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第三話 常夜は夢幻
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夢を見ている、と自覚する。
幻に包まれているかのごとく不鮮明で儚い夢。場面は、前後の文脈を置き去りにして突然始まる。
いつもの図書館の四人がけの閲覧席にて、二十歳くらいの女の人と向かい前に向かい合わせで座る茶髪の少女。
あれ? これ、私だ。私自身の小さな頃の記憶だ。昔のことなんて普段は忘れているのに、心の奥深くでは憶えているのだろうか。
女性は亜麻色の髪をポニーテールにしていて、薄い青色の瞳を伏せながら、万年筆で紙になにか言葉を書き付けている。そして、それを待っているのが私だ。この時間が意外と好きだったように思う。私のために誰かが行動してくれてるんだ、という照れくささ混じりの幸せに浸れるようで。
書き終えた紙に手を添えて、読みやすいように私の方へ向きを変えてくれる。私は身を乗り出して、声を発せない彼女の書いた文字を静かに読む。
『ぼくがそうさせません。もしもう一度溺れかけたとしても、必ず貴女を救い出しますから。死なせはしませんから』
約束? と拙い口調で確かめる私。彼女は――フルーレさんはふわりと笑むと、さっきの紙の続きにこう綴った。
『約束です。必ず貴女を護ります』
その短い文章を読み終わってから私が顔を上げたとき、眼前に広がるのは真っ暗な自室の天井だった。あのタイミングで夢は終わってしまい目が覚めたらしい。窓の外を見てみれば、まだまだ夜明けは遠いことが窺えた。ああ、でもそうしている間に、さっきまでの夢の内容の記憶は人肌に融ける雪の結晶のように抜け落ちていくのがわかってしまった。
彼女は――今は何をしているのだろう。もう夢幻のように思い出せない、私の命の恩人。
*
常夜は夢幻
*
夢を見ている、と自覚する。
幻に包まれているかのごとく不鮮明で儚い夢。場面は、前後の文脈を置き去りにして突然始まる。
いつもの図書館の四人がけの閲覧席にて、二十歳くらいの女の人と向かい前に向かい合わせで座る茶髪の少女。
あれ? これ、私だ。私自身の小さな頃の記憶だ。昔のことなんて普段は忘れているのに、心の奥深くでは憶えているのだろうか。
女性は亜麻色の髪をポニーテールにしていて、薄い青色の瞳を伏せながら、万年筆で紙になにか言葉を書き付けている。そして、それを待っているのが私だ。この時間が意外と好きだったように思う。私のために誰かが行動してくれてるんだ、という照れくささ混じりの幸せに浸れるようで。
書き終えた紙に手を添えて、読みやすいように私の方へ向きを変えてくれる。私は身を乗り出して、声を発せない彼女の書いた文字を静かに読む。
『ぼくがそうさせません。もしもう一度溺れかけたとしても、必ず貴女を救い出しますから。死なせはしませんから』
約束? と拙い口調で確かめる私。彼女は――フルーレさんはふわりと笑むと、さっきの紙の続きにこう綴った。
『約束です。必ず貴女を護ります』
その短い文章を読み終わってから私が顔を上げたとき、眼前に広がるのは真っ暗な自室の天井だった。あのタイミングで夢は終わってしまい目が覚めたらしい。窓の外を見てみれば、まだまだ夜明けは遠いことが窺えた。ああ、でもそうしている間に、さっきまでの夢の内容の記憶は人肌に融ける雪の結晶のように抜け落ちていくのがわかってしまった。
彼女は――今は何をしているのだろう。もう夢幻のように思い出せない、私の命の恩人。
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常夜は夢幻
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