暖をとる。

山の端さっど

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-76℃ とある1秒間の抜粋

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 情報屋などという職業を続けていけるくらいにはワタクシ幸運であると自負してます。
 ええ、運が良いのでなくて幸運。ほどほどに依頼達成できる情報を安全圏から毎回まあまあ入手できる幸運。自分で敵地に行って情報もぎ取れるほどの悪運は無く、ただなんとなく危機を避けてしまう幸運。今年1年で鍵開けは5回しかやってませんし、そのうち2回は鍵を落っことしたうっかり屋の坊主の友達の為です。友もワタクシがいて幸運ですね。

 ですからワタクシ、「安楽椅子探偵」の手先指先にされた時はかなり心配だったのですよ。それと同時に心躍ったのも確かですが。安穏の枠を飛び出せるのではないかと、まあ浅はかにも思ったんですよ、過去のワタクシ。覚えてますか? 未来のワタクシ。

 ところがいざ、この先は引き返せないだろうというギリギリの所に至って、プレコシティより緊急連絡です。

『っ、すぐ止まれ!』
「どうしたんです?」
『その先に……』

 そこで言葉は切れました。これはまずいかもしれないとスリップしそうな勢いで止まったワタクシ、脇目もふらず呼びかけましたよ。

「プレコシティ? この先に何があるんです?」
「……『プレコシティ』って言ったな?」
「っ!」
「とりあえず交通違反だ。話聞かせてくれ」

 もちろん情報屋の名折れですよ、こんな事で情報を漏らすなんて。でも言いたくもなりました。





 どうして「死神」さんがここに来るんですか?!





 とりあえず今までの情報を総合するに、死神さんの方向音痴と、死神さんを拾ってくれた通りすがりの車の運転手のうっかりな方向音痴が重なった結果、たまたま近づけたくなかった方向へ彼らが向かっていたらしいですよ。
 そういう事にしたいんですよね、運転手。それともホラースポットと目されるこの山にどうしても今晩行きたくて死神さんの希望と逆に進路を変えていたワタクシの友人、とお呼びすべきですか?

 どちらにしてもかなりの運が絡まなければこうならない以上、結局ワタクシはそういう運の流れなのでしょう、プレコシティ。
 この先、死神さんを引き止められても情報を吐いてしまってもワタクシ、ここで戦線離脱です。死神さんはともかく、あの友人を撒いて現地に辿り着くのはワタクシには無理ですから。
 せめて貴方とはこれ以降連絡がつかないようにしておきますね。前金で費用は回収できているからって、ここで仕事終了だなんて酷い幸運です。

 以上、今の1秒間のワタクシの思考の流れでした。
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