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-41℃ 鎌研ぐ羽休め
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「バランにも食べかけ弁当にも痕跡無しか……」
中年刑事は先日担当した奇妙な事件の一番奇妙な証拠品についての書類を見ていた。
小学生30人集団誘拐? 事件。すぐに子供たちが付近で見つかった事と、全員が「急に眠くなって寝てしまった」としか覚えていない事、犯人の手がかりが何もない事から、立件できる見通しが立っていない。新上司はそれが気に入らないようで随分ゴネていたが、それほど暇な身でもなく、今は別の事件に忙しくしている。事件当時の印象通り、好みで事件への力の掛けようが違うクソ上司だった。
「弁当は事件と無関係って事もあり得るが、教室にバランが落ちてんのはおかしいだろ……あとヒントがあるとすりゃあ、あのガキ……」
子供たちの居場所を刑事に知らせた謎の少年は、あの小学校の生徒ではなかった。うっかり帽子の下を見なかった刑事は、体格と声しか覚えていない。最後に渡された連絡先に連絡を取るしかなかった。
「……」
あの少年の事を、刑事は誰にも報告していない。この「渦巻き文字」の書き手を突き止めるまで、話すつもりもない。奇跡的に掴んだ手がかりなのだ。
(あのガキは、きっと犯人に、スターラーに繋がってやがる……!)
それに比べれば、小学生集団誘拐の調査などどうでもいい。
とはいえ、刑事が奇跡の手がかりをたぐるには大きな大きな問題がある。……刑事はろくにパソコンを使えないのだ。少年にコンタクトする「手順」のやり方すらも分かっていないせいで、グダグダと仕事をしている。つまりは苦手分野からの逃避行動として他の事件の事を考えている――
「……っああっ!」
頭を掻きむしった刑事は、ふと携帯から聞こえた着信音にビクリと飛び上がった。
「……な、なんだ」
少し悩んだ電話番号は、数年前に嫌な事件があって警察を辞めた、元後輩の連絡先だった。
「……もしもし。久しぶりだな。元気にしてたか」
『お久しぶりです、先輩。お陰様で元気ですよ。最近は雪も降ってきて嫌っすね。あ、今大丈夫ですか?』
「おう、なんの用だ」
『いやあ、実は今探偵をやってるんですが、最近受けた案件で色々あって、先輩のこと思い出したんですよ』
「? まあ、俺は元気だしお前の知り合いも……そうかお前探偵してんのか」
『ええ、そこそこ食っていけてます』
「……その仕事ってパソコン使うか?」
『はい?』
「使えるな? よし」
『えーと先輩?』
「手伝ってくれ。今度飯奢るから」
刑事はごくりと唾を飲んだ。
中年刑事は先日担当した奇妙な事件の一番奇妙な証拠品についての書類を見ていた。
小学生30人集団誘拐? 事件。すぐに子供たちが付近で見つかった事と、全員が「急に眠くなって寝てしまった」としか覚えていない事、犯人の手がかりが何もない事から、立件できる見通しが立っていない。新上司はそれが気に入らないようで随分ゴネていたが、それほど暇な身でもなく、今は別の事件に忙しくしている。事件当時の印象通り、好みで事件への力の掛けようが違うクソ上司だった。
「弁当は事件と無関係って事もあり得るが、教室にバランが落ちてんのはおかしいだろ……あとヒントがあるとすりゃあ、あのガキ……」
子供たちの居場所を刑事に知らせた謎の少年は、あの小学校の生徒ではなかった。うっかり帽子の下を見なかった刑事は、体格と声しか覚えていない。最後に渡された連絡先に連絡を取るしかなかった。
「……」
あの少年の事を、刑事は誰にも報告していない。この「渦巻き文字」の書き手を突き止めるまで、話すつもりもない。奇跡的に掴んだ手がかりなのだ。
(あのガキは、きっと犯人に、スターラーに繋がってやがる……!)
それに比べれば、小学生集団誘拐の調査などどうでもいい。
とはいえ、刑事が奇跡の手がかりをたぐるには大きな大きな問題がある。……刑事はろくにパソコンを使えないのだ。少年にコンタクトする「手順」のやり方すらも分かっていないせいで、グダグダと仕事をしている。つまりは苦手分野からの逃避行動として他の事件の事を考えている――
「……っああっ!」
頭を掻きむしった刑事は、ふと携帯から聞こえた着信音にビクリと飛び上がった。
「……な、なんだ」
少し悩んだ電話番号は、数年前に嫌な事件があって警察を辞めた、元後輩の連絡先だった。
「……もしもし。久しぶりだな。元気にしてたか」
『お久しぶりです、先輩。お陰様で元気ですよ。最近は雪も降ってきて嫌っすね。あ、今大丈夫ですか?』
「おう、なんの用だ」
『いやあ、実は今探偵をやってるんですが、最近受けた案件で色々あって、先輩のこと思い出したんですよ』
「? まあ、俺は元気だしお前の知り合いも……そうかお前探偵してんのか」
『ええ、そこそこ食っていけてます』
「……その仕事ってパソコン使うか?」
『はい?』
「使えるな? よし」
『えーと先輩?』
「手伝ってくれ。今度飯奢るから」
刑事はごくりと唾を飲んだ。
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