69 / 83
第六十八話 先行調査
しおりを挟む門を出て西の森へと走ること三つ鐘分。途中、休憩を挟んだが馬の“駈け足”並みに走れば流石に息も絶え絶えと言うもの。
と言うか、新米諸君は兵士も冒険者も脱落した。で、どうしたかというと、兵士は装備を先輩たちに持ってもらい、地獄のランニングを再開。冒険者は担がれたり、引きずられたりと、日頃の差が出た気がする。
まぁでも、感心したのは兵士の体力。装備が無いとはいえ、新米兵士と雖も約六十キロ余りを走りぬいたわけで、異世界人の健脚さを見せつけられた気がした。
逆に思わず笑ったのは最初に脱落した12、3歳だろう女の子の冒険者。早々に脱落した彼女は、ギルマスに“おコメ様抱っこ”されながら、いいトレーニングになるぜ、なんて言われて困り顔。思わず、コントかよ、ってツッコミそうになったのは内緒の話。
聞けばFランク冒険者で治癒師だそうだ。それなら早々に脱落するのも当然か、と腑に落ちた一幕だった。
それで現在は時間的には少し早いがキリが良いので、森の手前で昼食中だ。
「……フムフム。そうすると中央の道は警備の兵たちが優先で使えるわけですな」
「そう、緊急時以外はね。通常は道中のトラブルに迅速に対応してもらうために警備の者や連絡役が優先される道で……」
俺は昼食の時間を使って、ギルマス、グラル、とその補佐、バーズの代わりにマダルに道の説明をしている。駆け抜けてきたとはいえ、先ほど通った道。距離感などはばっちしだろう。
プランとしては“中央分離帯”である道は基本的には“連絡線”。伝令や増援の駆けつけ用として利用する。
次いで、日本に習って左側走行にして、馬車用道路にする。中央寄りが“定期馬車便専用”レーン。真ん中の赤銅色ラインが“追い越し専用”レーン。制限速度は“駈け足”まで。外側が“並足走行の馬車”レーン。
最後に、縁石代わりの低木を挟んで大外が“歩行者専用”レーンとなる。
「……で、今いる場所と休憩した場所に宿泊施設をつくって、簡単な街にする。そうすることでダンジョンまでの道のりを簡易化出来、又、流通量を増やせる」
「成程、途中に宿泊施設が有るのは助かるね。百寿草を取りに来た時は日帰り予定だったから、今日みたいな強行軍でさぁ……」
マダルがあの時は~ と愚痴を吐く。
「しかし、低ランクの冒険者だと宿に泊まれないやつとか、辿り着けないやつとかいそうだな」
中間の町を遅い時間に出れば有り得る話か。
ギルマスの視点はよく低ランクの者の安全を見ている。やはり“長”なのだろう、改めて感心する。
「まぁ、その点については大丈夫だと思う。一応、道の端から十メートルほどは安全地帯だ。モンスターが入り込むことは無いよ」
「「「はぁぁ?」」」
皆の声が重なり、固まった。
「……道の端に魔物避けでもしているのかい?」
一番最初に再起動したマダルが質問する。
「正確には結界かな? あ、従魔などには影響ないから安心して」
「そ、そう。それは良かった……」
ハハ、と乾いた笑いを漏らすマダル。隣で、儂、侯爵様に上手く説明出来るじゃろうか、とグラルが呟いていた。
◇◆◇◆
「なぁ、晴成、あのダンジョンのドロップ品にお前さんが食べていた上手そうな飯が有るんだな?」
「調理されたものも有れば、調味料もあるよ」
そうか、と一言。ギルマスはダンジョンの入り口の前に立つと声を張り上げる。
「いいか、お前ら! このダンジョンには旨い飯をドロップする奴がいる。旨い飯を食いたければしっかり働け! 行くぞぉ!」
ギルマスが剣を高々と掲げると、おぉ! と拳を次々とあげ、皆が応える。冒険者たちだけではなく、兵士たちもだ。流石に立場上グラルはしてないけど、鼻息は荒い。先程、旨い酒の肴もあるよ、と言ったら、目を輝かせて、気合を入れて臨まねば、と燃えていたから……
しかし、なんて掛け声だよ。さっきの俺の感動返せよ、ギルマス!
ったく、食い意地が張っているというか、食に対する執念が凄まじいというか。以前、弁当を断られたのがそんなにショックだったか?
「さて、俺は何をするかな?」
はぁ、と溜め息をつき、燃えに燃え盛る探索チームを尻目に俺は近くの手ごろな石に腰を下ろす。
「一度、家に戻るのは如何でしょう。顔を見せるだけでも皆喜びます」
ラフィアが優しく微笑む。
そうだな、これからの事もあるし一度戻るか。
俺はラフィアと連れ立ってその場を後にした。
◇◆◇◆
三つ鐘分ほどして皆がダンジョンから帰還し始める。誰も彼もがホクホク顔だ。
「取り敢えず手当たり次第採取してきたが、手に持っていても信じられねぇ。俺、未だ夢見てるんじゃねぇか?」
「分かるぜ。ドロップの頻度といい、ドロップ品といい、このダンジョンは当たりも当たり、大当たりだ!」
「ここなら毎日来たいよね。朝走って来た道、安全なんでしょ?」
兵士も冒険者も背負い袋から採取の品やドロップ品がはみ出していた。中には抱えれるだけ抱えている者もいる。皆、嬉々として荷馬車に積み込んでいく。
流石に帰りの馬車は手配したよ? 荷物あるし、歩いて帰ったら野営しないといけないし。まぁ、行きは道を知ってもらう為にわざと走らせたけどね。
「お疲れ様、まずまずの収穫だったんじゃない?」
ギルマスたちが指示を出し、ある程度手すきになったところを見計らって声をかけた。
「おう、晴成か。いやぁ、これのダンジョンは規格外だな。低ランクの魔物ですら食ったことのねぇ品を落としていきやがる。少し食べてみたんだが、甘くてうめぇ菓子から腹を満たす食いもんまで種類が数が多い。世界が変わるぜ!」
どうやらギルマスは既に何種類かの料理や菓子を食べたようで、酒も無いのに上機嫌だ。体験談として言わせてもらえば、こっちの料理に比べれば、地球の料理はなんだって美味しいと思うよ。地球人は食欲魔人だし……
因みに料理などは透明なプラケースもどきに梱包されており、蓋を開けない限り時間停止がされている。尤も、ケース保持が約2年という時間設定が有るのだが、公表はしていない。鑑定、或いは体験的に知るときが有るだろう。
「しかし、あの透明な箱といい、料理を盛った器といい、消えちまうなんて勿体ねぇなぁ。あれも良い品だと思ったんだが……」
「何と、アントン殿の方もあの透明な箱は消えたか。確かに惜しいと言えば惜しいが、開ければなくなるという事はそのような品なのじゃろう」
先ほどまで上機嫌だったギルマスが、逃がした魚を惜しむような口ぶりをする。するとグラルが少し驚いた後に何やら得心して、一人頷いていた。
ギルマスたちが残念がっていた“透明プラケース”も“料理の器”も、使用後は魔力還元することにした。これは熟考した結果だ。“料理の器”は陶磁器なので新産業になるし、“プラスチック“などの石油製品はこの世界にはそぐわない。
「まぁ、良いじゃないそれくらい。それよりも、戻ったら急ぎ各ランクごとに潜れる階層決めないとだし、ドロップ品などの値段も決めないとだよ」
「うわ、また書類かぁ……」
「うむむ……これだけの品、シグルドやセバン殿たちでも値付けしきれんじゃろうな。商人たちに助言を乞うべきか?」
先ほどまでの上機嫌とは打って変わって、思案に暮れる二人。溜め息だったり、唸ったりの彼らに若い兵士が駆け寄る。
「大団長、領軍、冒険者共々荷物の積み込みが終了いたしました。いつでも出立できます」
「ん? 相分かった。皆の者、此れより帰還する」
「よし、お前ら、とにかく帰るぞ」
二人の号令をうけ、皆が馬車に乗り込んでいく。因みに、俺とラフィアは乗り込まない。乗り心地が悪いから飛んで帰ることにした。行きも実力を見せるために飛んでたし、今更だね。
さて、今から出れば日暮れ前にギルドまで戻れるだろう……
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
異世界坊主の無双でハーレム生活 R18シーン
峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
似非坊主「異世界坊主の無双でハーレム生活」のR18シーンです。
自分がエロをかけるのかという実験ですので、ちゃんと読めたらいいんですけど。
と言うか、書いてて気が付きました、あのシーン加筆修正すればR18にしなくても十分書けたんだなと。
一種の気の迷いに近い没シーンですが、供養です。
全年齢対象の本編はこっちです
https://www.alphapolis.co.jp/novel/979548274/893260108
窓際のおっさんが実は封印された勇者で、美女とともに魔王を倒しに行く話
カメムシ帝国
ファンタジー
会社では窓際。家では冷遇。そして、娘は実の子ではなかった。
もはや救いのない四八歳、仙崎幸弘。
しかし彼は、山での遭難をきっかけに、自分が異世界での勇者であったことを知る。
かつて相打ちになった魔王に、この世界に封印されたのだった。
封印された自らのかけらを取り戻しつつ、女神を復活させよ!!
ちょっとサディスティックな巫女さんたちとともに、魔王を倒すためのむふふな冒険が始まる!!
全てを無くした転生者は、スキルの力で成り上がる
蒼田 遼
ファンタジー
公爵家の長男として、期待を一心に背負い産まれてきたロディ・アレクシスは、神の手によって導かれた転生者だった--
しかし、優秀な弟の誕生がきっかけとなり、公爵家には存在意義のなくなったロディは、継目争いの邪魔となり抹殺計画の対象になってしまう。
神の助言を受け、なんとか抹殺の手から逃れたロディであったが、神から授かった力以外は全てを無くしてしまった--
そんなロディが、チートスキルと仲間を増やしながら世界を巻き込んでいく。
そんな物語。
【R-18】男の生きられない世界で~逆転世界で僕に出来る事~
素朴なお菓子屋さん
ファンタジー
ヒョンな事から異世界へ転生する主人公。
その世界は、古の魔女の呪いで男性が生きる事が出来ない毒素に満ち溢れている。
男がシェルターの中で大切に隔離され、管理される逆転世界。
そんな世界を生き抜く力を手に入れた主人公は・・・魔女の呪いを無くす為、旅に出る事に。
色んな国の色んな美女に種付けの旅。果たして魔女の呪いを消す事は出来るのだろうか。
R18シーンのタイトルには♡入れます。R17.5くらいの作者主観の微妙なスケベ話は△入れておきます。
まだ見ぬ世界に彩りを~今度こそ君を守れるように~(改変版)
FuMIZucAt
ファンタジー
その少女は人々の期待の上に産まれた。
父は侯爵家の主人であり、元SSランク冒険者として名を馳せた人物でもある。しかし、親バカだ。
母はそんな夫を支える立場であり、侯爵家の夫人となる前は後に夫となる父と共にSSランク冒険者をしていた時期もある綺麗でお淑やかな女性。しかし、親バカだ。
そして、そんな両親の間柄に産まれた少女は、後に最強の一角となる。
仲間の信頼も厚く、従者から絶大な信頼を得る彼女は……、美女が大好きで仲間思いでありながら、着せ替え人形にされるのを怖がり、逃げ出す事が日常茶飯事であり、自分の身長とその他諸々が全然成長しないと嘆く。
……所謂、普通の少女である。
*
主にカクヨムにて、続きを連載しています!
よろしければ、其方もどうぞ!
エロゲー世界のただのモブに転生した俺に、ヒロインたちが押し寄せてきます
木嶋隆太
ファンタジー
主人公の滝川は気付けば、エロゲーの世界に転生していた。好きだった物語、好きだったキャラクターを間近で見るため、ゲームの舞台に転校した滝川はモブだというのに事件に巻き込まれ、メインヒロインたちにもなぜか気に入られまくってしまう。それから、ゲーム知識を活用して賢く立ち回っていた彼は――大量のヒロインたちの心を救い、信者のように慕われるようになっていく。
Sランクギルドから追放されたEXランク陰陽師は新人達を凄腕に育てる〜え?戻ってこい?だから俺がいなくなったら困るのお前らだって言ったじゃん〜
御用改
ファンタジー
sランクギルドから追放された凄腕陰陽師のエクティス・ウォーカー、彼は強すぎるあまり魔物退治やダンジョン探索が退屈だったので基本的に味方にバフをかけたり、新人育成に力を入れてると、組織が成長しきった現状、お前は無用の長物、さらに戦闘中は何もしてないと的外れなことを言われる、しかし彼はそんなこと眼中になかった、適度に魔物を倒してストレス解消しつつ、据え膳はきっちり食い、新人育成さえできれば彼は何でも良かったのだ、次々に新人をsランク冒険者以上へと育て上げていくエクティス、さらに彼自身が反則級の強さを持っている、後からそのことに気づいたアーロンは戻ってこいというが時すでに遅い、戻ることは永遠にありえない…………最強主人公のサクサク新人育成ハーレ無双ここに開幕
旧英雄学院の設定を少し変えた作品です、カクヨム、ノクターンノベルズにも投稿しています
ハイスペ少年の満喫記(R18)
佐原
ファンタジー
前世では勉強を始めとするたくさんのものに追われていた者が、異世界では性にはっちゃけます!!
男のシンボルは強くなる過程で大きくなり、性技も身についたけど、今となっては良かったと思ってる。この世界の最大サイズが一寸なのでデカイものを手に入れてしまった。
異世界では勉強?部活?そんなもんはここでしないよ、夫人に少女、お姉さん達に求められてヤリまくります!!自慢のモノで蹂躙と思っていたけど、肉食過ぎるよお姉さん達!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる