暖をとる。

山の端さっど

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-62℃ 黒翼の呼び出し

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 刑事は拘束する気のない緩すぎるロープのぐるぐる巻きの中で目覚めた。

「ってて……」

 殴られた箇所に軽い痛みを覚える程度で済んだのは、襲撃者が上手かったのか、運が良かったのか。

「どっちにしろ素人じゃねえな」

 刑事は周囲を警戒しつつ縄を捌いて立ち上がる。幸い、荷物は何も無くなっていなかった。

「ひい、ふう、みい……金もそのまんまか」

 気味が悪いが、この刑事、だてに死神などと呼ばれてはいない。妙な事件に巻き込まれるのには多少慣れていた。

「んで、ここは何処だ?」

 刑事が転がされていたのは悪質業者の不法投棄場と化した廃工場の駐車場だった。気絶した厄介者を投棄するのに丁度良い場所だったのだろう。
 バイクの男たちが襲ってきた時、周囲に人はいなかった。とはいえいつ誰かが通りがかってもおかしくない場所だ。気絶した人間をバイクで運べるとは思えないし、他の移動手段があったのだろう。刑事はそこまで考えて、はたと気がつく。

「あの嬢ちゃんは無事か?!」

 警察に連れて行かれそうになって腕利きの仲間が助けに入った、とは中年刑事には見えなかった。何か別の事件が起きたと判断して、刑事は連絡を入れる。ついでに、慣れない手つきで携帯の小さな地図とにらめっこして現在地を調べる。
 タクシーを呼べば襲撃に遭った場所まで意外と近かった。が、この立地の良さは、どうも刑事には引っ掛かる。

(嫌な場所だ)



 不意に、かすれたようなホイッスルの音がした。空耳かと思うような小さな音だ。

「……誰か居るのか?」

 音を追って刑事はゆっくりと廃工場内に入りこむ。
 いつからメンテナンスされていないのか、今にも折れそうな錆びた鉄骨ばかりが目に入る。刑事は少し、なるほど、と思った。工場内ではなく駐車場に刑事を置いたのは、襲撃者たちが事故にしろ何にしろ、とことん刑事を死なせる気はないという事らしい。

(って事は、狙いは嬢ちゃんだったのか……?)

 迷走する刑事の思考を突っ切って、強い笛の音が響く。

「そこか!」

 刑事は確信を持って音のした部屋へと踏み込んだ。

「あ……?!」



 部屋の中に音を鳴らした人間は居なかった。あったのは床に転がるホイッスルと、足の骨がむき出しになった死後数日の悲惨な死体。



「じゃあ、あの音は……?」

 少しばかり前に担当した事件で聞いた、呼子笛の怪談が刑事の頭をよぎる。

「……寿命を引き換えにしたつもりも無きゃ、こんなモン探した覚えも無えよ……」
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