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おまけ03*呪術と九つ神と憑きっ娘たち

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「ごきげんよう、あたしはカメリア=ウィザヴォードですわ」
「ご、ご機嫌よう、椿です。――これって必ず名乗らないとだめ?」
「貴族のあんもくのマナーよ。デビューしたての子息子女や、とおえんのしんせき全員まで名前を覚えておくなんてむりだもの。名のるのがしん切でしょ」
「えっ、挨拶にいらした方の名前とその家の立ち位置とか最近の情勢とか、もしかして、その場で言えなくてもいいの? 後でぶたれたりしない?」
「……つばき、あなたねえ……今ばん、ベッドにだきまくらをいっぱいおいてねるわよ。ぎょうぎわるいけどたのしいの」
「ありがとう?」
「ねえ、そんなことよりあたし、[呪術]について知りたいと思ってたの。だいぶ占術とちがうのね!」
「あー、そうだね。私も[占術]にはびっくりしたよ! 特に、カメリアのお祖母さまの事とか」
「おちついて。一からかくにんしましょ」



*占術*

「占術って、見えないものを見えるようにする力だって言ってたよね」
「かんたんに言うとそうだけど、ほんとうは、見えないものから力を借りる術なの」
「見えないものって?」
「ジュナイン神様とか、天使さま、精霊さまだって言われてるわ。しょうじきなところ、どの力がだれからお借りした力なのか、あやふやなことも多いの」
「そうなんだ! でもそういう存在のお力をお借りできるなら、あんな事ができるのも納得だね」
「……そうね」



*呪術*

「[呪術]……お祖父さまは、魔力を人の外にうつしたり[小神おさながみ]様のお力をかりる術だって言ってらしたわ」
「うーん。私は、呪術って[分霊]する力だと思うんだよね」
「ぶんれい?」
「複製、じゃないけど似たような――」
「コピーするということ?」
「うーんと、少しだけ違うかな」



*分霊 / 小神*

「まず、私がカメリアの中に入っちゃったのは、すごく簡単に言うと、カメリアの中に魔力でできた私の欠片が入ったから。でも今の私は複製でも欠片でもなくて、精神としては完全な本物なの」
「そうしたら、つばきが二つにふえてしまうんじゃないの?」
「そんな感じ! [八百万やおよろずの小神]様のお力を借りるときもそうなの」
「そんなかんじって、……まって、『はっぴゃくまん』と読むのではないの?」
「やおよろず。数えきれないほど沢山ってこと。お一柱(神様のことは「柱」って単位で数えてるよ)で何でもなさるわけじゃなくて、お柱ごとに、自然や物や現象に根付いた様々なお力があるの。私が呪術を使うときは、神様の一部を私の中に[分霊]して、もうお一柱の神様として降ろすの。元の神様は欠けたり減ったりなさらないんだけど、私の中にも神様がいらっしゃる状態。それが[分霊]」
「コピーして本物をふやすなんて、むちゃくちゃだわ……」
「それができるのが小神様の凄いところなのかも。それで、体に神様をお降ろしすると、そのお力を少しだけ私が使えるようになるの」
「力をお借りする占術とは違って、その力を使うのね」
「うん。例えば、カメリアのお部屋で私、一度、箒の神様のお力を使ったよ」
「ホウキ?」
「――やのははき――ってやつ。体の中に入った悪いものや家に来た嫌なお客さんを外へ掃き出すの。――カメリアのこと悪いものって思ってごめんね」
「いいのよ。……そう、だからあのとき、しんにゅうしてこようとしたクリスをはじいておい出したのね……まきこまれ事故だったのだわ……」
「?」
「何でもないわ」
「あ、でも私、神様は女の神様しか降ろせないの」
「そうなの?」
「カメリアはすごいよ。虎頭陀とらすた様っておきな男神様でしょ」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい。今なんて言ったの」



*大神 / 九つ神*

「[虎頭陀とらすた]様」
「……第三の顔トラスタ様のことなのよね」
「うん。八百万神様のことは小神って言ったでしょ? ここのつ神、つまり寿名院じゅないん神様は[大神おきながみ]様。別格だよ」
「……さんこうまでに、ほかの神様のよび名もおしえてちょうだい」


第一の顔 泥茶瞳でいさどう
第二の顔 奇魂くしみたま 熨守帝のすてい
第三の顔 虎頭陀とらすた
第四の顔 豆射芭ずいるは
第五の顔 幸魂さきみたま 雷燈火らとうか
第六の顔 芙駱塔ふらくとう
第七の顔 和魂にぎみたま 神甘籠かんなみる
第八の顔 荒魂あらみたま 主竜鷭あるばん
第九の顔 覇刀子はどうす


「響玉国は普段から九つ神様がおいでになる国じゃないから、お四顔様くらいしか詳しくないんだよね。そのお四顔様をそれぞれ、
 恵みと赦しの神様[和魂にぎみたま(親)]、
 災いと怒りの神様[荒神あらみたま(勇)]、
 幸運と収穫の神様[幸魂さきみたま(愛)]、
 奇跡や智才の神様[奇魂くしみたま(知)]
とお呼びしてるよ」
「国のちがいっておもしろいわね……」




*男八百万神*

「ところで男のひとは男の八百万神をおろせるってことであっている?」
「うん、例外を除いて自分と同じ性別――と、両性の神様しか降ろせないの。響玉国にはほとんど両性の人がいないから、そういう人が全ての神様をお降ろしできるかどうかは分かんないや」
「あれ、でもつばき、『ヤトノカミ』は男の神さまだって言わなかった? つかえるの?」
「うーんとね、私はちょっとだけ呪術が得意だったから、裏技? が使えたの。男の呪術師さんに専用の呪術を込めた札を作っていただいて、それを媒介に頑張ると、私でも男の神様がお降ろしできるの」
「たいへんだった?」
「大変だったよ。男神様だとうまく体が動かせないし、その後一日動けなくなるし。でも、できることだったから」
「そう……」



「……今日は、ここまでにしておきましょ」
「そうだね。少し疲れちゃった」
「ところでつばき、あなたのニックネームをずっとかんがえていたの」
「に、にっくねーむ?」
「あなたもあたしをカメリアじゃなくて、べつのよびかたをするの。せっかくだからとくべつなよびかたをするのよ」
「え、えーっと――少し考えさせて?」
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