暖をとる。

山の端さっど

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-45℃ 光なき方の夜

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「腹立つわー」
「何が?」
「お前その顔面にその私服はダメだろ」
「え? 何だよいきなり」
「クソー、全然遊び来ないからオフの私服ダサいんじゃねって予想してたのになー」
「……もしかして賭けとかしてたのか?」
「負けた方だけの割り勘で今度焼肉だよチクショウ!」
「俺も行くか」
「えっ」

 クライという学生が「付き合いが良く」なってからひと月ほどになる。

『金曜とか土日の用事ね。あれ、無くなったんだよな』

 どことなく疲労をにじませたその口調に、物憂げな顔に、敏い友人たちは追及を避けた。ただ水が器に入るように休日のクライを受け入れた。
 急にそんなことを言えば不審になるのは分かっていた。それでもクライは、何もせずに週末を潰すことができなかった。一年の間に、出来なくなっていた。

 昔のクライなら失恋ソングのような独白を嗤っただろう。満たされていた時のクライなら聞きもしなかっただろう。
 まさしく。

(胸に穴が空いたみたいだ)



 カツッ、とその穴に硬質な音が入り込んだ。



「え……」

 白杖はくじょうを持つ少女と目が合った。

 目が合った、などと思ったのはクライだけだろう。閉じられたままの滑らかなまぶたが瞳に焼き付いた。

(……いや、ジロジロ見ちゃダメだ……)

 外面の良いクライは多少のことで顔色を変えたりしない。ほんのわずかな困惑も興味も、すぐに笑顔の中に押しこんだ。

「クライ? どした?」
「あ、いや、何でもないよ」

 よく見れば彼女の隣には2人の女子がいて、お喋りをしながら歩いている。変に絡んではいけないとクライは首を逸らした。



「……それで、その人がどうしたの?」
「うん、それでね、その人の彼女さんが、あのスターラーに部屋で襲われて……亡くなったんだって。部屋には盗聴器か盗撮カメラみたいなものが仕掛けられてた痕跡もあって……」
「怖い話だなー。アテンションのAだよ」



「っ!」
「おい、本当にどうしたんだよクライ」
「俺……そうだ、一目惚れしたみたいだ。ちょっとナンパしてくる」
「えっおま……おい! ……マジで行きやがった」

 クライの友人は少女たちの方へ向かっていくクライを見て固まった。

「おいおい、クライは年上美女派っつった奴誰だよ……思っきし年下可愛い系じゃねーか!」
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