20 / 33
第20話 かわいいポーズでアピールしたい
しおりを挟む
はっと気が付いて起きたら、ボスがじっと私を見ていた。
さらわれた状況でも寝られる自分の神経は素晴らしいと思う。
だが、寝てしまったのにはわけがある。
いや、睡眠薬飲まされたとか、寝る魔法使われたとか物騒な話ではなく……原因はこの檻なんだけど。
なぜならプラネさんの飼い犬と思われているせいかとても扱いが良い。
檻は少し狭いけど、『居心地を良くしてやれ!』というボスのひと言により、もっふもふのクッションが用意された。更にのどが乾いたらいつでも吞めるように水も用意された。更に更に、なんと枕も用意された。
確かに今の私はポメラニアン。つまり犬。だけどその前は人間だ。枕を使って寝ていた私は、犬になっても枕が恋しかった。
しかも今回用意された枕はぎっしり綿が詰まっていて、少し固く、真ん中にくぼみがある。
そこに顎を乗せると、それはそれは良い感じに落ち着いてしまう。
ふかふかの敷布団に、快適な枕。こうなると人であろうと、犬であろうと寝てしまうだろう。寝てしまうに決まっている!だから敵前にもかかわらずスヤスヤと寝てしまった。きっといびきも書いただろう。
「起きちゃったでしゅかぁ。さっきまでクークー言って寝てたんでしゅよ~」
この赤ちゃん言葉を発しているのは強面のボスだ。部下はいない。
私に快適な寝床を用意させたら、即座に追い出されていた。その後発せられたのがこの赤ちゃん言葉だ。怖いからの赤ちゃん言葉。さすがの私も怖い。
だが、紗枝ちゃんの祖父母も紗那君には赤ちゃん言葉を使っていた。人は幼く可愛いものを見ると赤ちゃん言葉を使ってしまうのかもしれない。私だってもしかしたら、子供か孫がいれば赤ちゃん言葉を使っていたのかも知れない。まぁ生涯独身だったので、ありえない妄想だけど。
だが結婚したいと思った人はいた。浮気されていたけど。
人生でときめいたこともある。良い人なんだけど、と相手にされなかったけれど。
同僚の子供に会ったこともある。赤ちゃん言葉を使っていなかったな。はずかしくて。
うん、何を言いたいのか分からなくなったが、つまりそういう事だ。かわいい生き物相手に人は赤ちゃん言葉を使うのだ!
だから頑張れ、私!ここは犬として尻尾を振って、アピールするのだ。売らないで!虐めないでと!
「ああああああ、なんてかわいい生き物なんだ!こんなかわいい生き物が世の中にいるなんて!さすが冒険者ギルドで唯一のA級ライセンス保持者100年の時を彷徨うもの!奥が深い!」
ボスが悶絶している。奥が深いの意味は分からないが、やはり私はかわいいようだ。
これに関してはそうなんだろうと思う。そもそも高額商品だった私だ。容姿には自信がある。日本にいたときにも若い子にきゃーきゃ―言われていた。
お婿さん候補になったこともある。勘弁してくれと心の底から思ったが。
「くっそー!売りたくねーな。でも部下の手前、売らないとは言えないし。かわいい生き物が好きだなんてもっと言えねーし!」
怖い顔している、悪い事するボスがかわいいもの好きとは、確かに言いにくいだろう。
だが私にこんなモフっとしたクッションを用意してくれるあたり、この組織の人は皆モフモフ好きなのではなかろうか。
「あ~、どうすっか。ちょっとだけ――ちょっとだけなら――――」
ボスがちら、ちらっとこちらを見てる。
この表情は知っている。私をモフモフしたがる人の表情だ。特におじさんとなるとかわいい生き物を愛でるのは抵抗があるのだろう。私もおじさんだったから良く分かる!
つまり今の私のすることは―――!
目をウルンとさせて、じっとボスを見る。
口を小さく開けて、舌をちょっとだけ出す。
首を傾げて、あざといポーズをする。
身体は左右に揺らして、前足は地団太する。
更に尻尾は大きく振る。
「くっ!お前――――――――」
こわい顔のボスも、私の魅力には逆らえないようだ。
そう、これらの姿は犬になった私が編み出したかわいいわんこポーズ。SNSで流行っているわんこのかわいい姿を網羅したものだ。この姿には紗枝ちゃんのお父さんも、膝を屈した。しかもお母さんは「可愛い!」と叫んで、悶絶しながら写真を撮っていた。SNSにアップする為に。そしてそれは過去一番のいいねとなった。
52歳のおじさんがしていたら変態行為で、犯罪で、おまわりさんに掴まってしまうのだが、今の私はかわいいポメラニアン1歳。問題ないはずだ!頑張れ!私!羞恥心を捨てるんだ!
問題はないが、問題はあった。私は自分の浅はかさを恨むことになった。
さらわれた状況でも寝られる自分の神経は素晴らしいと思う。
だが、寝てしまったのにはわけがある。
いや、睡眠薬飲まされたとか、寝る魔法使われたとか物騒な話ではなく……原因はこの檻なんだけど。
なぜならプラネさんの飼い犬と思われているせいかとても扱いが良い。
檻は少し狭いけど、『居心地を良くしてやれ!』というボスのひと言により、もっふもふのクッションが用意された。更にのどが乾いたらいつでも吞めるように水も用意された。更に更に、なんと枕も用意された。
確かに今の私はポメラニアン。つまり犬。だけどその前は人間だ。枕を使って寝ていた私は、犬になっても枕が恋しかった。
しかも今回用意された枕はぎっしり綿が詰まっていて、少し固く、真ん中にくぼみがある。
そこに顎を乗せると、それはそれは良い感じに落ち着いてしまう。
ふかふかの敷布団に、快適な枕。こうなると人であろうと、犬であろうと寝てしまうだろう。寝てしまうに決まっている!だから敵前にもかかわらずスヤスヤと寝てしまった。きっといびきも書いただろう。
「起きちゃったでしゅかぁ。さっきまでクークー言って寝てたんでしゅよ~」
この赤ちゃん言葉を発しているのは強面のボスだ。部下はいない。
私に快適な寝床を用意させたら、即座に追い出されていた。その後発せられたのがこの赤ちゃん言葉だ。怖いからの赤ちゃん言葉。さすがの私も怖い。
だが、紗枝ちゃんの祖父母も紗那君には赤ちゃん言葉を使っていた。人は幼く可愛いものを見ると赤ちゃん言葉を使ってしまうのかもしれない。私だってもしかしたら、子供か孫がいれば赤ちゃん言葉を使っていたのかも知れない。まぁ生涯独身だったので、ありえない妄想だけど。
だが結婚したいと思った人はいた。浮気されていたけど。
人生でときめいたこともある。良い人なんだけど、と相手にされなかったけれど。
同僚の子供に会ったこともある。赤ちゃん言葉を使っていなかったな。はずかしくて。
うん、何を言いたいのか分からなくなったが、つまりそういう事だ。かわいい生き物相手に人は赤ちゃん言葉を使うのだ!
だから頑張れ、私!ここは犬として尻尾を振って、アピールするのだ。売らないで!虐めないでと!
「ああああああ、なんてかわいい生き物なんだ!こんなかわいい生き物が世の中にいるなんて!さすが冒険者ギルドで唯一のA級ライセンス保持者100年の時を彷徨うもの!奥が深い!」
ボスが悶絶している。奥が深いの意味は分からないが、やはり私はかわいいようだ。
これに関してはそうなんだろうと思う。そもそも高額商品だった私だ。容姿には自信がある。日本にいたときにも若い子にきゃーきゃ―言われていた。
お婿さん候補になったこともある。勘弁してくれと心の底から思ったが。
「くっそー!売りたくねーな。でも部下の手前、売らないとは言えないし。かわいい生き物が好きだなんてもっと言えねーし!」
怖い顔している、悪い事するボスがかわいいもの好きとは、確かに言いにくいだろう。
だが私にこんなモフっとしたクッションを用意してくれるあたり、この組織の人は皆モフモフ好きなのではなかろうか。
「あ~、どうすっか。ちょっとだけ――ちょっとだけなら――――」
ボスがちら、ちらっとこちらを見てる。
この表情は知っている。私をモフモフしたがる人の表情だ。特におじさんとなるとかわいい生き物を愛でるのは抵抗があるのだろう。私もおじさんだったから良く分かる!
つまり今の私のすることは―――!
目をウルンとさせて、じっとボスを見る。
口を小さく開けて、舌をちょっとだけ出す。
首を傾げて、あざといポーズをする。
身体は左右に揺らして、前足は地団太する。
更に尻尾は大きく振る。
「くっ!お前――――――――」
こわい顔のボスも、私の魅力には逆らえないようだ。
そう、これらの姿は犬になった私が編み出したかわいいわんこポーズ。SNSで流行っているわんこのかわいい姿を網羅したものだ。この姿には紗枝ちゃんのお父さんも、膝を屈した。しかもお母さんは「可愛い!」と叫んで、悶絶しながら写真を撮っていた。SNSにアップする為に。そしてそれは過去一番のいいねとなった。
52歳のおじさんがしていたら変態行為で、犯罪で、おまわりさんに掴まってしまうのだが、今の私はかわいいポメラニアン1歳。問題ないはずだ!頑張れ!私!羞恥心を捨てるんだ!
問題はないが、問題はあった。私は自分の浅はかさを恨むことになった。
10
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~
中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話……
雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。
その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、
やがて人外の能力を持つに至った。
父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、
運命の人と出会い、生涯の友と出会う。
予言にいう「覇者」となり、
世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。
転生要素は後半からです。
あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。
------------------
最初に……。
とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。
まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。
作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。
汗顔の至りであります。
ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。
全108話、約31万字くらいです。
ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
魔法学のすゝめ!
蒔望輝(まきのぞみ)
ファンタジー
陸と海、自然に恵まれたとある惑星――
この星では、科学とともに魔法学が発展している。同時に、魔法を使える者とそうでない者との確執が絶えず生まれていた。
魔法大国の首都ペンテグルス、その外れに住むシュウ・ハナミヤは、日々の生活のためアルバイト三昧の生活を送る。しかし、偶然にも世界随一の魔法学専門学校《セントラル》の特進クラスに入学することとなる。
そこは、一流の魔法使いが集う女の子だけのクラスであった。
本作品は「小説家になろう」様でも掲載中です。
ncode.syosetu.com/n8296hi/
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる