暖をとる。

山の端さっど

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-84℃ 円く燿る峰

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(運が良かった)

 いきなり警察官と出くわすという不運イベントをやり過ごした青年クライは向かいのドアを開けて崩れ落ちそうになった。毛布や缶詰、怪しいポリタンクなどが積み上げられた部屋の奥のソファーに、少女が寝かされている。

(生きてる)

 好青年ぶるのに慣れているこの青年が唯一女性の胸をガン見するのは呼吸を確認するときだ。もっとも分厚い上着では分からず口元に耳を当てることになった。

「起きれる?」

 小声で呼びかけるが返事はない。上着の下で縛られたり怪我をしているかもしれないが外からでは分からない。

(背負……えるのか、俺?)

 クライがためらっていると、背後のドアが勝手に大きな音を立てて開いた。

「え……」
「違法改造されてなければなぁ、スタンガンっつうのは」

 そこにはついさっき気絶させたはずの中年刑事が鉄パイプを持って立っていた。

「一時的に動きを止めることしかできないんだよ、クソガキ」
「マジかよ……」
「ありゃ逃げる時間を稼ぐためだけの護身具だ。持ち歩いてりゃ軽犯罪になりうるけどな」
「……勉強になりますね……」

 一応ロープで縛っておいたのだが素人仕事では時間稼ぎにもならなかったらしい。仕方なくクライはダウンジャケットのポケットに手を入れる。

「やめておけ」
「そう言ったら犯人って止めてくれるんすか?」

 先ほど刑事から奪った銃を取り出して見様見真似で構える。

「銃の使い方も知らないだろう」
「雰囲気で分かりますよ」

 刑事ドラマで見た程度の知識しか無い。しかしクライは、意外と重い鉄の塊を両手で抱えるように突き出しながら笑顔を作ってみせた。

(まずいな)

 ポーカーフェイスのつもりだろうが、刑事の感情がはっきりとクライには読み取れる。
 刑事ドラマの知識に倣えば、こういうことだ。
 この銃の安全装置は外れている。刑事ドラマの知識でも撃てる。

(指でここを引いて、撃つだけだ)

 クライは外さないよう胸のあたりに照準を合わせようとした。
 ……妙な事に、せいぜいが5メートル先の的を狙えない。

「今やめれば見逃してやる。お前さんの事情もまだ聞いてないしな」
「聞いたって……」

 ふいに刑事が動いた。一瞬で、クライの腕に向かって突っ込んでくる。

「!」



 銃声が一つ。塊が一つ。
 聞き手の方の肩を撃たれながら、刑事はクライを押さえ込んで銃を取り上げた。

「ぐっ……ったく」
「はは……俺って肉弾戦最弱じゃねーか……」

 青年は全身の力を抜いた。
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