2 / 57
§01 芽を奪う桜果パフェ
合鍵と花香のミスチョイス
しおりを挟む
「ひびき君。今日一緒に帰らない?」
やわらかいウェーブの茶髪をリボンでゆるく括った女子が、賢木 響に呼びかけた。
「あ……湯上」
澄谷高校二年一組の教室はやや朱い陽を浴びて映画のワンシーンのようにくっきりとした陰影を作り出している。きっと湯上桃音ならこの場の主演に似合うだろう、と響はぼんやり考える。
「ごめん、一人の気分」
しかし自分には似合わない。
「あのね、今日、行きつけのカフェでパフェが新しく出たの。良かったら、ひびき君についてきてくれると嬉しいな、なんて……」
湯上は、近づいてくると、響の言葉など聞こえていなかったかのように言う。ふわりとフローラルな香水の香りがして、くりっとした上目遣いの目が、響を見つめた。
「……ごめん」
響は目を逸らしてもう一度言うと、バッグを肩に掛けて教室を出た。
まだ何か喋っているのが聞こえたが、もう耳には入ってこない。響は、急いで廊下を歩き、トイレに駆け込んだ。誰もいないことを確認して、鏡に額をぶつける。
「きっつ……」
深く息をつく。
湯上桃音は、容姿と誰にでも優しいところで男子に人気のクラスメートだ。少し「話が通じない」ところが響は苦手だが、可愛いとは思う。正直、構われて悪い気がする女子ではなかった。ただ……
(きつい)
香水の匂いを払うように、蛇口をひねって水を顔に掛ける。
『桜が怖い?』
水音とともに、挑発的な声が脳裏をよぎる。
賢木響は、黙って蛇口を閉じた。
響の通学路には、ひょうたん型の大きなため池のある小さな公園がある。響はいつものように手前で細い脇道へ入ると、大きく遠回りする道に入った。
何故か? 聞かれるまでもない。怖いからだ。公園には、外側をぐるりと取り囲むようにソメイヨシノが立っている。今は青葉が茂り始めた頃だろう。
「……他の樹なら我慢できるんだけどな」
小さく呟いた声は、公園で幼児が吹いたシャボン玉よりも小さく流れて消えた。
『桜が怖い?』
桜が春しか怖くない人は、本当に「桜」が怖いわけではないのだろう、と響は頭の隅で考える。だって、樹の下に死体があるなら、それは夏も秋も冬も、そこにあるはずだから。
別に、あの道の桜の下に死体が埋まっていると考えたことはない。なぜ怖いのか、響自身にも分からないのだ。
桜だけというわけでもない。
例えば、公園の回り道となる細道の脇に咲く野の花。しばらく進んで大通りを横断するときに目に入る青葉の木。アパートへ続く唯一の道の両脇で必ず目に入る隣家の庭木。
物心ついたころには、もう植物に怯えていた。
「……」
響のアパートには小さな庭があり、そこに大家の好みで金柑だったかの低木と様々な花が植えられている。雑草が足に掛かることはないが、色鮮やかな花がこちらを向いて咲いているだけなのも、それはそれで恐ろしいことだった。
だからと言って文句は言わないし、毎日嫌がってみせるような子供っぽさもない。慣れれば、巨大な蜘蛛が巣を張っている程度の気味悪さだ。響は庭を見ないように階段を上った。
ドアの前に、人がいた。
「お帰りなさい」
「あ……?」
ひどく細身の長身の男だった。黒い薄手のシャツを着て胸元のボタンを二つ外している。
「ハイツみなも202号室。良いお部屋ですね」
桜を見たときと同じ感覚が、響の背をなぞった。
「な、んで……」
「『ただいま』が正答ですよ? 桜の嫌いな賢木響くん」
そこにいたのは、響の学校のカウンセラーだった。
*****
『桜が怖い? 綺麗すぎて怖い、ということですか?』
『違います。とにかく、桜だけは……見るのも、嫌で』
自分の高校に相談室があることを響は数日前に初めて知った。秘密は絶対に漏らさない、なんていう文句に釣られて、ダメ元で一度だけ行ったのだ。そのときは白衣だったが、顔ははっきりと覚えている。見たとたんに来たことを後悔したから。
『……動物園ですぐ目の前に白熊とか虎が、襲ってきたときの感じで怖いんです。道端に猛獣がいる。植物を見ると、そう感じることがあって……』
『……顔色が悪いようですが』
『大丈夫、です』
あなたも怖いです、とは言えなかった。顔立ちは整っていて表情も柔和なのに、長袖の制服の下で鳥肌が立っていた。
それまで響は、人間を怖いと感じたことはなかったはずだった。植物に恐怖を感じる異常体質でも、そこまではおかしくなっていないはずだった。
『感じないこともありますか?』
『え? わか……らないです。でも桜でも写真越しとかならそこまでは……』
『これは?』
今考えればおかしかったのだ。相談室で初めて悩みを打ち明けたのに、この写真をどうして持っていたのか。
『この写真はどうですか?』
見たとたんに、ゾクリと全身に冷たい物が巻き付いた。……ような、気がした。
そこには、一本の夜桜が写っていた。心霊写真というわけではない。そこまで鮮明な写真ですらない。ただの、花色の濃い、大きな枝垂桜だ。神社にあるものなのか根本には囲いと白い幣のようなものがあった。それだけだった。
『……普段は、写真越しに見るだけなら、怖くはなくて』
言いながらも、汗が額に滲んだ。
『何故?』
『何故って……分からないけど、これ、は』
汗が目に入り、瞬きをしようとして、目を逸らせないことに気づいた。この写真が怖い。怖い、はずなのに、なぜか眼球を縫い留められたように、動かせなかった。
『何が怖いのですか?』
男の声が、やけに冷たく響く。
『さ……く、ら?』
写真に写っていたのは、果たして本当に桜の木だっただろうか?
『…………ふ』
それは笑みだったのか分からない。とにかく、その小さな息の音を聞いて、ふと緊張が解けたのだ。
『……あの、俺、やっぱり帰ります』
『まだ時間はありますが?』
『すみません』
『ああ、きみ……』
返事を聞かずに、背を向け目は伏せて、相談室から逃げ出したのが、一週間前のこと。
*****
……なぜあのときのカウンセラーが、ここにいる?
響があのカウンセリングを受けたのは初めてだ。もちろん住所なんて明かしていない。追けられていたとしたら、先回りしてドアの前に立てるはずがない。そもそも目の前の男は、本当にあのカウンセラーだろうか?
……そんなことはどうでもよかった。響は、男の言葉をゆっくりと繰り返す。
「『良いお部屋ですね』……?」
男の手元には、一本の鍵が握られていた。その根元には、見覚えのある猫のストラップ。
響はすぐに自分のバッグを漁った。無い。……無い。外出時に確かに持ってきたはずの鍵が、消えていた。
つまり、この男に、いつの間にか鍵を盗られていた。
「……返せ」
それ以外に何も言えなかった。
男は響の様子を面白そうな顔で見ていたが、
「もしかして、この場を乗り切る方法を考えていますか?」
と笑顔で言った。
実際には響にはそんな考えはなかった。警察を呼べるほどの隙を見せてくれそうな相手には見えない。そもそも、今、こうして相対しているだけで精いっぱいなのだ。襲われたらどうする? 相手の目的は? 鍵は何とかなるとしても――
「合鍵。ベランダのマットの下」
響の思考を破ったのは、その涼しげな声と二本目の鍵の入った小さなポリ袋だった。
「お部屋探索のついでに見つけました」
「……」
近所の人に助けを呼んで捕まえてもらい、鍵を人質にされても合鍵がある。そんな、まだ浮かんでもいなかった考えが、崩れた。
「ついでに言えば」
三本目。
男は真新しい鍵を、出した。
「私の作った合鍵もありますよ」
「……」
「入れていただけますね? ……いえ、失礼」
男は響の肩を掴む。響は振り払おうとしたが、すぐに抵抗をやめた。
「私があなたを入れて差し上げましょう」
そう言う男の黒いシャツの袖口から、紅い茨が一本、飛び出た。毒々しい色の、柔らかそうな茎だ。驚くより前に、マジックのように一瞬で響の首に巻き付く。棘は刺さってこそいないが、刃物を押し当てられた時のように肌を押しており、少しでも動けばどこかの棘が刺さりそうだ。
(牙をむいた毒蛇、みたいだ……)
男は動きどころか息まで止めた響をそのまま引きずって、部屋に入っていく。幸い、連れられる衝撃では棘が刺さり込みはしなかった。ただ、だからといって、抵抗は、できそうに、ない。
男は玄関まで入ると立ち止まる。ドアを閉めて、響をそこにもたれかけさせると、そこでようやく首の茨が、ずるりと解けた。生きて動く触手のように蠢いて離れる。棘が全て離れてようやく、響の喉を息が通る。
「はぁ……」
それは奇妙で恐ろしい光景のはずだった。しかし響は、叫び声一つあげず、ただ、男を睨んだ。
「きみ、悲鳴あげませんね」
「……その植物、どっかにやれないのか」
「ああ……きみはもともと、『植物』が怖いんでしたね」
桜の木に感じる恐怖と、同じものだから。
「今更、そんなもの一本で喚かないよ。むしろ、あんたが怖い理由が分かって少し安心してる。人間まで化け物に見えるようになっちゃおしまいだからな」
小さい頃から、ずっと悲鳴は抑え込んでいた。普通の人が雑草に悲鳴を上げないように、普通に、ふるまえるように。常人を装えるように。
「……面白い」
男は手を打った。
「あ、トラブルを避けるために言っておきますね。警察に電話するのはお勧めできません。具体的に言えば、私の姿が警察には見えないのであなたの主張が通りません」
「な」
「私は『ニンゲン』ですから」
人間、と言ったようには、聞こえなかった。
「っと、そういえば忘れてました」
動揺する響の耳元で、男が錠をかける音がした。
取り返しのつかないところの錠が、もう引き返せないと、落ちた。
やわらかいウェーブの茶髪をリボンでゆるく括った女子が、賢木 響に呼びかけた。
「あ……湯上」
澄谷高校二年一組の教室はやや朱い陽を浴びて映画のワンシーンのようにくっきりとした陰影を作り出している。きっと湯上桃音ならこの場の主演に似合うだろう、と響はぼんやり考える。
「ごめん、一人の気分」
しかし自分には似合わない。
「あのね、今日、行きつけのカフェでパフェが新しく出たの。良かったら、ひびき君についてきてくれると嬉しいな、なんて……」
湯上は、近づいてくると、響の言葉など聞こえていなかったかのように言う。ふわりとフローラルな香水の香りがして、くりっとした上目遣いの目が、響を見つめた。
「……ごめん」
響は目を逸らしてもう一度言うと、バッグを肩に掛けて教室を出た。
まだ何か喋っているのが聞こえたが、もう耳には入ってこない。響は、急いで廊下を歩き、トイレに駆け込んだ。誰もいないことを確認して、鏡に額をぶつける。
「きっつ……」
深く息をつく。
湯上桃音は、容姿と誰にでも優しいところで男子に人気のクラスメートだ。少し「話が通じない」ところが響は苦手だが、可愛いとは思う。正直、構われて悪い気がする女子ではなかった。ただ……
(きつい)
香水の匂いを払うように、蛇口をひねって水を顔に掛ける。
『桜が怖い?』
水音とともに、挑発的な声が脳裏をよぎる。
賢木響は、黙って蛇口を閉じた。
響の通学路には、ひょうたん型の大きなため池のある小さな公園がある。響はいつものように手前で細い脇道へ入ると、大きく遠回りする道に入った。
何故か? 聞かれるまでもない。怖いからだ。公園には、外側をぐるりと取り囲むようにソメイヨシノが立っている。今は青葉が茂り始めた頃だろう。
「……他の樹なら我慢できるんだけどな」
小さく呟いた声は、公園で幼児が吹いたシャボン玉よりも小さく流れて消えた。
『桜が怖い?』
桜が春しか怖くない人は、本当に「桜」が怖いわけではないのだろう、と響は頭の隅で考える。だって、樹の下に死体があるなら、それは夏も秋も冬も、そこにあるはずだから。
別に、あの道の桜の下に死体が埋まっていると考えたことはない。なぜ怖いのか、響自身にも分からないのだ。
桜だけというわけでもない。
例えば、公園の回り道となる細道の脇に咲く野の花。しばらく進んで大通りを横断するときに目に入る青葉の木。アパートへ続く唯一の道の両脇で必ず目に入る隣家の庭木。
物心ついたころには、もう植物に怯えていた。
「……」
響のアパートには小さな庭があり、そこに大家の好みで金柑だったかの低木と様々な花が植えられている。雑草が足に掛かることはないが、色鮮やかな花がこちらを向いて咲いているだけなのも、それはそれで恐ろしいことだった。
だからと言って文句は言わないし、毎日嫌がってみせるような子供っぽさもない。慣れれば、巨大な蜘蛛が巣を張っている程度の気味悪さだ。響は庭を見ないように階段を上った。
ドアの前に、人がいた。
「お帰りなさい」
「あ……?」
ひどく細身の長身の男だった。黒い薄手のシャツを着て胸元のボタンを二つ外している。
「ハイツみなも202号室。良いお部屋ですね」
桜を見たときと同じ感覚が、響の背をなぞった。
「な、んで……」
「『ただいま』が正答ですよ? 桜の嫌いな賢木響くん」
そこにいたのは、響の学校のカウンセラーだった。
*****
『桜が怖い? 綺麗すぎて怖い、ということですか?』
『違います。とにかく、桜だけは……見るのも、嫌で』
自分の高校に相談室があることを響は数日前に初めて知った。秘密は絶対に漏らさない、なんていう文句に釣られて、ダメ元で一度だけ行ったのだ。そのときは白衣だったが、顔ははっきりと覚えている。見たとたんに来たことを後悔したから。
『……動物園ですぐ目の前に白熊とか虎が、襲ってきたときの感じで怖いんです。道端に猛獣がいる。植物を見ると、そう感じることがあって……』
『……顔色が悪いようですが』
『大丈夫、です』
あなたも怖いです、とは言えなかった。顔立ちは整っていて表情も柔和なのに、長袖の制服の下で鳥肌が立っていた。
それまで響は、人間を怖いと感じたことはなかったはずだった。植物に恐怖を感じる異常体質でも、そこまではおかしくなっていないはずだった。
『感じないこともありますか?』
『え? わか……らないです。でも桜でも写真越しとかならそこまでは……』
『これは?』
今考えればおかしかったのだ。相談室で初めて悩みを打ち明けたのに、この写真をどうして持っていたのか。
『この写真はどうですか?』
見たとたんに、ゾクリと全身に冷たい物が巻き付いた。……ような、気がした。
そこには、一本の夜桜が写っていた。心霊写真というわけではない。そこまで鮮明な写真ですらない。ただの、花色の濃い、大きな枝垂桜だ。神社にあるものなのか根本には囲いと白い幣のようなものがあった。それだけだった。
『……普段は、写真越しに見るだけなら、怖くはなくて』
言いながらも、汗が額に滲んだ。
『何故?』
『何故って……分からないけど、これ、は』
汗が目に入り、瞬きをしようとして、目を逸らせないことに気づいた。この写真が怖い。怖い、はずなのに、なぜか眼球を縫い留められたように、動かせなかった。
『何が怖いのですか?』
男の声が、やけに冷たく響く。
『さ……く、ら?』
写真に写っていたのは、果たして本当に桜の木だっただろうか?
『…………ふ』
それは笑みだったのか分からない。とにかく、その小さな息の音を聞いて、ふと緊張が解けたのだ。
『……あの、俺、やっぱり帰ります』
『まだ時間はありますが?』
『すみません』
『ああ、きみ……』
返事を聞かずに、背を向け目は伏せて、相談室から逃げ出したのが、一週間前のこと。
*****
……なぜあのときのカウンセラーが、ここにいる?
響があのカウンセリングを受けたのは初めてだ。もちろん住所なんて明かしていない。追けられていたとしたら、先回りしてドアの前に立てるはずがない。そもそも目の前の男は、本当にあのカウンセラーだろうか?
……そんなことはどうでもよかった。響は、男の言葉をゆっくりと繰り返す。
「『良いお部屋ですね』……?」
男の手元には、一本の鍵が握られていた。その根元には、見覚えのある猫のストラップ。
響はすぐに自分のバッグを漁った。無い。……無い。外出時に確かに持ってきたはずの鍵が、消えていた。
つまり、この男に、いつの間にか鍵を盗られていた。
「……返せ」
それ以外に何も言えなかった。
男は響の様子を面白そうな顔で見ていたが、
「もしかして、この場を乗り切る方法を考えていますか?」
と笑顔で言った。
実際には響にはそんな考えはなかった。警察を呼べるほどの隙を見せてくれそうな相手には見えない。そもそも、今、こうして相対しているだけで精いっぱいなのだ。襲われたらどうする? 相手の目的は? 鍵は何とかなるとしても――
「合鍵。ベランダのマットの下」
響の思考を破ったのは、その涼しげな声と二本目の鍵の入った小さなポリ袋だった。
「お部屋探索のついでに見つけました」
「……」
近所の人に助けを呼んで捕まえてもらい、鍵を人質にされても合鍵がある。そんな、まだ浮かんでもいなかった考えが、崩れた。
「ついでに言えば」
三本目。
男は真新しい鍵を、出した。
「私の作った合鍵もありますよ」
「……」
「入れていただけますね? ……いえ、失礼」
男は響の肩を掴む。響は振り払おうとしたが、すぐに抵抗をやめた。
「私があなたを入れて差し上げましょう」
そう言う男の黒いシャツの袖口から、紅い茨が一本、飛び出た。毒々しい色の、柔らかそうな茎だ。驚くより前に、マジックのように一瞬で響の首に巻き付く。棘は刺さってこそいないが、刃物を押し当てられた時のように肌を押しており、少しでも動けばどこかの棘が刺さりそうだ。
(牙をむいた毒蛇、みたいだ……)
男は動きどころか息まで止めた響をそのまま引きずって、部屋に入っていく。幸い、連れられる衝撃では棘が刺さり込みはしなかった。ただ、だからといって、抵抗は、できそうに、ない。
男は玄関まで入ると立ち止まる。ドアを閉めて、響をそこにもたれかけさせると、そこでようやく首の茨が、ずるりと解けた。生きて動く触手のように蠢いて離れる。棘が全て離れてようやく、響の喉を息が通る。
「はぁ……」
それは奇妙で恐ろしい光景のはずだった。しかし響は、叫び声一つあげず、ただ、男を睨んだ。
「きみ、悲鳴あげませんね」
「……その植物、どっかにやれないのか」
「ああ……きみはもともと、『植物』が怖いんでしたね」
桜の木に感じる恐怖と、同じものだから。
「今更、そんなもの一本で喚かないよ。むしろ、あんたが怖い理由が分かって少し安心してる。人間まで化け物に見えるようになっちゃおしまいだからな」
小さい頃から、ずっと悲鳴は抑え込んでいた。普通の人が雑草に悲鳴を上げないように、普通に、ふるまえるように。常人を装えるように。
「……面白い」
男は手を打った。
「あ、トラブルを避けるために言っておきますね。警察に電話するのはお勧めできません。具体的に言えば、私の姿が警察には見えないのであなたの主張が通りません」
「な」
「私は『ニンゲン』ですから」
人間、と言ったようには、聞こえなかった。
「っと、そういえば忘れてました」
動揺する響の耳元で、男が錠をかける音がした。
取り返しのつかないところの錠が、もう引き返せないと、落ちた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる