60 / 105
-60℃ 冬の第六話「密室」
しおりを挟む
「さて、この土地では『雪の谷』を作るほどの豪雪が降るそうですね。幸い、今回の自分は見る事ができなさそうです。ああいえ、他意などありませんよ。ただ、昔の体験を思い出しまして。幽霊から聞いた話ではないのですが、よろしいでしょうか?
あれはまだ修行中だった自分が、剃髪を後悔するような夏でした。帽子を忘れて頭の皮を陽に焼いてしまい、しばらく炎症に悩まされていたのです。
やっと熱気の引いた夜、自分はなんとなく散歩に出掛けました。今にして思えば導かれていたのでしょうか。がたん、と音がしたかと思えば、自分は公衆電話ボックスの中に居ました。
入った記憶もなければ出ようにも扉が開きません。近くには人も居ません。そして当の電話も、しいんと静まり返って小銭を入れても何を押しても応答しないのです。
自分の年代の子らの間では、干からびるまで電話ボックスに閉じ込められるという怪談が流行っておりました。自分はさっそく不気味になって叫んだり叩いたり、色々としてみたのですが何も反応がありません。いつでも持ち歩いていた数珠が懐にない事に気がついて自分はぞおっとしました。当時は物に頼らなければ霊力を使えないと思っておりましたから。
泣き疲れて座り込むと、夜とはいえ夏と思えない寒気が地面からは襲ってきます。
ああ、先ほどまでここを歩いていたのに、と土を握りしめて、ふと気がつきました。電話ボックスの床はなく、下はただの地面なのです。おまけによく見れば、電話ボックスがあるのは先ほどまで自分が散歩していた道の真ん中でした。まるで歩いていた自分の真上に底の抜けた電話ボックスが降ってきたかのようです。
それに気づいたとたん、自分は全てが分かったような気がしました。後から考えればそれも不思議なのですが、とにかく、誰かが上から電話ボックスを自分に被せただけで不思議など何も起きていないのだ、そう自分は感じたのです。そう思うと急に元気が湧いてきました。電話ボックスの扉を押すと扉は開き、そしてそのまま家へ帰ったのです。
その翌日から、電話ボックスの怪談はぱったりと聞かなくなりました。
主観の話でとりとめがなくなってしまいましたね。見越し入道という妖怪は恐れなければ小さくなって消えるといいます。恐れない事が異常への一番の対処なのかもしれません。おや、どうされました? え? 急な吹雪で道路が塞がった? 今日は帰れない? ……おやまあ」
あれはまだ修行中だった自分が、剃髪を後悔するような夏でした。帽子を忘れて頭の皮を陽に焼いてしまい、しばらく炎症に悩まされていたのです。
やっと熱気の引いた夜、自分はなんとなく散歩に出掛けました。今にして思えば導かれていたのでしょうか。がたん、と音がしたかと思えば、自分は公衆電話ボックスの中に居ました。
入った記憶もなければ出ようにも扉が開きません。近くには人も居ません。そして当の電話も、しいんと静まり返って小銭を入れても何を押しても応答しないのです。
自分の年代の子らの間では、干からびるまで電話ボックスに閉じ込められるという怪談が流行っておりました。自分はさっそく不気味になって叫んだり叩いたり、色々としてみたのですが何も反応がありません。いつでも持ち歩いていた数珠が懐にない事に気がついて自分はぞおっとしました。当時は物に頼らなければ霊力を使えないと思っておりましたから。
泣き疲れて座り込むと、夜とはいえ夏と思えない寒気が地面からは襲ってきます。
ああ、先ほどまでここを歩いていたのに、と土を握りしめて、ふと気がつきました。電話ボックスの床はなく、下はただの地面なのです。おまけによく見れば、電話ボックスがあるのは先ほどまで自分が散歩していた道の真ん中でした。まるで歩いていた自分の真上に底の抜けた電話ボックスが降ってきたかのようです。
それに気づいたとたん、自分は全てが分かったような気がしました。後から考えればそれも不思議なのですが、とにかく、誰かが上から電話ボックスを自分に被せただけで不思議など何も起きていないのだ、そう自分は感じたのです。そう思うと急に元気が湧いてきました。電話ボックスの扉を押すと扉は開き、そしてそのまま家へ帰ったのです。
その翌日から、電話ボックスの怪談はぱったりと聞かなくなりました。
主観の話でとりとめがなくなってしまいましたね。見越し入道という妖怪は恐れなければ小さくなって消えるといいます。恐れない事が異常への一番の対処なのかもしれません。おや、どうされました? え? 急な吹雪で道路が塞がった? 今日は帰れない? ……おやまあ」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。
現在 100話 越え。
エブリスタ・カクヨム・小説家になろうに同時掲載中
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
【総文字数 700,000字 超え 文庫本 約7冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
アストリッドと夏至祭の魔法使い
上津英
恋愛
19世紀北部ノルウェー。そこは首都がある南部との交通が遮断された、幻想と偏見が残る厳しい地だった。
トロムソに住むアストリッドは、母に禁じられてても弾いてしまう程ピアノが好きだった。「18になったらピアノの勉強をする」そう思っていたアストリッドを、しかし母は監禁してしまう。
地下牢に閉じ込められたアストリッドを助けたのは、自分のファンだと話す――心優しい魔法使いの青年だった。
そして雪の中屋敷を抜け出した2人の逃亡劇が始まった。
本文に良く出てくるクリスチャニアとは現首都オスロの旧称で,、サーミ人はスカンジナビア半島北部の先住民族です。
素敵な表紙絵は春日あざみさんに描いて頂きました。
オレンジ色の世界に閉じ込められたわたしの笑顔と恐怖
なかじまあゆこ
ホラー
恐怖の同窓会が始まります。
オレンジ色の提灯に灯る明かりが怖い! 泊まりの同窓会に行った亜沙美は……ここから抜け出すことが出来るのか!帰れるの?
東京都町田市に住んでいる二十五歳の亜沙美は最近嫌な夢を見る。 オレンジ色の提灯に明かりがぽつんと灯りオレンジ色の暖簾には『ご飯屋』と書かれた定食屋。 包丁を握るわたしの手から血がぽたりぽたりと流れ落ちる。この夢に何か隠れているのだろうか? 学生時代のわたしと現在のわたしが交差する。学生時代住んでいたあるのは自然だけの小さな町に同窓会で泊まりで行った亜沙美は……嫌な予感がした。 ツインテールの美奈が企画した同窓会はどこか異様な雰囲気が漂っていた。亜沙美に次々恐怖が迫る。 早く帰りたい。この異様な世界から脱出することは出来るのか。 最後まで読んで頂けるとわかって頂けるかもしれないです。 よろしくお願いします(^-^)/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる