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本編

第一話 入学式

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   拝啓、前世の私。
   今世こそは、長生きしようと体を鍛えていたのに、それが仇となってしまったようです。
    なんとこの度、無能クズ兄が逃げた変わりに、一年間、第二王子殿下の護衛をする事になったのです。

   それも、私が兄に変装して·····。
   今日から私は男装騎士になります。


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   面倒ごとはごめんだ。

   それは冬の雪が溶け始めた季節。

   女性にしては背が高く、筋肉質な黒髪紫眼の少女が、男性でさえも扱いが難しいとされている大剣を使い、何度も、何度も、素振りをしている。


   私、ルスキア・アイーシャは今年15歳になった。5歳の頃から剣をならい初めて早10年。前世の記憶を取り戻したその日から、私は、ただひたすらに強さを求めた。

   それは一重に長生きする為に。

   断じて、危険な場所に身を置く為では無い。


   それなのに───。

   まさかこの国の宝。王子様の護衛を任されてしまうとは·····。また早死にしてしまいそうで怖い。


「お父様も正気なのだろうか。確かに私はお兄様よりは強いかもしれないが、それでもやはり、男性とは体の作りが違う·····。すぐにバレてしまわないか·····はぁ、気が重い·····。」

   ブツブツと不安を呟きながらもアイーシャの剣はブレない。そして、その今日も今日とて美しいアイーシャを、陰ながら見守る使用人たちにアイーシャは気づいていない。

「とは言え、一度引き受けたことを途中でほおり出すのは気分が悪い·····。はぁ、やるしか無いのか·····」

    一万回の素振りを終えたアイーシャは一度汗を拭い、剣を武器庫に戻す。その一連の動作を見た使用人たちが思わず「素敵·····」と、声を漏らした。

   その声にアイーシャはすぐに振り向くが、できる使用人達は瞬時に隠れる。しかし──。

「何をしているんだ?」

「アイーシャ様ッ!!」

   すぐに見つかった。


   アイーシャは自分の魅力に気がついて居ない。


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   そして、あっという間に時は流れ。

   ダイヤモンド王立学園の入学式。本来であれば、通う予定など無かった、実力主義の名門校。

   兄の代わりに、表面上は殿下の学友として、裏では常に気を張って身を守るように言われているアイーシャは、腰まであった黒髪を耳の下辺りで適当に切り揃え、男性の制服を来ている。

   女性の姿の時は美しいと言われるアイーシャでも、男性と女性とで美醜基準が違うこの国では、一気にブサメンに変身だ。


   すぐにバレてしまうのでは無いかと思うアイーシャとは裏腹に、周囲はブサメンには興味が無いとでもいうかのように、アイーシャを避けて通るだけで、目も合わせてくれない。

   普段、無視なんてされ慣れてないアイーシャは素直に傷ついたが、寧ろバレにくいポジションなのだから都合が良いと思う事にした。

   それにしても、殿下は何処だろうか。

   てっきり、入学式では壇上に上がって王族らしいスピーチでもするかと思っていたのに全然見当たらない。

   そう思い、キョロキョロと周りを見渡すアイーシャの耳に、くすくすとバカにしたような嘲笑うような声が聞こえてきた。

「スピーチはしないと思っていたが、まさか入学式自体、来ないとは·····」

「くくっ、いやいや、人に見せられる顔してないんだから、そりゃ、引きこもっていたくもなるだろ」

「そういや聞いたか?  フランシア殿下と言えば、また婚約破棄されたらしいぜ」

「あ!俺もそれは聞いたぜ!何でも、相手の令嬢がフランシア殿下を見て倒れたんだろ?  ぷはっ、どんな顔してりゃ、相手を気絶させられるんだ?」

「え?  そうか?  俺が聞いた話は別だったが·····」

「皆の者、静かに───」

   確かにこの国は美を重んじる国だ。
   しかし、自国の王子に対して、なんて事を言うんだ!と、アイーシャが彼らに声をかけようとしたその時、体育館に学園長の厳かな声が響き渡った。

   体育館の中は一気に静まり返った。

「フランシア殿下、新入生に挨拶を·····」

   そして、その一言でまた体育館がざわついた。

「おい、嘘だろ·····来てるのか·····?」

「うわっやべ、聞かれてないよな、?」

「やだっ、わたくし、殿下の顔は苦手ですのに·····」

「私もですわ」

   それは、男性も女性も関係ない。皆が殿下の登場に批判的で、顔を背けるものも多い。そんな中、アイーシャはこれから自分が仕える相手である殿下の顔をよく見ようと目を凝らす。

「えっ·····?」

   すると、強ばった顔をした金髪碧眼の天使が壇上へと登ってきた。

「皆さん入学おめでとうございます───」

   天使は声も美しいのか·····。

   アイーシャはこの場でただ一人、顔を真っ赤にしてフランシア殿下を真っ直ぐに見上げていた。



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