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第六十八話 先行調査

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 門を出て西の森へと走ること三つ鐘分。途中、休憩を挟んだが馬の“駈け足”並みに走れば流石に息も絶え絶えと言うもの。
 と言うか、新米諸君は兵士も冒険者も脱落した。で、どうしたかというと、兵士は装備を先輩たちに持ってもらい、地獄のランニングを再開。冒険者は担がれたり、引きずられたりと、日頃の差が出た気がする。
 まぁでも、感心したのは兵士の体力。装備が無いとはいえ、新米兵士と雖も約六十キロ余りを走りぬいたわけで、異世界人の健脚さを見せつけられた気がした。
 逆に思わず笑ったのは最初に脱落した12、3歳だろう女の子の冒険者。早々に脱落した彼女は、ギルマスに“おコメ様抱っこ”されながら、いいトレーニングになるぜ、なんて言われて困り顔。思わず、コントかよ、ってツッコミそうになったのは内緒の話。
 聞けばFランク冒険者で治癒師だそうだ。それなら早々に脱落するのも当然か、と腑に落ちた一幕だった。
 それで現在は時間的には少し早いがキリが良いので、森の手前で昼食中だ。

「……フムフム。そうすると中央の道は警備の兵たちが優先で使えるわけですな」

「そう、緊急時以外はね。通常は道中のトラブルに迅速に対応してもらうために警備の者や連絡役が優先される道で……」

 俺は昼食の時間を使って、ギルマス、グラル、とその補佐、バーズの代わりにマダルに道の説明をしている。駆け抜けてきたとはいえ、先ほど通った道。距離感などはばっちしだろう。
 プランとしては“中央分離帯”である道は基本的には“連絡線”。伝令や増援の駆けつけ用として利用する。
 次いで、日本に習って左側走行にして、馬車用道路にする。中央寄りが“定期馬車便専用”レーン。真ん中の赤銅色ラインが“追い越し専用”レーン。制限速度は“駈け足”まで。外側が“並足走行の馬車”レーン。
 最後に、縁石代わりの低木を挟んで大外が“歩行者専用”レーンとなる。

「……で、今いる場所と休憩した場所に宿泊施設をつくって、簡単な街にする。そうすることでダンジョンまでの道のりを簡易化出来、又、流通量を増やせる」

「成程、途中に宿泊施設が有るのは助かるね。百寿草を取りに来た時は日帰り予定だったから、今日みたいな強行軍でさぁ……」

 マダルがあの時は~ と愚痴を吐く。

「しかし、低ランクの冒険者だと宿に泊まれないやつとか、辿り着けないやつとかいそうだな」

 中間の町を遅い時間に出れば有り得る話か。
 ギルマスの視点はよく低ランクの者の安全を見ている。やはり“長”なのだろう、改めて感心する。

「まぁ、その点については大丈夫だと思う。一応、道の端から十メートルほどは安全地帯だ。モンスターが入り込むことは無いよ」

「「「はぁぁ?」」」

 皆の声が重なり、固まった。

「……道の端に魔物避けでもしているのかい?」

 一番最初に再起動したマダルが質問する。

「正確には結界かな? あ、従魔などには影響ないから安心して」

「そ、そう。それは良かった……」

 ハハ、と乾いた笑いを漏らすマダル。隣で、儂、侯爵様に上手く説明出来るじゃろうか、とグラルが呟いていた。

◇◆◇◆


「なぁ、晴成、あのダンジョンのドロップ品にお前さんが食べていた上手そうな飯が有るんだな?」

「調理されたものも有れば、調味料もあるよ」

 そうか、と一言。ギルマスはダンジョンの入り口の前に立つと声を張り上げる。

「いいか、お前ら! このダンジョンには旨い飯をドロップする奴がいる。旨い飯を食いたければしっかり働け! 行くぞぉ!」

 ギルマスが剣を高々と掲げると、おぉ! と拳を次々とあげ、皆が応える。冒険者たちだけではなく、兵士たちもだ。流石に立場上グラルはしてないけど、鼻息は荒い。先程、旨い酒の肴もあるよ、と言ったら、目を輝かせて、気合を入れて臨まねば、と燃えていたから……
 しかし、なんて掛け声だよ。さっきの俺の感動返せよ、ギルマス!
 ったく、食い意地が張っているというか、食に対する執念が凄まじいというか。以前、弁当を断られたのがそんなにショックだったか? 

「さて、俺は何をするかな?」

 はぁ、と溜め息をつき、燃えに燃え盛る探索チームを尻目に俺は近くの手ごろな石に腰を下ろす。

「一度、家に戻るのは如何でしょう。顔を見せるだけでも皆喜びます」

 ラフィアが優しく微笑む。
 そうだな、これからの事もあるし一度戻るか。
 俺はラフィアと連れ立ってその場を後にした。

◇◆◇◆


 三つ鐘分ほどして皆がダンジョンから帰還し始める。誰も彼もがホクホク顔だ。

「取り敢えず手当たり次第採取してきたが、手に持っていても信じられねぇ。俺、未だ夢見てるんじゃねぇか?」

「分かるぜ。ドロップの頻度といい、ドロップ品といい、このダンジョンは当たりも当たり、大当たりだ!」

「ここなら毎日来たいよね。朝走って来た道、安全なんでしょ?」

 兵士も冒険者も背負い袋から採取の品やドロップ品がはみ出していた。中には抱えれるだけ抱えている者もいる。皆、嬉々として荷馬車に積み込んでいく。
 流石に帰りの馬車は手配したよ? 荷物あるし、歩いて帰ったら野営しないといけないし。まぁ、行きは道を知ってもらう為にわざと走らせたけどね。

「お疲れ様、まずまずの収穫だったんじゃない?」

 ギルマスたちが指示を出し、ある程度手すきになったところを見計らって声をかけた。

「おう、晴成か。いやぁ、これのダンジョンは規格外だな。低ランクの魔物ですら食ったことのねぇ品を落としていきやがる。少し食べてみたんだが、甘くてうめぇ菓子から腹を満たす食いもんまで種類が数が多い。世界が変わるぜ!」

 どうやらギルマスは既に何種類かの料理や菓子を食べたようで、酒も無いのに上機嫌だ。体験談として言わせてもらえば、こっちの料理に比べれば、地球の料理はなんだって美味しいと思うよ。地球人は食欲魔人だし……
 因みに料理などは透明なプラケースもどきに梱包されており、蓋を開けない限り時間停止がされている。尤も、ケース保持が約2年という時間設定が有るのだが、公表はしていない。鑑定、或いは体験的に知るときが有るだろう。

「しかし、あの透明な箱といい、料理を盛った器といい、消えちまうなんて勿体ねぇなぁ。あれも良い品だと思ったんだが……」

「何と、アントン殿の方もあの透明な箱は消えたか。確かに惜しいと言えば惜しいが、開ければなくなるという事はそのような品なのじゃろう」

 先ほどまで上機嫌だったギルマスが、逃がした魚を惜しむような口ぶりをする。するとグラルが少し驚いた後に何やら得心して、一人頷いていた。
 ギルマスたちが残念がっていた“透明プラケース”も“料理の器”も、使用後は魔力還元することにした。これは熟考した結果だ。“料理の器”は陶磁器なので新産業になるし、“プラスチック“などの石油製品はこの世界にはそぐわない。

「まぁ、良いじゃないそれくらい。それよりも、戻ったら急ぎ各ランクごとに潜れる階層決めないとだし、ドロップ品などの値段も決めないとだよ」

「うわ、また書類かぁ……」

「うむむ……これだけの品、シグルドやセバン殿たちでも値付けしきれんじゃろうな。商人たちに助言を乞うべきか?」

 先ほどまでの上機嫌とは打って変わって、思案に暮れる二人。溜め息だったり、唸ったりの彼らに若い兵士が駆け寄る。

「大団長、領軍、冒険者共々荷物の積み込みが終了いたしました。いつでも出立できます」

「ん? 相分かった。皆の者、此れより帰還する」

「よし、お前ら、とにかく帰るぞ」

 二人の号令をうけ、皆が馬車に乗り込んでいく。因みに、俺とラフィアは乗り込まない。乗り心地が悪いから飛んで帰ることにした。行きも実力を見せるために飛んでたし、今更だね。
 さて、今から出れば日暮れ前にギルドまで戻れるだろう……
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