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山の端さっど

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-50℃ 冬の第五話「白くない幽霊」

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「日本のお話の中の幽霊やお化けは白い格好ばかりですね。死装束の白、浄化の色、自然とイメージがそうなるのでしょうが、自分の知る限りは皆様カラフルなのですよ。
 ……いえ、雪降るこの季節に真っ白幽霊の話などしないでくれと先ほどご注文頂いてしまいまして。しかし困りました。自分には他に話題というものが……あ、そうです! 緑の幽霊の話を致しましょう!



 初めて彼にお会いした時、自分はつい眼鏡を外して凝視してしまいました。あまりに普通の幽霊と姿が違ったのです。

 彼の全身は、緑に染まっていました。

『もし、そこのお方』

 呼びかけますと、頭のあたりが赤く染まりました。

『僕が見えるんですか?』
『ええ、仏教徒の端くれなもので』
『すごい! お寺に行っても神社に行っても気づかれなかったのに』

 様々な赤色に染まるお頭を見ながら、自分はお茶をお出ししました。指先が黄色に変わり、茶碗を持ち上げます。幸い、お茶を飲めるタイプの幽霊でした。

『僕は、共感覚だったんです。だったと言っても、今も大して変わらないけど』

 共感覚というのは、文字や単語にそれぞれ色がついて見えたり、音を聞くと味を感じたり、と他の感覚が現れるものです。多くが生まれつきのため、持っていない人には分からない感覚ですね。アイスクリーム頭痛のようなものかもしれません。あれ、『冷たい』と『頭が痛い』が同時に起きますよね。

 彼は多くの事柄に色を感じるようでした。『興奮』は赤、『手』は黄色、『熱い』はレモン色。そして『幽霊』は緑。幽霊になってからは、『不満』が消えてとても心安らかになったそうです。
 自分は何が不満だったのか尋ねました。

『白が嫌いなんですけどどこにでもあるんです。白は「欠落」なんですよ。視界、というか、僕の世界が欠けていくのがとても嫌でした。えっと……安っぽい紫色のやつ、名前なんて言うんでしたっけ。白を連れてくるあの紫が、体を抜け出すまで無くならなくて。でも今は何もかも隙間なく、色ばっかりだ』

 彼は『安堵』色……濃いお茶のような落ち着いた緑になりました。



 白のない何もかも色ばかりの世界。
 自分には耐えられないでしょうが、彼には心地良いようです。
 お方はすぐには成仏できずに幽霊になって苦しむ事が多いのですが、彼は苦しみさえも色として受け入れるのでしょう。
 ただ一つ、『安っぽい紫』が何だったのか、それだけが疑問として胸に残るのです」
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