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最恐ドラゴンが、最恐賢者を慰める時。(2)

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「ファニー。私はなぜレオンを好きになったのだろう?」

「それを俺に聞くんですか?パーティー会場で、一目惚れしたのはアストリッド様でしょう?」

「そうだが……。あの時は私の威圧で、皆は私を避けていたんだよ……な?」

「そうでしたね。アストリッド様の威圧はヤバいですから。俺はドラゴンだったから平気でしたけど、普通の人は近寄れませんよ」

「レオンは平気で近寄って来てたよな?」

「そうですね。見上げたプロ意識ですよねって、そんなわけないですよね⁉︎あれ?そう言えば、レオン様は普通に近付いて来て、普通に会話してましたね?でも、できるわけないですよね?アストリッド様の威圧ですもんね」

「今まで気付かずにいたのが間抜けだったな?」

確かにそうだ!レオン様はあれだけ乱暴そうな男の人たち絡まれていて怪我もなかった。

そしておそらくだけど、アストリッド様の【隠密】も見抜かれているんじゃんいだろう。尾行中にレオン様と何度も目が合った気がすると言ってた。恋する乙女は妄想が激しいと思っていたけど、気付いていて、気付かないふりをしていたのだとすれば……。

「俺が思うに……レオン様は聖女エヴェリーナが召喚した勇者なんじゃないでしょうか?そうでないとあそこまで呪われたりしないと思うんですよ。レオン様もエヴェリーナを恐れてましたし……。それに前に俺が男3人の脳に刺激を与えて気絶させた時に、レオン様と目が合った気がしたんですよ。気付いてたとすれば、それなりの力の持ち主ですよね」

「私と同じ考え……だな……」

「あー、やっぱりそう言う結論になりますかぁ。ちなみに、アストリッド様は召喚された人を還す事はできますか?」

「今は知らない。だが、聖女エヴェリーナが使った召喚術を見れば、解析は可能だ。私のスキル『解析』はレベルMAXだ。よほどの術でもない限り問題ない。解析の結果、還せるかどうかも分かるだろう」

「そうです……か」

「還すべきだろうな。強制的に連れて来られた人間だ」

「それは、本人の意思次第だと思いますよ。俺はなんとも言えないです」

これは困った。この世界の人間なら恋愛を応援しようと思えるけど、無理やり違う世界から召喚された人となると別だ。だって俺だったら嫌だ。優しいお父さんとお母さんにもう会えなくなるなんて、考えただけで泣きそうになる。友達は……いないけど、今はアストリッド様がいる。なんだかんだ言いながら、これから先、全く会えなくなると思うと、寂しいもんだ。

「ファニー。お前は片思いから、恋愛に進むと言った。だが片思いが一方通行だった場合は、なんと言うんだ?」

ああ、アストリッド様が相手を慮る質問をしてきた。あの、アストリッド様が!恋愛が分からないって言ってたアスリッド様が!人を威嚇して、気絶させていたアストリッド様が!そんなアストリッド様が、悲しそうな表情をしている。目にはうっすら涙が溜まっている……ように見えるから不思議だ。
 
「その場合は失恋です。実らなかった恋です」

「…………そう、か」

俺の言葉を聞いたアストリッド様の頬に何かが流れ、光っている。俺は焦る。

「まだ分かりませんよ!だって、レオン様が召喚された勇者とも決まってませんし、それにアストリッド様を好きになって還らないって言うかも知れないし、そもそも還せないかも知れないじゃないですか‼︎」

俺は頑張って励まそうとするが、アストリッド様の涙は止まらない。鬼の目にも涙……なんて冗談も湧いてこない。だって辛そうだ。ポロポロと溢れる涙を拭いもしないでいるアストリッド様は、俺の言葉も耳に入らない。

「アストリッド様……」

「ファニー、お前が読む本ではこう言う時はどうやって、慰めてくれるんだ?」
 
ああ、しかも何この可愛い台詞!あのアストリッド様が弱ってこんな台詞を吐くなんて!明日は雨じゃなくて槍が降る……なんて焦っている場合じゃない!がんばれ、俺!今こそ、恋愛小説を読んだ知識を生かすとき!

「えっと、抱きしめたりするんですけど、良いですか?アストリッド様?」
 
両手を広げると、アストリッド様がふわりと胸に飛び込んできた。ああ、思ったより華奢な体が更に頼りない。

そんなアストリッド様が俺の胸の中で、手を当て泣きじゃくる。

「好きだったのに……」

そんな言葉まで言えるようになるとは……。

俺はアストリッド様が泣き止むまでずっと抱きし続けた。そう、アストリッド様が疲れて俺の胸の中で眠りにつくまでずっと。
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