。娘が帰っても残ってるかしら? そもそも、使っても良いものかも確認しないと、よね。一応、娘たちの家だし……
 でも、テント感覚で建てた家だもの。相談したらワンチャン有るかも……
 毎日お風呂に入る生活、憧れるわぁ……こっちは精々、夏は行水、冬は清拭が関の山だしね。
 え? お風呂なら村の広場に出来たって? そんなの有るわけ無いじゃない。あなた、揶揄うの上手いのね。
 それはそうと、キレイになった身体とお貴族様が使うようなベッドが有ったら夜はハッスルしちゃうわよねぇ。義息子は大人にもなれる大魔法使いだっていうし……ちょっぴり聞いてみようかしら、彼の感想。
 魔法使いだって言うからヤンガルほど体力はないとは思うけど、知識だけは豊富だと思うの。
 ヤダわ、想像してたら身体が熱くなってきちゃった。今日も一人で慰めるのね……最近、一人寝が寂しいわ。
 え? 浮気はいけませんって? 分かってるわよ、それくらい。だから一人で我慢してるじゃない!
 はぁ、逞しかった昔のヤンガルは何処に行ったのかしら……
 まぁ、娘が幸せならそれでいいんだけどね。それ以上は高望みってものでしょ。

◆◇
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