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第六十五話 異世界算数は難しい!

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「晴成さん、お風呂ご一緒してもよろしいですか?」

 夕食の片付けも終わり、まったり風呂に浸かっているとエリーが顔を出した。
 片腕でたわわな胸を隠し、もう片方で恥部を隠す。タオルが無いせいで際どいラインが見え隠れしていた。

「うん。一緒に入ろうか」

 彼女は、はい、と返事をすると花が咲き誇った。

「久しぶりに体を洗ってもらおうかな、二人の時の洗い方で」

 俺は彼女の耳元で囁くと、エリーは頬を真っ赤に染める。

「……いっぱい、ご奉仕いたしますね」

 今度は彼女が俺の耳元で囁く。とびっきりの妖艶な声で……

「じゃぁ、折角だから少し大人になろう」

 俺は【次元収納】から青いキャンディーを取り出し、“2粒”食べる。体はみるみる大人になり、エリーの目の前に“二十代前半”の俺が居た。
 大人になった俺は同じく【次元収納】から取り出したエアーマットの上で仰向けとなる。

「うふふ、あどけなさのこる晴成さんも素敵だけど凛々しい晴成さんも素敵ですね」

 紅潮し、口元が緩むエリー。彼女の言葉に照れくささを覚えつつ、礼を返す。
 エリーは胸にソープを垂らし、泡立てる。すっかり泡まみれになった彼女の半身。しかし、お互いの胸と胸が合った瞬間、泡に隠れていた双乳の突起が固くなっていたことを知覚する。

「はぁあ。素敵な胸板……」

 甘いため息と共に胸と下腹を行き来する二つの膨らみ。それに合わせて上下する彼女の双臀が実にエロい。
 視覚と触覚が脳の芯を痺れさせながら、俺は彼女の奉仕に身を委ねていく。
 この後、たっぷりとエリーの泡姫を堪能しました。まる。

◇◆◇◆


 ホクホクして風呂から出ると、リビングではまだミーナたちが起きていた。

「あれ、何してるの?」

 テーブルに肘をついて見上げている彼女たちに問いかける。

「別段、何もしておりません。ただ……夕食の幸せを、寝て忘れてしまうのがもったいなく、つい起きてしまっているのです」

「チーフの言う通りだよ。この明るい夜の生活には少し慣れたけど、あんな豪華な夕食の幸せを寝て忘れるのはもったいないよね」

 そうなの? とは思うものの、俺は体裁よく、なるほど、と返す。

「ところで、ミーナはギルマスから“クビ寸前”と紹介されたんだけど、仕事の何が苦手なの?」

「ちょ、ちょっとぉ~ 晴成君、人がせっかく歓迎会の余韻に浸っていたのに、仕事の話をするなんてひどいよぉ」

 べそをかくミーナ。すると、シンシアが引き継いだ。

「ミーナは行動力と応対はまずまずなのですが、暗記と計算が苦手なのです。特に計算はひどいもので……」

 聞くと、二桁以上の複数式、つまり“〇△□+■▲-◆〇”といった計算になるとミスの頻度が高くなるそうだ。

「でも、聞いて。ギルドの支払方法ってば、依頼達成状態ごとに違うんだよ? 通常の依頼よりもいい出来なら、報酬の割り増し後にギルドの取り分を計算して差し引く。通常の依頼より悪い出来なら、先にギルドの取り分を差し引いてから減額分をさらに差し引くの。計算方法が細かすぎるんだよぉ!」

 ミーナが捲し立てる。思わず後退りをした。
 しかし、これってギルドの秘密事項なのでは? と疑問がよぎると、シンシアが頭を抱えている様子が目に入った。
 ……やっぱりそうだったみたい。報酬の支払い計算が歪だもの。
 頭を抱えていたところを見るとシンシアとしてもその“歪さ”は認識していたのだと思う。ミーナがそれに気付いているかは少し疑問だが……

「……う~ん、俺、計算得意だったから良かったら教えようか?」

「晴成君、計算得意なの? というか、“だった”って変な言い方だね」

「宜しいのでしょうか、晴成様」

 ミーナは首を傾げる。シンシアは頭を下げ、俺との距離が近くなったところで囁いた。支払いの算出の仕方は御内密に、と。俺も、分かっているよ。なので、ミーナへの仕置きは程々に、と小声で返した。
 俺は【次元収納】から“紙と鉛筆”を取り出し、シンシアに例題を複数出してもらう。彼女は一瞬、驚いた表情を見せるがそれを問い詰めることはしない。俺が自分との常識と違う事をすることにどこか当たり前になってしまっているかも……

△▼▲▽

例題
 護衛報酬・銀貨357枚+追加報酬・銀貨22枚-ギルド手数料・銀貨38枚の冒険者への報酬額

▲▽△▼


 これを【異世界言語翻訳〈詳細〉】→【異世界言語翻訳〈異世界数字・変換オフ〉】にして、と……

△▼▲▽

例題
 護衛報酬・銀貨CCCLⅦ枚 加算 追加報酬・銀貨XXⅡ枚 減算 ギルド手数料・報酬額の十分の一の冒険者への報酬額

▲▽△▼


 ……
 …………
 ………………う~ん
 この数式での計算は無理です。正直、異世界計算方法ナメてました……
 この国の数字はローマ数字によく似ているから、それは解読できるんだけど、インド-アラビア数字に慣れた身としては、ローマ数字での計算は困難を極める。元日本人としてはまだ漢数字での計算の方が良い。

「シンシア、みんなはこの普段、この数字を使って計算しているんだよね?」

「そうですが……」

 何か変だっただろうか、と不安げに聞き返す彼女。俺は、ふぅ、と溜め息を一つ吐いた。

「えっとね、もう少し簡単な計算の仕方が有るんだけど、試してみる?」

 マスターパネルを開いてDPで“おはじき”と交換。【次元収納】経由でおはじきを取り出す。一方で、先ほどの紙にこの国の数字とインド-アラビア数字の相対表を書き出した。

「えっと、これがこの国で使われている数字ね。で、その下が俺のところで使われていた数字。それから”なし”に相当するのが“0”という数字になるんだ」

 俺はまず二人に表の見方を教え、おはじきを使って“ゼロ”の概念を教える。ミーナはまた新しいこと覚える~ と少し嘆いていたが、シンシアは実に興味深そうにしていた。

「……で、だから“Ⅹ”は“10”と書いて、“C”は“100”と書くわけ。足すときは“+”を、引くときは“-”を使う。計算式の終わりに“=”を使い、その右に答えを書く。つまり、先ほどの例題を書き直すとこの様になるわけだ」

 つらつらと説明をしながら計算式を書き出す。数式を書き出したところで、余白に方眼紙の様なマスを書き出して、“筆算”を説明した。

「……なるほど、確かに感覚的で分かりやすいですね」

 知的好奇心を刺激された顔をしているシンシア。
 受付嬢はその仕事柄、依頼報酬の受け渡しをする。依頼者、冒険者双方にだ。彼女のその上役だけあって飲み込みが早かった。ミーナは一度で、というわけにはいかなかったが、二度三度と教えると数字の使い方を理解した様で、教えた数式を面白がってた。

「晴成様、この計算の仕方は特許を取りますか?」

 シンシアが突然、真剣な口調で切り出した。
 どういうこと? と思い、シンシアに聞いてみた。すると、ラノベでよくある“商業ギルドでの特許”なのだが、新しい事をするにあたってもこの“特許”という制度が利用できるそうだ。
 “特許”という概念があること自体はすごいのだが、何でもかんでも“特許”体質なのはなぁ……
 俺は少し辟易しながら、しない、とシンシアに強く言う。

「そうですか」

 彼女は少しうれしそうだった。
 それから彼女たちにこの国の“数学”の事を聞いた。四則演算は“加減”だけで、“乗除”の概念が無い。当然ながら“九九”も無い。というか、“数学記号”も無く、文字による“足す”“差し引く”だった。
 確かに、先ほどの例題を現地語で見た時にそうだった。と思い、少し溜め息が出た。

「ミーナ、この“算数ドリル”を使って、計算に慣れてみる?」

 俺はおはじきと同じ方法で、小学生一、二年生向けの算数ドリルを渡す。無論、これは“掛け算”あるので、“足し算、引き算”までの範囲しか答えられないが。

「この方法だと分かりやすいから出来そうかな?」

 ミーナがやる気を見せる。シンシアもどこか誇らしげだ。

「じゃぁ、これも渡しておくね」

 彼女に渡したのは鉛筆などの文房具一式と五ミリ方眼ノート。これでやる気になってくれるのなら安いものだろう。尤も、元々素地は有るから数字の使い方と筆算を使いこなせれば、すぐにでも次のステップに行かせるつもりだ。将来的には、代数学の三次方程式で体積を求めれるまでさせたい。
 まぁ、受付嬢の仕事柄、体積を求められることが有るのか、と聞かれると、無いと思う、と答えそうだけど……

「シンシアにも同じもの渡しておくから、シンシアもこれに慣れてくれる? まだ続きがあるしね」

「宜しいのですか?」

 と、恐縮しながらもシンシアが受け取るのを見て、俺は、宜しく、とお願いした。
 ミーナは続きがあると聞いて、少し顔色を悪くしていたが、貰った文房具が嬉しかったのか、しっかりと抱きしめていた。

「ミーナ、晴成様にここまでしてもらったのです。気合入れて習得しますよ」

「……は、はい、チーフ」

 ミーナは明日からのスパルタを想像してか、少し泣きそうに返事を返していた。
 しかし、何でも“特許”になるこの世界は少し厄介かも。しかも商業ギルド管轄となると尚更だな。そうなると侯爵にも一枚噛んでもらうか。こいつらを“侯爵家秘伝の計算式”として。明日にでもユーエン経由で侯爵に手紙を出しておくか。
 寝る前に仕事が一つ出来たが、嬉しそうな二人の顔見て余り億劫には感じなかった。寧ろ、気合を入れて俺は寝室へと戻った。
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