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§03 樹待外れな擬態フラワー
見ていられないほどサプライズ
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宴もたけなわ。
いつも話を脱線させる国語教師が言っていたのだが、この「たけなわ」は竹縄とかではなく酒が美味しく発酵した状態のことを指すらしい。「ま、度数が高ーなあ、ってことですね」とつまらないギャグをかました教師のことを思い出して響は苦笑した。後ろから千早に小突かれる。
「どしたん、響」
「思い出し笑い。豚ッピの」
「あー」
千早も何か思うところがあったのか苦笑いの顔になった。念のため言っておくと、豚ッピというのは例の国語教師が好きなゆるキャラ? だ。教師自身は豚というほど太っていない。
「そいや今オレ豚ッピアクキー持ってるわ」
「マジで?」
「前もらったー」
得意げな様子を見るに、女子かららしい。
「誰からだと思う? なあなあ」
「豚ッピから」
「な訳ねーだろ!」
「委員会関係? いや、部活のマネージャー? 顧問? いやそれだと男か」
「なぁーんで義理でしかくれなそうな人ばっか言うんだよー」
他に思いつかないのだからしょうがない。
「正解はマユミちゃーん。おソロなんだぜー?」
「……」
千早とよく女子会している3組の女子グループの一人だ。確か、この前みんなでアクセを買い揃えたとか言っていた。
「なあそれってもしかして、女友達扱い……」
「なぁーに言ってんだよお前ーはははー」
いつものペラペラした笑い顔になる。うすうす気づいてはいるらしい。
「分かってんなら自慢すんなよ……」
「いやいやいや脈はあるって! 多分」
「いや、女子会しかしてなかっただろ」
「オレが混ざってんだから女子会じゃねーだろ?」
「いや、女子会だったろ」
そもそも、普段の千早はバスケ部エースとは思えないほどエネルギッシュに見えないのだ。彼女に飢えている感じがどうも薄い。軽いノリだしわりかし中性的な顔立ちだし、女子の中に混ざっていてもまあまあ違和感がないというか……だからモテないのだろう。
「ひーびーきー? 何見てんだよ。それより手、出せ」
「え?」
言われるがまま出した手に、ころんと紐つきの金属片が落ちてきた。
「何これ」
「猫ッピストラップ~! 響お前豚より猫が好きだろ」
「まあ……で何これ?」
「豚ッピと同じ会社の猫キャラだよ。一応誕プレってことで」
「……可愛いキャラ選ぶの上手いよな」
「オレの好みじゃねえって。お前こういうの好きだろ?」
「まあ猫は嫌いじゃないけど」
そんなキャラに思われているらしい。
「とりあえず、ありがとな。覚えてないけど誕生日になんか返す」
適当に返すと、頭に手を置かれた。
「くがつじゅーはちにち。覚えとけよ」
髪を散らされる。
「いや、覚えてる」
「なら素直に言えよ?! ……んでさ」
頭の上の手に、ふいに力が入った。
「アイツ、うちの学校に居たか?」
千早の視線の先には、バンダちゃんとまだ死闘カーレースを繰り広げる影の姿があった。
「ああ……」
焦るな、と心の中で唱えながら、響は息を吐いた。
この男、須栗千早の交友関係は広い。多分、全部とはいかずとも学校全体のほとんどのクラスの人を把握しているだろう。行動力もある。何年何組と嘘をつけば、ナニガシ影人なんて生徒は存在しないとすぐにバレるだろう。
(転校とかする気ないのに生徒だって嘘ついた影が悪いんだけどな)
だけど、嘘がバレて迷惑を被るのは響やバンダちゃんもだ。バンダちゃんは「影人っち先輩にはいつもお世話に~」とか言ってるし響は友人として家に連れてきている。
(面倒臭え嘘つきやがって……)
本人に言い訳させたいが、レースは白熱していて当分終わりそうにない。
「おっと、そろそろ指さばきが鈍ってきたんじゃありませんか? 背中が近づいてますよ?」
「まだまだ、っすよー!! ほらっ!」
「ちっ!」
……蹴り飛ばしたくなるのをぐっとこらえる。
(バレにくい言い訳……んー……)
「うちじゃなくて隣の吉校だからな」
「え? マジ?」
「バンダちゃんとは前から知り合いで、エクストリーム登校サークル立ち上げでも世話になったんだと」
「やー、それは知らねーわけだ」
さすがに他校生徒までは知らないらしい。
「ふーん、他校ねえ……お前はどうやって知り合ったんだよ?」
「図書館で」
「ハハッ、何だよそれ? お前図書館なんて行くのか?」
「たまにな」
冗談っぽく返事をしておく。後から別の話にしてもなんとかなるだろう。
「あー、でも、変な奴だからあんまり気にしなくて良いと思う……?」
「いや、話したいな。興味わいてきた。お前が仲良くなる奴がどんな奴か」
千早は変なことを言ってヘラヘラと笑った。
「別に俺の友達なんていくらでもいるだろ」
「家に呼んだことあるか?」
「え、ある」
小中のときはよく家で遊んだし、高校になってからもアパートの部屋に遊びに来るクラスメートはいる。
「本気度が違うんだよなー、あいつらとは」
「何言ってんだよ、千早」
「ま、いーや。後でなー」
さっきまでの質問攻めが嘘のように、千早は手を振って離れていった。
「何なんだよ……」
「響っち先輩って色々大変っすねえ」
と、入れ替わりにバンダちゃんがやってきて、袖をつまんできた。いつの間にか影を降参させたらしい。
「ところで、ちょっと良いっすか?」
「ん?」
引っ張られるまま2人で部屋を出て廊下に行く。
「実は、渡したいものがあるんっすよ」
「何?」
「……じゃーん!」
手品のようにバンダちゃんの手のひらに小箱が現れた。
「ミツダマっちから響っちへのプレゼントっす!」
「え? ミツダマって」
202号室に憑く幽霊の名前と同じだ。
「響っちの思ってるミツダマっちで合ってるっすよ~」
「なんで俺に?」
バンダちゃんは笑みをさらに強めた。
「誕プレっす!」
「たんぷれ……」
先ほど千早から渡されたばかりなのに、思いつきもしなかった。ミツダマにとって響は、怖い蝕橆の臭いがべったり付いた恐ろしい存在のはずで……
「開けてみてほしいっす」
簡単な包装を開くと、中には光る透明な石のついた黒革紐のシンプルなネックレスが入っていた。
「ミツダマっちがネットショップで響っちにあげたいパワーストーン選んでくれたんっすよ! ウチと共同のプレゼントってことでよろしくっす」
「え、あいつが……?」
「そうっす。ミツダマっち、実は実は響っちのこと気にかけてるんっすよー?」
「そう、なのか?」
「響っちの事情聞いても心が動かない人じゃないっすよ、ミツダマっちは。めちゃくちゃ同情してたっす」
「どうやって説明したんだ……」
「ウチとミツダマっちは友達っすからね」
それで全部説明できていることにしてしまうのが彼女だ。
ネックレスは水晶だろうか。雫型で、ほんのり青く光るさまが涼やかだ。
「……ありがとう」
「感謝の意、伝えておくっす!」
「あんたもな。ありがと」
「喜んでもらえて嬉しいっす!」
にっこり。元気よく笑ったバンダちゃんは、パッと後ろに引いた。
「さて、お次どうぞ、っす」
「……影」
「意外そうな顔をしないでくださいよ」
背後から影が現れる。響は腰に手を当てた。どういうわけか、影がいると昼の廊下まで薄暗くなるようだ。
「まさか、あんたも誕プレくれるのか?」
「いけませんか?」
「いや、いけないってことはないけど……あんたってそんな奴だっけ」
下僕で苗床で非常食の誕生を祝ってくれるバケモノというのは、どうも似合わない。響の機嫌を取ることに何か得ができたのだろうか。
(……いや、最初と比べれば、今は多少俺の話聞いてくれるようになってたか)
だから、響も無碍にしにくい。
(でもコイツは俺に嘘をついてた。それも、最初から今までずっと)
響の頭の中はグチャグチャだ。植物恐怖症がウザったいし本能的に無理だ。それでも、素直に築いてきた関係を信じたい気持ちはあった。……そんな不安定な地盤は、スポアから告げられた嘘の暴露にアッサリと傾いでいる。外堀を埋められる気持ち悪さもある。さらに、人間として誤ったことをしている自覚と友人知人を巻き込むリスクが、今さらながらあちこちをつつき回っている。それでも影を信じたい、と思ってしまう自分が理解できない。
(……考えるな)
響はただ、感情が漏れないよう押し潰した。影の前でこんな顔はできない。
「きみが喜びそうなプレゼントはいくつも思いついたのですが……やはり、今一番といえばこれかと思いまして」
影は静かに響に近づくと、黒い小瓶を取り出した。素材が黒というより、蓋もガラスも全てが均一に真っ黒に見える。
(何か……貼りついてる……?)
目の前にかざされると、小瓶から闇がズルリと剥がれ落ちて中のものがあらわになった。
「なっ……これ、って……」
「目玉です。海の底から回収しました」
「ミツダマ、の?」
「はい。バンダちゃんには探すのが難しい部品を、きみの誕生日に間に合うように見つけるのは骨が折れましたよ」
「あんたが、探したのか……」
「はい。そうでなければ私からのプレゼントになりませんし、コレでなければきみが喜ばないかもしれない」
「……誕プレに目玉貰って喜ぶと思われてんのか、俺」
「はい」
影の顔には悪気がない。響は深呼吸してもう一度しっかりと表情を整えた。
「……今はありがたい。ありがたく受け取るし嬉しくないわけじゃないけど、来年同じような物持ってきたらぶっ飛ばすからな」
「来年までと言わず、さっさとあの邪魔も……ミツダマの件は片付けますよ」
「あーもう、そういう所だよ。そういう奴だよなあんたって」
響はうつむいて額から前髪に乱暴に指を差し込んだ。
「……ちょっとトイレ行く。向こうで話しててくれ。あとその……目、はあんたが持っててくれ」
「分かりました。ではまたすぐに」
影がにぎやかな部屋へ戻るのを確認して、響はトイレに入る。鍵をかけて、一つ、二つ、ゆっくりと息をする。
「はは……」
我慢を終えて、漏れ出たのは、喜色だった。
いつも話を脱線させる国語教師が言っていたのだが、この「たけなわ」は竹縄とかではなく酒が美味しく発酵した状態のことを指すらしい。「ま、度数が高ーなあ、ってことですね」とつまらないギャグをかました教師のことを思い出して響は苦笑した。後ろから千早に小突かれる。
「どしたん、響」
「思い出し笑い。豚ッピの」
「あー」
千早も何か思うところがあったのか苦笑いの顔になった。念のため言っておくと、豚ッピというのは例の国語教師が好きなゆるキャラ? だ。教師自身は豚というほど太っていない。
「そいや今オレ豚ッピアクキー持ってるわ」
「マジで?」
「前もらったー」
得意げな様子を見るに、女子かららしい。
「誰からだと思う? なあなあ」
「豚ッピから」
「な訳ねーだろ!」
「委員会関係? いや、部活のマネージャー? 顧問? いやそれだと男か」
「なぁーんで義理でしかくれなそうな人ばっか言うんだよー」
他に思いつかないのだからしょうがない。
「正解はマユミちゃーん。おソロなんだぜー?」
「……」
千早とよく女子会している3組の女子グループの一人だ。確か、この前みんなでアクセを買い揃えたとか言っていた。
「なあそれってもしかして、女友達扱い……」
「なぁーに言ってんだよお前ーはははー」
いつものペラペラした笑い顔になる。うすうす気づいてはいるらしい。
「分かってんなら自慢すんなよ……」
「いやいやいや脈はあるって! 多分」
「いや、女子会しかしてなかっただろ」
「オレが混ざってんだから女子会じゃねーだろ?」
「いや、女子会だったろ」
そもそも、普段の千早はバスケ部エースとは思えないほどエネルギッシュに見えないのだ。彼女に飢えている感じがどうも薄い。軽いノリだしわりかし中性的な顔立ちだし、女子の中に混ざっていてもまあまあ違和感がないというか……だからモテないのだろう。
「ひーびーきー? 何見てんだよ。それより手、出せ」
「え?」
言われるがまま出した手に、ころんと紐つきの金属片が落ちてきた。
「何これ」
「猫ッピストラップ~! 響お前豚より猫が好きだろ」
「まあ……で何これ?」
「豚ッピと同じ会社の猫キャラだよ。一応誕プレってことで」
「……可愛いキャラ選ぶの上手いよな」
「オレの好みじゃねえって。お前こういうの好きだろ?」
「まあ猫は嫌いじゃないけど」
そんなキャラに思われているらしい。
「とりあえず、ありがとな。覚えてないけど誕生日になんか返す」
適当に返すと、頭に手を置かれた。
「くがつじゅーはちにち。覚えとけよ」
髪を散らされる。
「いや、覚えてる」
「なら素直に言えよ?! ……んでさ」
頭の上の手に、ふいに力が入った。
「アイツ、うちの学校に居たか?」
千早の視線の先には、バンダちゃんとまだ死闘カーレースを繰り広げる影の姿があった。
「ああ……」
焦るな、と心の中で唱えながら、響は息を吐いた。
この男、須栗千早の交友関係は広い。多分、全部とはいかずとも学校全体のほとんどのクラスの人を把握しているだろう。行動力もある。何年何組と嘘をつけば、ナニガシ影人なんて生徒は存在しないとすぐにバレるだろう。
(転校とかする気ないのに生徒だって嘘ついた影が悪いんだけどな)
だけど、嘘がバレて迷惑を被るのは響やバンダちゃんもだ。バンダちゃんは「影人っち先輩にはいつもお世話に~」とか言ってるし響は友人として家に連れてきている。
(面倒臭え嘘つきやがって……)
本人に言い訳させたいが、レースは白熱していて当分終わりそうにない。
「おっと、そろそろ指さばきが鈍ってきたんじゃありませんか? 背中が近づいてますよ?」
「まだまだ、っすよー!! ほらっ!」
「ちっ!」
……蹴り飛ばしたくなるのをぐっとこらえる。
(バレにくい言い訳……んー……)
「うちじゃなくて隣の吉校だからな」
「え? マジ?」
「バンダちゃんとは前から知り合いで、エクストリーム登校サークル立ち上げでも世話になったんだと」
「やー、それは知らねーわけだ」
さすがに他校生徒までは知らないらしい。
「ふーん、他校ねえ……お前はどうやって知り合ったんだよ?」
「図書館で」
「ハハッ、何だよそれ? お前図書館なんて行くのか?」
「たまにな」
冗談っぽく返事をしておく。後から別の話にしてもなんとかなるだろう。
「あー、でも、変な奴だからあんまり気にしなくて良いと思う……?」
「いや、話したいな。興味わいてきた。お前が仲良くなる奴がどんな奴か」
千早は変なことを言ってヘラヘラと笑った。
「別に俺の友達なんていくらでもいるだろ」
「家に呼んだことあるか?」
「え、ある」
小中のときはよく家で遊んだし、高校になってからもアパートの部屋に遊びに来るクラスメートはいる。
「本気度が違うんだよなー、あいつらとは」
「何言ってんだよ、千早」
「ま、いーや。後でなー」
さっきまでの質問攻めが嘘のように、千早は手を振って離れていった。
「何なんだよ……」
「響っち先輩って色々大変っすねえ」
と、入れ替わりにバンダちゃんがやってきて、袖をつまんできた。いつの間にか影を降参させたらしい。
「ところで、ちょっと良いっすか?」
「ん?」
引っ張られるまま2人で部屋を出て廊下に行く。
「実は、渡したいものがあるんっすよ」
「何?」
「……じゃーん!」
手品のようにバンダちゃんの手のひらに小箱が現れた。
「ミツダマっちから響っちへのプレゼントっす!」
「え? ミツダマって」
202号室に憑く幽霊の名前と同じだ。
「響っちの思ってるミツダマっちで合ってるっすよ~」
「なんで俺に?」
バンダちゃんは笑みをさらに強めた。
「誕プレっす!」
「たんぷれ……」
先ほど千早から渡されたばかりなのに、思いつきもしなかった。ミツダマにとって響は、怖い蝕橆の臭いがべったり付いた恐ろしい存在のはずで……
「開けてみてほしいっす」
簡単な包装を開くと、中には光る透明な石のついた黒革紐のシンプルなネックレスが入っていた。
「ミツダマっちがネットショップで響っちにあげたいパワーストーン選んでくれたんっすよ! ウチと共同のプレゼントってことでよろしくっす」
「え、あいつが……?」
「そうっす。ミツダマっち、実は実は響っちのこと気にかけてるんっすよー?」
「そう、なのか?」
「響っちの事情聞いても心が動かない人じゃないっすよ、ミツダマっちは。めちゃくちゃ同情してたっす」
「どうやって説明したんだ……」
「ウチとミツダマっちは友達っすからね」
それで全部説明できていることにしてしまうのが彼女だ。
ネックレスは水晶だろうか。雫型で、ほんのり青く光るさまが涼やかだ。
「……ありがとう」
「感謝の意、伝えておくっす!」
「あんたもな。ありがと」
「喜んでもらえて嬉しいっす!」
にっこり。元気よく笑ったバンダちゃんは、パッと後ろに引いた。
「さて、お次どうぞ、っす」
「……影」
「意外そうな顔をしないでくださいよ」
背後から影が現れる。響は腰に手を当てた。どういうわけか、影がいると昼の廊下まで薄暗くなるようだ。
「まさか、あんたも誕プレくれるのか?」
「いけませんか?」
「いや、いけないってことはないけど……あんたってそんな奴だっけ」
下僕で苗床で非常食の誕生を祝ってくれるバケモノというのは、どうも似合わない。響の機嫌を取ることに何か得ができたのだろうか。
(……いや、最初と比べれば、今は多少俺の話聞いてくれるようになってたか)
だから、響も無碍にしにくい。
(でもコイツは俺に嘘をついてた。それも、最初から今までずっと)
響の頭の中はグチャグチャだ。植物恐怖症がウザったいし本能的に無理だ。それでも、素直に築いてきた関係を信じたい気持ちはあった。……そんな不安定な地盤は、スポアから告げられた嘘の暴露にアッサリと傾いでいる。外堀を埋められる気持ち悪さもある。さらに、人間として誤ったことをしている自覚と友人知人を巻き込むリスクが、今さらながらあちこちをつつき回っている。それでも影を信じたい、と思ってしまう自分が理解できない。
(……考えるな)
響はただ、感情が漏れないよう押し潰した。影の前でこんな顔はできない。
「きみが喜びそうなプレゼントはいくつも思いついたのですが……やはり、今一番といえばこれかと思いまして」
影は静かに響に近づくと、黒い小瓶を取り出した。素材が黒というより、蓋もガラスも全てが均一に真っ黒に見える。
(何か……貼りついてる……?)
目の前にかざされると、小瓶から闇がズルリと剥がれ落ちて中のものがあらわになった。
「なっ……これ、って……」
「目玉です。海の底から回収しました」
「ミツダマ、の?」
「はい。バンダちゃんには探すのが難しい部品を、きみの誕生日に間に合うように見つけるのは骨が折れましたよ」
「あんたが、探したのか……」
「はい。そうでなければ私からのプレゼントになりませんし、コレでなければきみが喜ばないかもしれない」
「……誕プレに目玉貰って喜ぶと思われてんのか、俺」
「はい」
影の顔には悪気がない。響は深呼吸してもう一度しっかりと表情を整えた。
「……今はありがたい。ありがたく受け取るし嬉しくないわけじゃないけど、来年同じような物持ってきたらぶっ飛ばすからな」
「来年までと言わず、さっさとあの邪魔も……ミツダマの件は片付けますよ」
「あーもう、そういう所だよ。そういう奴だよなあんたって」
響はうつむいて額から前髪に乱暴に指を差し込んだ。
「……ちょっとトイレ行く。向こうで話しててくれ。あとその……目、はあんたが持っててくれ」
「分かりました。ではまたすぐに」
影がにぎやかな部屋へ戻るのを確認して、響はトイレに入る。鍵をかけて、一つ、二つ、ゆっくりと息をする。
「はは……」
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