暖をとる。

-48℃ ＂とりあえずのホットドッグ＂

『残念ですけど今のところ最も重要な部分に関しての進展はありませんよ』

　午後1時00分。
　接続1秒で話し始める癖は情報屋の悪癖と言えるだろう。機材トラブルにより音声通信が好調に開始されない可能性を露ほども考慮していない。だがこの際時短になればそのような懸念などどうでも良い。前置きが無くとも構わないレベルだ。

「重要でない情報は？」
『探偵さんは事務所を離れる際、絶対に行き先を気取られないよう気を付けてます。昨夜、とりあえず『妹』の拠点を突き止めようと車にGPSを仕掛けたところ、30分で取り外されました』

　……除き魔ピープの一件でこの手段を切るべきではなかった。あのせいで今後車内への仕込みは難しくなるだろう。

「警戒心については心配いらない。他の手を考える」
『ただ収穫も。その後意地で追跡したところ、探偵さんがこの地点まで行ったことは確認できました』
「……昨夜に？」
『ゆうべの夜に。ガソリン残量、走行ペース等々から推定するに、目的地はこの範囲ですね。心当たりは？』

　あるさ。よく知っている。

「皿達千さらだち……先日調査を完全に終えた地域だ」
『行く理由が思いつかないと』
「しかし『妹』の定住地ではない。探偵は最近カーナビにこの場所を登録した。絶対に妹ではない人物の名で」
『……調査のたびにカーナビに登録するんですか？』
「記憶力が悪いくせに情報を雑に貯め込みたがる。探偵の性格を考えてもみろ」
『……あっ、だとするとカーナビに何か情報が残っていたり』
「つい先日履歴が消された」
『あぁ……』
「いずれにせよ皿達千については僕も調査しよう。あの街に手足もある」
『交友関係がお広いことで。では、私も皿達千を視野の中心に置きつつ探偵さんの尻尾でリボン結びを作ってみせましょう。あ、調査に関して一つお願いが』
「何だ？」
『……映画でね。"Keep calm and eat a hotdog落ち着いて、とりあえずホットドッグを. "って台詞があったんですよ。ワタクシ、その映画が大好きで』
「何が言いたい」

　訝しむ僕の視界の端に500JPYの振込通知が届く。

『餌付け探偵さんにも会わず、調査のために学校もサボっているんでしょう？　昼ご飯くらい食べてくださいよ』
「は……」

　午後1時8分。情報屋は言い終えて1秒で通話を切断した。