暖をとる。

山の端さっど

文字の大きさ
上 下
41 / 105

-41℃ 鎌研ぐ羽休め

しおりを挟む
「バランにも食べかけ弁当にも痕跡無しか……」

 中年刑事は先日担当した奇妙な事件の一番奇妙な証拠品についての書類を見ていた。
 小学生30人集団誘拐? 事件。すぐに子供たちが付近で見つかった事と、全員が「急に眠くなって寝てしまった」としか覚えていない事、犯人の手がかりが何もない事から、立件できる見通しが立っていない。新上司はそれが気に入らないようで随分ゴネていたが、それほど暇な身でもなく、今は別の事件に忙しくしている。事件当時の印象通り、好みで事件への力の掛けようが違うクソ上司だった。

「弁当は事件と無関係って事もあり得るが、教室にバランが落ちてんのはおかしいだろ……あとヒントがあるとすりゃあ、あのガキ……」

 子供たちの居場所を刑事に知らせた謎の少年は、あの小学校の生徒ではなかった。うっかり帽子の下を見なかった刑事は、体格と声しか覚えていない。最後に渡された連絡先に連絡を取るしかなかった。

「……」

 あの少年の事を、刑事は誰にも報告していない。この「渦巻き文字」の書き手を突き止めるまで、話すつもりもない。奇跡的に掴んだ手がかりなのだ。

(あのガキは、きっと犯人に、スターラーに繋がってやがる……!)

 それに比べれば、小学生集団誘拐の調査などどうでもいい。



 とはいえ、刑事が奇跡の手がかりをたぐるには大きな大きな問題がある。……刑事はろくにパソコンを使えないのだ。少年にコンタクトする「手順」のやり方すらも分かっていないせいで、グダグダと仕事をしている。つまりは苦手分野からの逃避行動として他の事件の事を考えている――

「……っああっ!」

 頭を掻きむしった刑事は、ふと携帯から聞こえた着信音にビクリと飛び上がった。

「……な、なんだ」

 少し悩んだ電話番号は、数年前に嫌な事件があって警察を辞めた、元後輩の連絡先だった。

「……もしもし。久しぶりだな。元気にしてたか」
『お久しぶりです、先輩。お陰様で元気ですよ。最近は雪も降ってきて嫌っすね。あ、今大丈夫ですか?』
「おう、なんの用だ」
『いやあ、実は今探偵をやってるんですが、最近受けた案件で色々あって、先輩のこと思い出したんですよ』
「? まあ、俺は元気だしお前の知り合いも……そうかお前探偵してんのか」
『ええ、そこそこ食っていけてます』
「……その仕事ってパソコン使うか?」
『はい?』
「使えるな? よし」
『えーと先輩?』
「手伝ってくれ。今度飯奢るから」

 刑事はごくりと唾を飲んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...